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写真で辿る旅行記 vol.1 カンボジア 2011年

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#写真で辿る旅行記

カンボジア・アンコールワットにはこれまでに2度行ったことがある。

1度目は2011年、タイに出張中の週末を利用した。当時はまだ英語も十分に話せなかったので、カオサン通りのメイン通りから少し入ったところにあるローカルの旅行会社でバンコク-シェムリアップの航空券を予約したときは、とても緊張した。スマホも普及し始めていたこの時代に、おばさんが黒背景のコマンドライン型インターフェイスのパソコンで予約してくれたことも、緊張の一因だったけれど。

アンコールワットは夕陽よりも朝日が美しい。それには明確な理由が一つある。正面が西側を向いているのだ。アンコール遺跡群はほとんどが東側を正面にして建てられているのだが、なぜかその象徴とも言えるアンコールワットは西側を向いて建てられている。だから、日が昇るときはちょうど遺跡の背中側から空が少しずつ明るくなっていき、遺跡がシルエットのように浮かび上がる。

早朝にホテルを出ると、辺りはまだ完全に闇の中。シェムリアップの街中からアンコール遺跡群に向かう道は熱帯雨林の間に開かれたような道なので、黒い森が左右から迫ってくるような印象があり、少し不気味な感じがする。ようやくアンコールワットの入り口に着く頃、空の色が黒から濃紺に変わり始める。

参道は門から遺跡内部の入り口まで真っ直ぐに伸びている。その参道から撮れば、左右対称の美しい遺跡の写真になる。でも多くの人は別の場所から写真を撮る。

実は参道の左右に小さい池があり、その池の手前から写真を撮ると、朝焼けのアンコールワットが池の湖面に反射した姿が撮れるのだ。

この写真はまさにその池の手前から撮った。紺色の空が刻々と表情を変えていく、その全ての瞬間が美しくて、ずっとファインダー越しにシャッターを切り続けていた。あっという間の出来事だった。

さすが朝日が一番美しいと言われるアンコールワット、いつもこんな素晴らしい姿を見せてくれるのかと思ったまま、迎えた2回目の旅行。アンコールワットが初めての友人を連れて意気揚々と前回と同じようにタクシーに乗り、前回と同じ池の手前に陣取った。

そして、空が明るみ始めシャッターを切り始めたのだが、何か物足りない。

それは空気に反射された太陽光の色や、空にかかる雲の形や、風で揺れる湖面など、ささいなことが積み重なった結果としての、全体の印象の弱さだったのだろう。

その時の写真も決して悪い写真ではない。ただ、1度目のこの写真があまりに美しく、「またこれを見たい」と家に飾った写真を見るたびに心に積み重なってきた期待と比べると、どうしても見劣りがしてしまうのだ。

初めて訪れた旅行者に、アンコールワットがとっておきの歓迎をしてくれた、と今は考えるようにしている。アンコール遺跡にはまた行きたいが、アンコールワットの朝日を見るかは分からない。

写真を辿る旅行記 vol.1 カンボジア 2011年

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