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写真で辿る旅行記 vol.7 香港 2017年

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#写真で辿る旅行記

この香港旅行は最初と最後にトラブルに見舞われた。まず往路。折しも台風が接近していて、香港エクスプレスのフライトが飛べるかどうか、前日夜の時点でも微妙な状況だった。午前中早くのフライトだったので、早朝に起きて香港エクスプレスのサイトを確認すると「Cancelled」の文字。

ある程度覚悟はしていたので「やっぱりだめか」という気持ちだった。ホテルの予約を一泊分キャンセルをしなくてはと思ったが、時間が遅いフライトなら飛べるのではと思い検索してみると、何とキャセイパシフィックのソウル経由の便が運行していて価格も片道3万円ほどと安い。

トランジットで日をまたぐので香港のホテルはいずれにせよキャンセルになるが、ソウル観光もできるし良いだろうと思いその場でホテルと共に予約。こうして、出発当日になってソウル観光が決まった。一日で十分ソウルを楽しんで、翌日早くには香港に無事到着した。

沢木耕太郎の『深夜特急』に描かれた香港がずっと気になっていた。だいぶ昔の描写だから今は全然違っているだろうと頭では理解しつつ、心の一部は少しでもあそこに書かれた活気ある香港が体験できないかと期待をしていた。

九龍、香港島ともに見て回った。そこで見た香港は、大きなホテルや商業ビルが立ち並ぶ街だった。九龍と香港島を結ぶスターフェリーから見る夜景は美しかった。ピークトラム(ケーブルカー)で登ったヴィクトリア・ピークから望むヴィクトリア・ハーバーと対岸の九龍の景色は開放的で気持ちよかった。アジアの貿易都市として発展した街の外観は、聞いていたとおりシンガポールともよく似ていた。ホテルも快適でリラックスできる良い旅行ではあったが、旅としての刺激は弱いと感じていた。

何日目かに、観光客向けにキレイに整えられた場所ではなく、ローカルの食堂のようなところに行ってみようと思い、ガイドブックで調べた街中にある老舗の食堂を訪れた。

そこは見るからにローカル。午前中早い時間だというのにどんどん地元の人がやってくる。中に入ると円卓と椅子が所狭しと並べられていてほぼ満席だ。

何名かと聞かれて2名だと指で示すと、6人がけの円卓の中で2席だけ空いている場所に通された。通してくれた女性が飲み物を選べという風にメニューを差し出してきたので、漢字だけで想像して適当に選んでみる。やがてポットに入って出てきた中国茶は美味しかった。

ガイドブックで「店員がワゴンで運んでくる皿の中から好きなものを取る」方式だとは調べていた。確かにおばちゃんがセイロを山積みにしたワゴンを押して、狭い机の間を回っている。ワゴンに近づくとおばちゃんがセイロの蓋を取って中身を見せてくれる。気になったものを指で示すとセイロを皿に乗せて渡してくれる。そしてその後、手を差し出してくる。

意味がわからず戸惑っていると、隣の席のおじさんが「これだよ」といった表情でテーブルに置かれた紙を見せてくれる。それで、皿を受け取ったときに伝票に数を書いてもらうのだと分かる。

料理はどれも美味しかった。一度仕組みを理解すると、机の間を回るそれぞれのおばちゃんのワゴンには何が載っているかを推測し、これだと思ったワゴンに向かって蓋を開けてもらい、それがイメージ通りだったら取ってくるという、一種のくじ引きのような感覚が楽しくて、つい食べすぎてしまった。

旅行をするときはこういう小さな冒険があったほうが楽しい。そして記憶に残るのも、綺麗なホテルや景色ではなく、こういう小さな冒険だ。『深夜特急』の世界はもう体験できないけれど、そこで筆者が経験したような未知と出会う高揚感、出会ったものが自分の波長と合ったときの喜び、そこにどっぷりと浸かってしまう自分、そういったものは一歩踏み出せばいつでも体験することができる。

そして帰国の日。再びの台風。ほとんどのフライトが遅延となるかキャンセルされ、空港は足止めを食らった人たちで溢れていた。幸いにも私のフライトは遅延だったので手続き等は不要だったが、約12時間空港で待たなくてはいけなかった。翌日がまだ休暇だったことに感謝しつつ、長い時間を過ごしてようやく帰路についた。

写真で辿る旅行記 vol.7 香港 2017年

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