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孤立させない1on1プロジェクト|戸田市・学校経営アドバイザーの実践 

埼玉県の戸田市教育委員会。公立小中学校の取り組みが“先進的”と言われ、話題になることも多い。ただこの記事では、戸田市が実施する数々の”先進的”な取り組みは取り上げない。取材したのは、校長を退いた後、「学校経営アドバイザー」として校長や教職員の伴走支援に心を砕く小髙 美惠子(おだか みえこ)さんと市教委が「縁の下の力持ち」的存在として取り組んでいる内容について。
令和6年度は、①1on1プロジェクト、②根拠ある省察的フィードバック、③研修観の転換に向けた伴走支援、の3つの柱に注力しているという。詳しくお話を聞いた。

戸田市教育委員会HP(https://www.toda-c.ed.jp/)よりキャプチャ

孤立させない、1on1プロジェクト

―まず始めに、学校経営アドバイザーというものについて教えてください。
戸田市の学校経営アドバイザーの役割とは、学校における学校経営などの支援、21世紀型スキル育成などを推進するカリキュラムマネジメント支援。言ってしまえば、それだけです。特に何をしてくださいという細かな指定がありません。一般的には、管理職を含めた教育職を終えた後に就く立場ということで、ともすると、待ちの姿勢、支援要請があって初めて動く、ということになってしまいやすいです。でも私は現場を見ないといけないと強く思っています。それもあって今日お話しする1on1等々に取り組んでいます。

―なるほど。背景にある課題意識を教えていただけますか?
課題認識の一つは、この数年、大学を卒業して新規採用となった人たちへのケアがあります。彼らは大学生活の多くの時間をコロナ禍で過ごし、人間関係を構築することに慣れていなかったり、HELPを出すのを躊躇する傾向があるようです。例えば職員室で席が近い人にちょっと話しかけて教えてもらうとか、そうしたことが難しいようです。

一方で、職員室の雰囲気も働き方改革の社会的要請の中で、決められた時間までに帰ろうとして事務作業に追われている姿が目立ってしまい、お互いに声をかけづらくなっているという一面もあるとは思います。そうした中で孤立してしまう人もいます。

他にも、教頭や主幹教諭の管理職としての意識を高め、自ら学び続ける姿勢を育てることが急務となっていたり、管理職の数名が互いに潜在能力を引き出しあうチーム管理職という意識を醸成する必要があったりします。

―では1on1プロジェクトについて詳しく教えてください。
概要は次の通りです

【対象者】
・管理職、校長、教頭、主幹教諭、研究主任等
・臨時的任用職員、任期付き職員の1年目~3年目
・異動者、ひとり立ち教員、一人職(養護教諭、栄養教諭、事務職員等)
※埼玉県では、初任から5年か6年で他市町村に異動となることが多い
【形態】
・授業参観+対話型
・対話(対面)型
・対話(オンライン)型
※初回は必ず対面、対話時間は30分程度
【内容】
・学校経営ルーブリック等をベースとした対話
・戸田市の重点施策に基づく指導助言
・人間関係の課題相談
・ライフステージやキャリアアップについての対話
・体調やメンタルの健康確認、他

―対象者が幅広く、話題も多岐にわたりますね
そうですね、業務内容についても話しますが、個人にフォーカスした話、本人が抱えている悩みごとや心配ごとなどを傾聴することを重視しています。
周りからのサポートが比較的得られにくい人も重要です。例えば2年目3年目。初任者研修は非常に手厚いんです。国も県も市も、指導教員をつきっきりで付けてくれて観察やフィードバックをして一年間、手厚くケアしてくれます。それはいいのですが、2年目になるとそうしたサポートが大きく減ります。メンタルヘルスとしては見過ごせない時期です。

―対象者を合計すると100名以上になりますよね、なかなか大変そうですが…。
そうですね。1on1を行っているのは今は私一人です。校長、教頭、主幹教諭、異動者、臨採1年目、などは必須としていますが、それ以外は管理職と一緒に対象者をすり合わせて決めています。4月に18名の校長との1on1が全員終わり、5月6月には臨任1年目や異動者との1on1をしています。7月から教頭や主幹教諭との1on1を進めていきます。
固定的に「必ずこの頻度で行う」と決めているものではなく、その人が少し心配な状況であれば「また来ますね~」という形で複数回の1on1をすることもありますし、その人自身で自走していけそうであれば次回日程を決めずにいることもあります。

―異動者に対するサポートというのもあるのですね
埼玉県内の他の市から戸田市に異動された際、戸田市独自の教育理念や教育方法、例えばPBLや非同期の学び等について、市が実施する研修もあります。それはいいのですが、現実的に問題になるのは、本人が自信を失わずに、現場で活躍できるかどうかです。他市異動をするのは採用後5年か6年の人が多く、学校や人によっては学年主任や生徒指導主任など重要な役職を経験し、自信をもって戸田市に来る方が多いです。ただ戸田市には他にないような取り組みが数多く進められています。はじめから戸田市に着任した年下の先生がすごく活躍していることもあります。

ーたしかに戸惑うことは多そうです
そんな中、周りからは、前任校の役職や経験年数を一見して問題ないよねと気にされなくなったり、遠慮して声を掛けられなかったりしてしまう。結果そうしたギャップに戸惑い、一人だけで抱えこんで、新しい学校にうまく馴染めないと悩まれる人もいらっしゃいます。しゅーんとしぼむようにエネルギー不足になってしまう人も。経験年数5年6年目、実力のある貴重な人材がそのように消耗していってしまうのは本当に損失。そういう問題が大きくなる前に1on1で話を聴きたいと思っています。

本人だけでなく職員室にも変化が生まれる

―実際にやってみての手ごたえはいかがですか?
社会人一年目、教員一年目の人たちと接すると、すごく自信を持てていない方が多い印象があります。例えば、強みは何ですか?と問いかけても、なかなかはっきり答えられない人が一定数います。先輩のようにうまくできない、自分はダメだって、まじめな人ほど思い込んでしまいます。そうなると、授業崩壊や学級崩壊につながりかねません。その危うさを早めにキャッチして対応できるという面もあると思います。

―何も手を打てないと、本人が思い詰めてしまいかねない…と。
1on1で話していく中で、自信を持てるようになると感じます。一年目の最初は、授業スキルが少々足りないのも仕方がないんですよ。何十年やってもうまくいかないことはたくさんありますから。だから、できなくて当たり前なんだよ、周りの人に聞いてみようよ、人に頼っていいんだよ、ということを分かってもらえるようにすることが、この時間の目的ですね。そうすることにより、職員室の中の人間関係が良くなることもあると思います。

―その人に変化が起きるだけでなく、職員室の人間関係にも影響があるというのは、どういうつながりでしょうか?
私と話すまで自信を持てていなかった人に、今までどうしていたの?と聞くと「周りの人に聞けない」「相談できない」っていうんですよ。繊細で真面目ということなのか、そうやって人に頼って解決した経験が少ないのか…。一方で、誰かと話したいという気持ちがあるなら、本人の了解も得て、教頭先生や主幹教諭にお伝えして、学年主任や周りの先生と話すきっかけができるよう、さりげなく声をかけてあげてほしいということを裏でお願いしたりもしています。

―なるほど。必要なら、さりげなく介入することもあるのですね
そうですね。私が1回や2回、話を聴いただけで劇的に改善するということではなく、私との1on1をきっかけとして、周りの人からのフォローがしやすくなるというか。周りの人とその人との距離感が分かる感じだと思います。

実はもう一つ別の問題として、管理職の方もどんな風に声をかけて、どんな風に話を進めていったらいいのか分からない、ということがあります。年度初めの4月、非常に忙しく人の入れ替わりが激しい中で、一人一人の教職員との距離感をどう縮めていくかに管理職も頭を悩ませます。

例えば、40代50代の男性の管理職から、20代の女性の教員に対して、ワークライフバランスについて話そうとしても、〇〇ハラのように言われてしまうんじゃないかと、敏感になる人がいるのも事実です。それでもし関係性が悪くなったらお互いに苦しいじゃないですか。そんな状況で、私のような外部の人間が、お節介を焼くような雰囲気で入っていき、徐々に職員室の人間関係がつながっていくようなことが起きるといいなと思っています。

―お話を聞いていると、小高さんのお人柄も大いに関係していそうだなと思ったんです。小高さんになら正直に話してもいいかなと思わせる何かがあるというか。
たしかに校長時代からそうでした。こちらから聞いたわけでもないのに、若い教員がプライベートな話を私に持ちかけてくることもしょっちゅう。何でしょうね。普通のおばさんぽいからでしょうか(笑)

まじめに言うと、校長や管理職が偉いわけじゃないですよね。管理職だけで学校が運営できないのは当然ですし。やっぱり基本的に学校や組織はメンバーみんなが一緒にやっていくものだと根っから思っているので、自分としては自然なことです。校長の時もそうでした。教職員のみんなが一生懸命働いているおかげでこの学校がどんどん良くなっていく。本当に皆さんに感謝感謝という気持ちで、ただ方向性だけはきちんと示して、困ったことがあればどんどん頼りに来てください、というスタンスでいましたね。

―そんな風に自然に言える人は少ない気がします。権威性を出してしまったり、守りの姿勢になってしまったりする人が多いと思います。
組織ってやっぱりメンバーがそれぞれ自分の強みを出し合って、弱みを補完しあって作っていくものだと思っているので。校長の責任の本質は、何かあったときに謝る人だと思います。メンバーの誰かが失敗してしまったときに責任を取るのは私です。でもみんなが一生懸命頑張ってくれているから普段から感謝しています。そういう考え方ですね。

(続きは後編へ)


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