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校内の教員インタビューから色々な会話が始まる。年代や役割を越えたつながりの芽生え。

今回、関西地方のとある公立小学校にお勤めの先生(Hさん)にお話を聞きました。子育てに伴う退職を経てから現場に戻り、ご本人ならではの関わり方を試してみるなかで、新たな気づきがあったようです。


「異世界につながる住人」を意識してみたら

-現在の働き方やご担当などについて教えていただけますか?
以前は常勤の教員として公立・私立中学校に勤めていましたが、子育ての関係で一度退職し、少し余裕の出てきた今年、公立小学校の非常勤講師として現場に戻りました。担当としては、3年生から5年生の外国語の教科担任をしていることと、学年団に入り他の学級のサポートに入ることもあります。短時間勤務をしていて、教科指導や学級指導以外での役割は限定的です。年齢的には中堅ですが、あまり重い仕事は無い状態ですね。

-そのなかでも特に大切している役割はありますか?
ちょっとしんどいクラスにサポートで入らせてもらっていて、以前は、私も生徒指導しないと!という気持ちがあったんですけど、ちょっと落ち着いてきたし、担任の先生も少し余裕が出てこられたので、私は異世界につながる住人(※1)みたいな感じに、あえてぼーっとした感じでいるようにして、子どもたちが話したかったら話しかけておいで、みたいなスタンスでいこうと思ったんです。そうしたらけっこう面白くて、私が教室で手元の作業をしていたら、子どもがバーっと駆け寄ってきて、思ったことだけバーっと喋って去って行くんですよ。そんなことが起きてすごく面白いなと思っています。こんなポジションもありなんだなって。

(補足※1)教育哲学者・苫野一徳さんのオンラインゼミで、文筆家兼武道家の内田樹さんを招いた勉強会が24年2月に行われた。そこで出た話のひとつは、学校には『異世界につながる住人が必要』ということ。
学校や教室がしんどい子にとって「保健室登校」が一定の役割を果たしている。その理由は、学校独特のヒエラルキーの中で、保健室は保健・医療の原理原則があるため、そのヒエラルキーの影響を受けにくいからと内田さんは考察されていました。学校独特のヒエラルキーとは違う『異世界につながる住人が必要』というお話です。Hさんもこの勉強会に参加していました。

ー駆け寄ってきた子どもから、例えばどんな話があるんですか?
例えば、私が外国語の授業案を英語で書いていたらそれを見て驚いてコメントくれたり、時には友だち関係で困っていることなどをポロっと言う子もいます。やや深い話になることもあって、子ども同士や子どもと先生との関係性が見えてくることもあります。表向きに言いにくい、言っちゃいけないとされているような話でも、本音が出せる時間も必要なんだろうなと考え始めています。

中堅やベテランにインタビューして通信で共有

-対話につながるような取り組みをなさっているとお聞きしたのですが、どんなことをされているのですか?
「今週のプロフェッショナル」と称して、中堅・ベテランの先生にインタビューを行い、記事にして職員室内の校内通信という形で作って共有しています。A4の用紙に2~3ページくらいで作成し、オンラインの共有スペースで閲覧可能にしています。勤務校の中の教職員向けです。

概ね好評で、楽しみにしていますよとか、次はあの先生がお相手ならこんな質問してみてください、という好評の声をもらったりしています。これをきっかけに横のつながりができたらいいなと思っています。

何より私が一番勉強になっています。色んな先生の実践の裏にはこんな考えがあるんだなとか、子どもたちにこんな風に育ってほしいと思ってるんだなとか、だからこういう支援をされているんだなとか色々見えてきて、すごく面白いと思ってやらせていただいています。

ー特にどんなところが面白いですか?
そうですね、ミステリー小説を読んでいるみたいな感じです。符合があっていくという感覚です。その人の実践や発言に、どんな背景や考え方があるのかを知れるので、とても面白いというか興味深いです。

先日も、腕のあるベテランの先生にお話を聞いたんです。少し前に、学級経営の苦手な若い先生に厳しく指導していたこともある方なんです。聞いてみたら符合するところがすごくあったんです。その方、本当にすごく努力されているんです。教材研究に1時間、2時間もかかるけど、深く掘り下げたいし、子どもたちに力をつけさせてあげたいし、誰も取り残したくないとおっしゃっていました。そうやってすごく努力されているから、若い先生が教材研究をしている様子が見られないことにすごく憤りがあったみたいですね。授業を研究して良いものにすれば子どもたちは自然とついてくる、そんな風におっしゃっていましたね。

-なるほど!ベテランのその先生が、そんなに努力をされているなんて周りからは見えていなかったんですね
たぶん若い先生からしたら、どういう風に教材を掘り下げたらいいのか、よく分からなかったのかもしれません。だから私が代わりに聞いてみたわけです。そしたらすごく面白かった。国語ってこうやって掘り下げるんだ!という学びもありました。経験の少ない先生から見ると、先輩方のやり方を知って学び自分の実践のヒントにできそうですし、中堅ベテランの先生からしたらご自身がやっていることの言語化や棚卸になりそうで、色々な効果がありそうですね。

掘り下げて聞かないと出てこないことも多い

ーどんな理由でこの通信を始めようと思ったんですか?
まずは私が知りたいなと思ったんです。最初、とある先生にお話を聞いてみたらすごく面白かったんです。これを他の教職員にもシェアできないかなと思って他の先生に相談したら、それいいやん!ってなって進んでいった感じです。でも、私自身が、こうやってすーじーさんに話を聴いていただいていたことも、無意識に影響していたかもしれません。(※2)

それに、インタビューされる方も、すごく生き生きされるんですよね! 私自身も聴いてもらう時間がすごく大切な時間なんです。同じように、聴いてもらうだけで、それこそ内田樹さんが言うように「歓待し、承認し、祝福すること」が実感できるんじゃないかなと思います。(※3)

(補足※2)Hさんは、23年秋に「聴き合う学校」をモニター体験していただいていました
(補足※3)内田樹さんはかねてより「教師の仕事は、子どもたちを歓待し、承認し、祝福することに尽くされる」とおっしゃっています

-最初は、紙面にまとめたり校内でシェアするつもりはなかったんですね?
最初はちょっと違いましたね。当時、困っている先生のサポートでクラスに入ったのですが、私も小学校の担任経験が無いからほとんど貢献できないなと思って、それなら色々な先生の実践を見に行ってみたら?って、その困っている先生に助言したんです。でもその困っている先生は余裕が無いから見に行くこともできなくて。それなら私が代わりに聴きに行ってみようと始めてみたんです。そこで始めてみたら、思いのほか、私が一番楽しいんじゃないかと思うくらい楽しかったんです。聴かれた方もすごく喜んでくださって、これは続けようと思いました。

-そうなんですね。面白いきっかけですね。
一番最初にお話を聴いたベテランの先生のお話も面白くて。高学年の女子との接し方にも実は小さなコツがあったんです。高学年女子は、比較的こういう傾向があるから、こういう点には特に配慮が必要だよって。それを読んだ若い先生が取り入れてみたら少しずつ、女子とその先生の関係性が良い方向に変わり、結果的にクラスの雰囲気も良くなっていきましたね。

-なるほど、そうした小さな工夫は聞いてみないと分からないですね。
これまで何回かやってみて分かりましたが、皆さん無意識にやっていることも多くて、掘り下げて聞かないと出てこないことも多いんですよ。そして、そんな風に、一見するととても小さな工夫が出てきて、それを若い先生が取り入れてみたから、クラスが良くなったんですよね。それ以前に先輩教員からアドバイスされていたこと、例えば板書計画の方法や発問の方法などは、困っていた先生にとって、やや難易度の高いものだったのかもしれません。それ以前のちょっとしたことや、児童との関係づくりのところで苦労していたのかもしれませんね。

-今まで6号を制作されたとのことですが、これまでやってきて振り返ってみてどうですか?
思った以上に、ミドル層の30代の先生たちが色々な会話を始めているのが面白いなと思っています。「あの先生のこういうところが良いよね」とか「やっぱりそれはそうするのが良いよね」とか、意外なところに波及していて驚いています。今後、これを元にもっと突っ込んだ話、それこそ対話ができていけばいいなと思いますね。

この取り組みをする前は、その困っている先生と私の一対一でやっていただけなんですけど、そもそも個人個人の先生たちがもっとつながる取り組みをしたいなあとも考えていたので、この変化がとても嬉しかったです。

リラックスして話し合える場を開きたい

-今後の取り組みも何かお考えがありますか?
来年度の計画について研究主任の先生と雑談したのですが、ミドルリーダー層がリラックスして話し合える場や勉強会を開きたいねという話をしたんです。堅苦しい話ではなくて、ちょっと肩の力を抜いて、例えば「あの先生の教室はいつも綺麗だけどなんでだろうね」とか「あのクラスの子たちはいつも楽しそうに授業受けているけどなんでだろうね」とか、そうした軽い会話から話ができたらいいなあっていう風に思いますね。

-カジュアルな場で相談や質問ができる雰囲気はいいですよね
中学校から小学校に移って驚いたのは、勤務校が特別なのかもしれませんが、年に4回くらい授業研究というのがあることなんです。まず、研究授業の前に指導案を作成して、事前の回にそれが本当に有効かを検討して、手直しして授業をして、そのあとにまた事後の検討があって…。というまとまりを年に4回くらいするんですよ。すごく労力がかかりますよね。そしてそれ以前に、子どもたちの実態を見ると、良いクラスづくりなど、もう少し基本的なところから固めた方がいいんじゃないかなって個人的にはすごく思っています。

でも来年度は学級経営も研究テーマに入るみたいなのでまた変化していくといいなと思っています。そして、良い集団とは何なのか、どんな子どもを育てたいのか、という、そもそもから始まる、哲学対話のようなことができたらいいなと思います。

-ご自身のこれからについてはどうですか?
私自身は今は非常勤講師なので4月以降どのように働いているかまだ決まっていないのですが、とにかくたくさん本を読みたいですね。学級経営などについて体系的に学びたいと思っています。

<編集後記>
先生たちの悩みや葛藤に寄り添う傾聴サービス「聴き合う学校」のモニターにご参加いただいたHさん。とても印象的なのは、ご自身がとても学びの意欲が高いこと、そして周りの人を変えようとせず柔らかく提案している姿が想像できること。小さいけれど着実に学校の雰囲気を良くしていこうとする取り組みをお聞かせいただきました。とても勇気をいただく話でした。本当にありがとうございました。聞き手・文・編集:すーじー/鈴井孝史

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