お堀のヴァイオリン
ここは、ヘンデルが「水上の音楽」を演奏した
英国のテムズ河でもなければ
平安貴族が舟遊びを楽しんだ京都の大沢池でもない
ここは、僕がガキのころ橋の上から
とびこんで遊んだ五稜郭公園のお堀なのだ
ヴァイオリンの音がひびき、ギターの弾き語り
ソプラノの高く澄んだ歌声が
浮かんだ舞台のボートから響きわたった
さらに、バラードをつま弾く津軽三味線
函館の今と昔を語るに語る講談……
2020年夏、コロナショックで
生の演奏に飢えていたアーティストと
お堀をかこんだ市民、観光客も
密をさけ思いきりライブを楽しんだ
モーツ・アート(Moaťs Art)
モート(moat)とは、城などに巡らされたお堀のことで
それにアートをかけあわせた造語
アーティストがボートに乗って演奏する
どこにもない舞台表現だ
毎夏、おこなわれてきた「はこだて国際民俗芸術祭」
「函館野外劇」などのイベントが
軒並み断念を余儀なくされた
そこで、既成概念をこえた企画が浮上
多くの応援のもと
内外のアーティストが参加して
2020年の暑い夏に開催された
先導する手漕ぎボートが、
アーティスト、動画撮影係
さらに機材を乗せた1台のボートを曳く
ときには、2台となるボートを引っ張ることもある
追い風だけでない、向かい風もある
漕ぎ手には腕力とオールさばきが求められる
20回ほどのイベントの全てをたった一人で先導したのは
英国人のイアン・フランク
縁の下の力持ちで
今回のイベントの仕掛け人の一人でもある
函館に住んで20年となるイアンは
大学でAI(人工知能)を教えている
長身で腕が太い
学生のころ、ボート部の選手だったとか
オールさばきに水音もしなかった
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