神々の大いなる自然
ぞっとして身の毛がよだった。
前を横切ったのは、何だ?
冬眠しそこなったアメリカ熊か。
20メートル先からジッとこっちを見ている。
大鹿であった。
アメリカ西海岸、ヨセミテ国立公園。
12月初め、快晴、前夜の雪がつもり、寒い。
朝から渓谷をひとり歩きまわる。
ヨセミテの象徴たる氷河が削った切りたった岩山、
ハーフドームに圧倒された。
アメリカの大いなる自然には神々が住む。
アンセル・アダムスは、
人っ子ひとりいない冬のヨセミテに居をかまえ永年撮影した。
壮大な大いなる自然をモノクロの美しい諧調で表現、
写真を芸術の域までたかめた。
有名な言葉「ネガは楽譜であり、プリントはその演奏である」。
ここに彼の真髄がある。
オリジナルプリントは、ゆたかな諧調からショパンが聞こえるよう。
1984年、音の詩人といわれたピアニストのアシュケナージは、
病の床にある親友アダムスにささげショパンを弾いた。
それからまもなく彼は天国に旅立った。
1920年代開業のアワニーホテル。
木と石積みの重厚な建物、
部屋にテレビもラジオもない。
自然を楽しめとの思想だ。
他に客もなくひとりぼっちのディナー。
胡桃とりんごをブルーチーズであえたサラダは
ヨーロッパにもなかった味わい。
仔羊の背肉ローストもお見事。
冬クローズ寸前のためか閑散としていたアワニーに
泊った幸せを今も思いだす。
帰りは来た道をたどり
北西340キロのサンフランシスコへ。
1泊2日のバスの一行は、
僕をふくめ伊・豪・南米の老若男女12人。
走りつづけること5時間、
西部の街の灯りが見えてきた。
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