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【Everybody is a Designer!】医療系オンラインサービスに感じた未来感

我が家の2人の子供達も既にティーンエイジャー。娘はファッションや美容にも気を遣う年頃になりました。(子供の成長は速い!) 特に米国では多くのティーンエイジャーがやっている歯列矯正。娘も最近になってサンフランシスコで見つけたCANDIDというオンラインの歯列矯正サービスを利用し始めました。オンラインを特徴にしたこうした新しいサービスを身近に見ていて、3Dやオンライン化など技術の導入で進化するサービスが結果的にデザインの活動領域を拡げ、或いは多くの人に様々の可能性を拓いていくのではないかと感じ、今日はその辺りについて、少し現地ルポ風に書いてみましょう。

オンライン歯列矯正サービスCANDIDとデザインの可能性

このCANDIDの最大の特長は3D技術とネットワークを活用した訪問診療の要らないオンライン診察。初回こそ口腔内の3Dスキャンをスタジオで行いますが、そこからは全てオンライン。スキャンから2週間後には12~24段階までフルセットになった透明のマウスピース群と、スマートフォンに対応した口腔内撮影用のデバイスが送られてくる。マウスピースを指定された順序に装着しながら歯列の変化を撮影デバイスで自分で撮影、オンラインサービスで送信するだけで、全く訪問診療を必要としないまま、適切に診察、治療を進めることが出来ます。

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この、形状が少しずつ変化したフルセットのマウスピース。工業デザイナー視点で言うと、現状の歯列と理想の歯列の間にかけたモーフィングを段階的に輪切りにしたもので、ソフトウェアさえあれば自分でも簡単に造形し3Dプリンターで出力できそうに見えます。もしかすると将来的にはマウスピースの造形や診断ソフトまでデザインできれば自分だけで全て完結出来てしまう可能性すら感じます。極論、デザイナーが矯正歯科のサービスを提供できるようになるかもしれません。

オンライン化が加速する医療分野の今と未来

また、CANDIDや他の新しい歯列矯正サービスを含め、多くの医療系サービスでオンライン化が加速しているように見えます。最近、突発性難聴を患った知人のケース。彼女は加入している保険、Blue CrossのPPOでオンラインドクターサービスを利用しました。Webで問診票を書き込むとスタンバイしているドクターからコンタクトがあり、電話やフェイスタイムで診療を受け、処方箋が近隣のドラッグストアに送られ、ドライブスルーで受け取り、治療が完了しました。これも非常に合理的です。現下のようなパンデミックと呼ばれるような状況では特に診断から薬剤処方まで対面診療一切無しで完了できるオンラインサービスを拡張できるようなソリューションには大きなチャンスがあるでしょう。

やや余談ですが、このオンラインドクターへの移行と同時に、固定した主治医による「個人診療」より5~6名が待機する「グループ診療」が主流になりつつあるようです。(一部では個人診療は既にDead Species(絶滅危惧種)と言われている) 専門性や継続性から即時性や柔軟性に価値観が移行しつつある。ここにももしかすると専門家以外に対しても参入障壁を下げ得る可能性が見えます。例えば、そんなグループ診療の医師の一人がAIであったりする可能性も近未来にはあり得そうです。

遠隔手術ロボット“ダヴィンチ”の直感的操作感!

さて、もう一つの事例。サンノゼのIntuitive社を訪問した際にシミュレータを体験させて頂いた遠隔手術ロボット「Da Vinci」について。実際に3Dゴーグルで患部に見立てたジオラマをモニターしながら、超緻密なロボットアームを動かします。数ミリしかない輪ゴムを突起から突起に移動したり左右に引っ張って伸び縮みさせたり出来ます。

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メーカーの社名「Intuitive」が示す通り、本当に直感的に動かせる!自分の感覚と実際のアームの動作に少しでもギャップがあればゴムが飛んだり、千切ってしまうかもしれませんが、アームは見事なまでにイメージした通りに動き、ゴムの手応えさえ感じてしまうほど。(実際にはForce Feedbackは実装されていませんが、それがあるように錯覚してしまうほど直感性に優れています)医師でもあった手塚治虫氏の医療漫画「ブラックジャック」の中で、自分で自分の手術をするシーンが出てきますが、こういうロボットに触れると、そんな未来がまさに近づいているのを肌で感じます。

映画「マトリックス」にカンフーのスキルをダウンロードして戦うシーンがありますが、手術のスキルもダウンロードできれば外科医でなくとも手術ができるかもしれない。このシミュレータに触れると自分に出来た胃や大腸のポリープくらいだったら自分で簡単に切り取れそうに感じます(幸いにして出来たことはありませんが笑)。

デザイナー、そして全ての人に拓かれる未来


いずれにしても先端技術によって進化するサービスは、これまでは限られた人にのみ与えられていた特殊技能を、ある程度誰にでも取り扱えるレベルに普遍化し得るとすれば、ちょっと器用な人や創造力に富んだ人には特に、新たな活動分野を切り拓ける多くのチャンスが与えられるかもしれません。誰もが医者になったり、オリジナルの電気自動車をデザインしたり、ロケットを打ち上げたりできる時代が来る。

今は全てが加速する現代、今までは知識や技術の習得に何年、何十年と掛かった、そんな回り道しかなかったような世界にさえショートカットが現れ得るとすれば、未来にはまだまだ無限の夢を見ることができます。デザイン思考の考え方の中に「Everybody is a Designer!」(誰もがデザイナー!)というものがありますが、技術やサービスの進化はそれをさらに後押ししてくれるかもしれません。

テクノロジーとサービスがひたすら快適性や利便性、娯楽性ばかり追求するのは虚しい。人間の創造力を拡張する技術とサービスの進化にこそ想いを馳せたいと思います。

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