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セックスレスを理由の一つとして慰謝料の支払いを求めることができるか?

多治見さかえ法律事務所では、東濃(多治見・土岐・瑞浪・恵那・中津川)・中濃(美濃加茂・可児ほか)を中心に、男性・女性弁護士の2名が、岐阜愛知離婚問題男女問題を積極的に取り扱っています。写真は、東濃の紅葉の名所として有名な、土岐市の曾木公園です。

夫婦間の性的接触は、精神的結びつきのもとに成り立つ肉体的な結びつきにより、更に精神的な結びつきが深まるというところに重要な意義があるのではないのか。過去には、そのようなことを指摘しつつ、セックスレスを理由の一つとして慰謝料の支払いを認めた裁判例があります。

今回は、判例タイムズ1471号にも載った、平成29年8月18日の東京地裁の判決について紹介します。

1 結婚の本質ってなんだろう?

さて、色々な家族観・夫婦観・カップル観がありますが、TBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のような「雇用主と従業員」という関係の「契約結婚」は別にして、結婚(同性婚含む)というと、

2人が精神面そして肉体面での永続的な結びつき・つながりを目的に、まじめな意思を持って、共同生活を営むもの

をイメージするのではないでしょうか。

実は、このイメージ、最高裁が、傍論において、結婚の本質とはこういうものであると示したものでもあります(最高裁判所昭和62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁)。

最高裁は、この大法廷判決の傍論で、

婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思を持って共同生活を営むことにある

という一般論を示しています。

1 一過性のものではなく永続的な関係である。
2 肉体的な結びつきだけでなく、精神的な結びつきと肉体的な結びつきの両方を備えたものである。
3 遊びではなく真摯な意思で営むものである。

結婚といって思い浮かべるものは、たいてい、そういうものでないでしょうか。

2 夫婦において性的接触はどういう意義があるのか?

セックスレスと聞くと、肉体的な結びつきがなくなることに目が向きがちです。

しかし、セックスレスというのは、単に肉体的な結びつきだけでなく、精神的な結びつきにも影響を及ぼすのではないのか。

精神的結びつきのもとに成り立つ肉体的な結びつきにより、更に精神的な結びつきが深まるというところに、夫婦間の性的接触重要な意義があるのではないのか。

実は、今回紹介する裁判例は、判決文の中でそのようなことも指摘しています。

3 慰謝料が認められたのはどんな事案か?

平成29年8月18日東京地裁判決(判例タイムズ1471号237頁)は、50万円の限度で元夫に慰謝料の支払いを認めています。

この事案は、交際開始から協議離婚するまで約2年4か月間、婚姻から離婚するまで約1年間、一度も性交渉がなくキスやハグといった身体的接触すらもなかったという事情がありました。

元妻が、元夫に対し、元夫が性交渉を拒絶したこと等により婚姻関係が破綻し、離婚に至ったと主張して、慰謝料500万円等の支払いを求め提訴しまし、50万円の限度で元夫に対する慰謝料を認めています。

4 東京地裁はどのような判断をしたのか?

東京地裁の判決では、まず、先ほど紹介した最高裁が示した

婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思を持って共同生活を営むことにある(最高裁判所昭和62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁)

という一般論を示しつつ、

精神的結合のもとに成り立つ肉体的結合により更に精神的な結合が深まるというところに、夫婦間の性的接触の重要な意義があるものと考えられる

と指摘しています。

性交渉等を含む夫婦間の性的な営みについては、元よりそれを想定せずに婚姻をしたなどの特段の事情のない限り、婚姻関係の重要な基礎となるものであるから、これを軽視することは相当ではない

のですが、婚姻関係は

単なる性的欲求の解消というようなものではないのであるから、肉体的結合の有無ということのみを殊更重視するというのもまた相当とは言い難(い)

として、精神的結合のもとに成り立つ肉体的結合により更に精神的な結合が深まるというところに、夫婦間の性的接触の重要な意義があるものと考えられると指摘したのです。

この事案では、

◆夫婦間で一度も性交渉等がなかったというのは、婚姻後間もない夫婦の在り方としては一般的とは言い難い。
◆元妻が強い不安にさいなまれ、しかもこれを元夫に伝えてもなお、元夫の態度に特段の変化がなかった。
◆性交渉そのものはなくとも夫婦間の精神的結合を深めるということも可能であるのに、元夫はそのような行動を起こそうとする兆しも見受けられなかった

といった事情を踏まえ、

夫が妻に対する性的関心を示さない、又は妻においてこれを感じることができるような態度を示さないことにより、夫婦間の精神的結合にも不和を来たし、婚姻関係の破綻に至った

としました。

もっとも、その他の事情を考慮し、慰謝料の額は50万円となっています。

5 まとめ

この裁判例は、単に性交渉がなかったことだけを理由に慰謝料を認めたものではありません。

しかし、夫婦間の性的接触は、単なる肉体的結合にはとどまらず、精神的結合のもとに成り立つ肉体的結合によって更に精神的な結合が深まるという側面があります。そこに、夫婦間の性的接触の重要な意義があるとされています。

ですから、性的接触を欠くことで夫婦間の精神的結合にも不和を来たして婚姻関係の破綻を招いたとなると、離婚の原因となった行為そのものによる精神的苦痛に対して慰謝料を支払わなればならないということになります。

また、性的接触がないことで夫婦間の精神的結合にも不和を生じるとなると、婚姻関係の破綻原因になりかねません。

夫婦間の性的接触は、夫婦の精神的な結合を深めるという意味で重要なのです。

今回はセックスレスを理由の一つとして慰謝料の支払いを認めた裁判例を紹介しました。

私は、離婚の慰謝料については、ほかにもこのような記事を書いています。ぜひご一読ください。



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