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(小説)笈の花かご #29

10章 ホワタ職員は、ソロリ?(2)


オレンジの皮をむく

このところイチョウは、何かと教えがいのあるホワタ職員に、アレコレと自分の経験や知識を伝授して良い気分である。
そんなある日、
またもやイチョウの出番かと思われる事態が目の前で起きた。
ホワタ職員は、入居者の誰かに、オレンジを半分に割ってほしいと頼まれた。
それは、夏みかんほど大きくないが、ホワタ職員の両手にすっぽり入る位の大きさのオレンジである。
彼は素手で持って、それを半分に割ろうとした。
爪を立て、やっと、てっぺんに穴を開けた。
そこへ指を突っ込んで左右へ広げようと格闘することになった。
シンクの台上に上半身を付けて、オレンジに顔を近づけ、ウンウンと力を入れ、左右に引っ張った。
格闘すること1分、何とか半分になった。
彼の手はオレンジ色に染まった。

エレガントな夏みかんのむき方

イチョウもこれまでずっと素手で夏みかんをむいていた。
へた(果実が枝や茎に付いている所)の周りに、爪を立てて穴を開け、そこから親指を使ってガシガシと下の方へとむいていた。イチョウ周辺ではそれが当たり前。
ところが、大阪で暮らしていた時のこと、職場の先輩から優雅な夏みかんのむき方を伝授された。
生まれも育ちも京都というその先輩は、エレガントな手つきで、手順を披露した。
まず、包丁か果物ナイフで、蔕の周辺を薄くカットして取り外す。
そして、上から下へ放射状に5~6本、皮に切り込みを入れる。
それをゆっくりむいていく。
中身をゴロリと外すと、皮が丸い形で残る。
一度に全部食べない時は、その皮の中に残りの実を収め、ラップで包むと乾燥を防ぐことが出来る。

ホワタ職員がオレンジで格闘する姿を見て、イチョウが黙っている訳がない。
しかし、イチョウは、せっかくの上品なオレンジのむき方を、ホワタ職員に伝授することは出来なかった。
なぜかと言えば、モクレン館の4階食堂には、包丁も果物ナイフも置いていないからである。
すべて刃物は、モクレン館の決まりで、2階食堂のシンクの引き出しに厳重に保管されている。
従って、私物の柿やリンゴの皮むき、タクワンのカットなどは、2階シンクのカウンターに常駐している職員に頼むことになる。


次の章では、新型コロナウイルス感染でてんやわんやの騒動が

→(小説)笈の花かご #30
11章    濃厚接触者、疑い!?(1) へ続く


(小説)笈の花かご #28 10章 ホワタ職員は、ソロリ?(2)
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2023年10月21日#1 連載開始
著:田嶋 静  Tajima Shizuka
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