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(8) 解禁。 国家独立の、 とある方法論


「日本の首相が大気圏突入ポッド投下の精度について、会見で触れられました。実際の能力ですが、半径4kmの円周内に落とすことは可能です。しかし、停泊している艦船を直撃するだけのコントロール能力はありませんし、現実的に不可能です。数ミリ ズレたり、1秒遅れるだけで、円周内から簡単に逸脱するのです。何でしたら、実際の投下作業を取材されては如何でしょうか」 
何処の誰が大気圏外まで確認に行けるのか、という皮肉を込めて、スーザン報道官が述べる。ネット上では「ベネズエラの仕業に違いない」と何の根拠もなく、陰謀論のように彼方此方で語られていたからだ。   

先月G20の場で、日本の阪本首相が個人的な見解として「戦艦を直撃できるのではないか」と述べている映像が繰り返し再生され、陰謀論を盛り立ててしまっていた。阪本首相が首相官邸に出勤してくると記者達に囲まれる。 「先の発言が取り沙汰されているが、実際はどうなのか?」と。自身が口にしただけに、ぶら下がり会見に応じるしかない。       

「今回の事件に関しては、フランス政府にお悔やみ申し上げる一方で、新たな情報を日本政府として提示したいと考えております。我々は今回の事件が偶発的なもので、回避できなかったのではないかと見ています。私の先の不用意な発言が一因で世間を騒がせておりますが、日本の人工衛星が大気圏に突入していく前の流星群を捉えておりました。このデータを本日中に開示させて頂きます。私も映像をまだ見ていないのですが、どこにも中南米軍の姿も形跡も認められないそうです。映像の解析が終わり次第、フランス政府にもオリジナルデータを提供しようと考えております」との首相発言により、「衛星撮影映像が存在した」とまた騒ぎになる。 

確かに、フィリピン上空に新たに浮かべた天体観測用衛星が流星群が降下していく映像が撮影されていた。今後、ルソン島からシャトルが離発着するので、フィリピン上空・大気圏外の宇宙空間を監視する目的の衛星だという。                                「まさかベネズエラが?と、スミマセン、実は私も第一報を聞いて、とっさに思ってしまいました。改めて映像を見ますと、2つの隕石どころではなく、かなりの数の隕石が地球の重力に引き寄せられているのが確認できます。観測衛星は、まだサービスインしていないのですが、偶々映っており幸いでした。この映像の7秒後に、フランスの艦船に衝突しているのですが、周辺に様々な隕石が落ちているのではと心配してしまいます。 何かしら被害が出ていなければ良いのですが。取り敢えず、ニューカレドニアからの続報を待ちたいと思います。この衛星の画像は内閣のホームページで見れるようにしましたので、ご参考にして下さい」
「また、沈没した艦の検証も必要になると思います。艦の引き上げ作業が必要であれば、中南米軍の太平洋方面部隊に要請すると、フランス政府に合わせて申し入れ致しました」モリ・ホタル官房長官が午前中の定例会見で述べると、ベネズエラの「シロ」が確定したような雰囲気になった。 

その後、ニューカレドニア島の周辺で小さな隕石落下の痕跡が発見される。「無数の光の帯を見た」と村人達の話も出てきて、その時間に纏った数の隕石が落下したのは、間違いないようだと話が落ち着き始めていた。特に軍の施設の屋根や屋上に無数の穴が空き、倉庫内の装甲車や車両が破壊しているのも、ニューカレドニア駐留フランス軍の新たな発表がされて裏付けが取れた格好となる。南太平洋一帯を中心に当面の間の隕石落下への警戒や警報が出されていたが、注意喚起されても、隕石から身を守る手段など無かった。

ーーー      

アニメの舞台にもなった、フィリピン・サマル島のリゾートホテルでバカンスしていた先行組は、プルシアンブルー社が嘗て誇った3大エンジニアの解析作業を、彼女たちの家族が見守っていた。  
大気圏突入ポッドの投下地点のデータを洗っていた際に、あゆみが一定の異変に気がついて、検証プログラムを修正して、解析作業を続ける。
サンボアンガ市に居るモリと志乃に聞けば、直ぐにでも分かる事なのだが、「2人への話の持って行き方」に、娘達は拘る習慣が身についていた。親であり、叔母でもある2人だけが知る、国家機密に触れるであろう事案なので

「・・やっぱりね・・」解析を終えたサチがアユミと顔を見合わせて頷きあう。彩乃は蒼白な顔をしている。
「どうしたの、何か分かったの?」3人がキーボード操作を止めて、画面を見て話しだしたので、茜が堪りかねて聞き出した。遥がPCを覗いて、絶句してしまう。
「まず、プルシアンブルー社が大気圏突入ポッドの投下作業を請け負って、プログラム開発をしたと仮定します。投下するのは中南米軍のモビルスーツだけどね。ここまではみんないいかな?」サチが言うと、寄って来た母親達が頷く。

「中南米軍は、投下地点を半径4kmの円周と定めて、その円の外側で待機しているの。一般の船舶が円周内に入ってこれないように監視と警戒をしているのね。勿論、主要な航路からは外れている海域だし、近隣の漁港には連絡している。中南米軍では半径4kmとしている箇所を、プルシアンブルー社では対応できずに半径7kmは欲しい、保険も含めてね。 プルシアンブルー社でも半径7kmなんだから、世間一般では戦艦に命中させるなんて、至難の業だって言うのも、分かるでしょう?」
サチが言うと、全員が頷いた。

「さっき、アユミが隕石落下の特徴に気がついてね、慌てて3人で落下地点のデータを解析してみたの。これ、約100基の大気圏突入ポッドの落下地点を並べてみたの。一番長い所でもたったの20mしか離れていない。わざとバラけて投下しているから、誰も気づかないけど、実は全てが計算されていたの・・」サチがPCを持ち上げて、皆に見せた。「DO IT」と見えたので、皆が口を手で覆った。

「彩乃、先週投下したポッドのデータ解析は終わった?」姉に言われて、彩乃がPCを持ち上げた。「JUST」とこちらもハッキリ見えた。PCを掲げる彩乃の顔は、まだ青白いままだった。

「これだけの命中精度は、はっきり言って異常よ。隕石を落とした犯人は、ベネズエラである可能性が極めて高い・・。 ね、お母さん、お父さんがここに来たら、じっくり話そう。 私が始めに切り出すから」あゆみが真顔で蛍に言うと、蛍が気乗りしない顔をしながら、渋々頷いた。
今年2度目の軍事紛争、本妻と長女の出番がやってきた・・。

ーーーー

ネーション紙の阿部順子記者がサンボアンガ空港に到着する。マニラからの国内線は寒い位に冷房が使われ、機外へ出た時の暖かな気温に癒しを感じる。ミンダナオ島西岸は雨季から乾季へ転じ、気温も高くなる時期だ。ベネズエラからやってきた阿部記者は、南米とさほど変わらない気候に、拍子抜けする。違和感を全く感じないので、ベネズエラを拠点とする日本人が、この国と往復するのは好都合かもしれない。

最近になり、ベネズエラ政府が情報を都度公開しなくなった。全てを公開しきれないと理由づけして日々の会見をしなくなった。そのため、ベネズエラ絡みの取材は突発的になりがちだ。勘弁してほしいと記者は思いながらも、仕事量の多いベネズエラ政府の台所事情も知っているので、仕方がないと認めてしまう。
今回のように、公に公表されない理由もある。中南米軍のアジア方面部隊のデータセンターが、ここサンボアンガ市に設けられ、その為の発電施設や設備一式も合わせて用意されるという。その調印式が明日行われるという。この情報もサンボアンガ市の発表をAIが認識して採り上げたので、ネーション紙の知るところとなった。
データセンターだけに留まるはずがないと、阿部記者は勘ぐった。それなりの発電施設まで備える、規模の大きな計画で、建設施設数も多い。「単なる軍事拠点ではない」と判断して態々やってきた。杜 志乃ベネズエラ経産大臣がサインに望むというが、恐らく、モリ次期大統領も一緒だろうと見ていた。
カンは当たった。朝から基地でイベントが行われ市民が基地内に入り込んで、様々な動画や写真をSNSに投稿していた。モビルスーツの展示会会場の様相になっている。つまり、ミンダナオ島に中南米軍が駐留するのだろう。来て正解だったと安堵しながら、タクシーの後部座席で投稿されたモビルスーツの写真の数々を眺めていた。
ベネズエラ政府の日本人達が、なぜフィリピン・ミンダナオ島を選んだのか、アジア方面部隊の拠点であるルソン島スービック海軍基地、クラーク空軍基地だけでは足りないのか、ビルマやタイの基地の拡充は考えなかったのかと、理由を知りたい所だ。
理由はどうあれ、ミンダナオ島に拠点を構えると、フィリピンという国自体が、中南米軍によって堅牢な要塞国家になると阿部記者は推測した。こういうのは徹底的にやるのが、「彼」だ。
SNSに投稿された動画には、新型水陸両用モビルスーツと書いてあるが、どう見てもアトラスガンダムだ。他の既存のモビルスーツも様々なオプションが装着されている。中南米軍は「何」と戦おうとしてるんだろうと一瞬悩む・・。ロボットマニアには嬉しい限りだが、
開発予算や製造コストは何処から捻出しているのか、悩む。戦闘機よりも遥かに高額なのだろうと、誰もが推測するのだが・・。

サンボアンガ基地に到着する。陸海空の3軍が入居する広大な基地だ。東部のダバオ市の基地も大きく、アニメでは連邦政府軍の基地という設定になっている。西部のサンボアンガ基地を選んだのは、やはりルソン島西部のスービック海軍基地との直線距離と南沙諸島、西沙諸島、その先の中国への恣意活動を視野に入れているのだろうか・・。

基地は既に大勢の人でゴッタ返していた。お目当てはモビルスーツだろう。ゲートの左右にはMS-01、通称ジェガンが5体、様々な塗装が塗られて施されて出迎えてくれる。最も手前の陸軍施設へ向かうと、阿部記者のテンションが上がった。訓練用グラウンドにZ-01通称ザクが5体 シャア専用ザクと、重火器を纏ったサイコ・ザクが並んでいる。このサイコザク、地上でも飛ぶのだろうかと背面に回ると、ちゃんとバーナー噴射口が所々にある。噴射口に煤が見えた。「飛ぶんだ・・」と口にして、ゾクゾクしてきた。向かいには陸軍向けだからなのか、カーキ色に塗られたノーマルザクが様々な重火器を持って並べられている。 こんなカスタムモデルの数々を陳列されたら、人々が熱狂するのも無理はない。 「あゆみちゃんと彩乃ちゃんのデザインなのかな・・」と記者は思った。
会場内には「Ace Combat 6 - Liberation of Gracemeria」のオーケストラヴァージョンが流れている。彩乃ちゃんの好きなゲームだね・・と、その楽曲を聞いて、気分が高揚し、取材を忘れつつある自分に気付く。記者も軍事について詳しい訳ではない。しかし、兵器であることを忘れさせる何かが モビルスーツはある、と感じていた。フィリピンでもこれだけ多くの老若男女の各世代の人々を捉えているのだから・・。          

海に面した海軍施設前は特に人だかりが凄かった。「凄い、ホントにアトラスだ・・」  塗装までアニメを踏襲している。アトラスガンダム2体の隣には、フルアーマーのジェガンが3体並んでいる。盾までアニメと同じデザインだ。流石にビームサーベルは備わっていないようだが、ザクも手にしていたマシンガンとバズーカ砲に、レールガン砲と思われる巨大な兵器を手にしている。そしてフルアーマー・ジェガンの複数盾重装備に背面の噴出口には、やはり黒ずんでいる・・。「デザインして、設計したのは 誰なんだろう」と思いながら、阿部記者は取材用のカメラで撮りまくっていた。新型の数々が見れただけでも来た甲斐があったな と満足していた。

「ジュンコさん!」言われて振り向くと玲子と、白人女性だった。この人、何処かで見た気がする・・

「玲ちゃんも来てたんだね・・ってことは、大統領もどこかに居るの?」
「あの・・秘密ですよ。志乃大臣と一緒にフィリピン軍のお偉いさんと会談中です」   ・・やっぱり・・ 
玲子が白人にスペイン語で説明している。「ケイゴ」と聞こえたので思い出した。ジェノアFCのオーナーだ・・。「はじめまして」と日本語で挨拶を互いに始めていた所で、轟音と歓声が上がった。周囲の人達に釣られるように空を見上げると、航空機にジェガンが乗って飛んでいる。
「スッゴイ!Gアーマーみたい!」阿部記者が叫んで、手を嬉しそうに叩くとカメラを空に向けて、シャッターを連写した。      
「お仲間」がここにも居たかと、ヴェロニカがニヤリと笑って話を始める。

「サンダーボルトに出てくる、サブフライトシステムにガンキャノンの砲台をつけてみたの。ああして、立ったまま乗ると速度は音速まで出せないんだけどね。アベさんはMSイグルーって、ご存知かしら?第一話で出てきたズゴックとのセットモデルなんだけど・・」

「イグルーもサンダーボルトも大好きです。イグルーの第一話は、ジャブローで打ち上げ中の戦艦を撃ち落とすんですよね。しかも、パワーがあるっていうだけで宇宙にズゴックが何故か配備されてるんです」  
順子がヴェロニカと急に意気投合して盛り上がっているのだが、玲子には何の事やらサッパリ分からない。    

「そう、あれを参考にしたの。頭を先頭にして空気抵抗を減らして、アトラスを下に繋げて飛ぶの・・あ、あれよ、!」ヴェロニカが言うので見上げると、アトラスガンダムが下を向いて取っ手を握って、足をフックに掛けて落ちないようにしている・・。 

「アトラスは、人型ロボットのジュリアを模倣して、背骨を持っているの。より 人に近い分動きが出来るようにね。それもこれも、ロボットを作り続けてきた日本のノウハウの集大成モデルなのよ、あのアトラスは・・」 
ヴェロニカの遠い目を見て、ベネズエラの軍事開発って一体どうなってるんだろうと、記者は思う。大統領の家族や近親者が、好き勝手にデザイン出来るって、凄くない?と急に現実に戻っていた。          

 ーーーー   

隣国、バヌアツ共和国の空港からサンダーバード2を護衛するかのようにフライングユニットに連結されたモビルスーツ3機が、ニューカレドニア島へ降り立った。着陸時にホバリング状態になると、MS-04がぶら下がり姿勢に転じて、ゆっくりと地面に降り立つ。「あれ、ガンダムじゃないか!」フランス軍の兵士達が喜びを露わにする。

サンダーバードのガントレー収納からは牽引車やトレーラー車両が降りてくる。中南米軍のフィリピン駐留の部隊で、ピナツボ火山噴火後の作業に当たったチームだと言うが、当時はガンダムは無かったはずだ。      「あれは、アトラスガンダム。アニメ通りの設定なら、水陸両用モビルスーツだ。あの人みたいな歩き方は、ベネズエラの人型ロボットによく似ている・・」兵士の一人が言うと、そう言われれば動きがスムーズに見える。沈船の引き上げ用に適しているのかもしれない。足もあるし・・

引き上げ作業の模様をフランス軍が撮影し、後に公開される。「アトラス、登場」とネット上で騒ぎとなる。空からやってきた部隊とは別に、ノウメア港には中南米軍の海兵隊ロボット30体が乗ったホバークラフトが到着し、モビルスーツが引き上げた、ひしゃげた沈船をバーナーを使って裁断し、トレーラー車やトラックに積み上げてゆく。                沈船の解体作業で手慣れているのだそうだ。フランス海軍の技術将校の指示を受けながら、部材を迅速に分別しながら、運び出してゆく。最後に埠頭岸壁と湾内に流れ出たオイル類をMS-04がバキューム装置の付いた海洋汚染除去船のノズルで吸い上げて、作業は終わった。普通にやれば数ヶ月かかる作業が、6時間と掛からずに済んでしまう。        

中南米軍の設備部隊の迅速な作業が投稿されると、コメント欄に多くの驚きの書き込みを齎した。「モビルスーツが掃除機を使ってるみたいだ」「あの腰と背中の微妙なまでの曲がり具合は、ベネズエラ製ロボットならではの特徴だろう」「陸海両用と言うのだから、あのボディのしなり具合を活かして、ヒトのように遊泳するのかもしれない」と、ロボットマニアが次々と書き込んでゆく。       

サンボアンガ基地でのお祭り騒ぎの映像も同時期に公開され、中南米軍のモビルスーツ戦のシュミレーションや、「機動部隊」と勝手に名付けられてネット上で戦術分析が始まっていた。   
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フランス本国の参謀本部は面白くない。
大事な戦艦を失い、その撤収作業も迅速に行われてしまう。挙句に、新型モビルスーツのお披露目会のようになってしまい。フランスの「フ」の字も無い。   
映像分析班はある点に気がついて、ニューカレドニア駐留部隊に連絡を取った。中南米軍の兵士が一人も映っていないからだ。ニューカレドニアの参謀部は呑気なものだった。誰も来ていない。フィリピンのサンボアンガ基地とネット会議を行っただけだと言う。

「分解したとはいえ、戦艦の鉄板を軽々と持ち運ぶ海兵隊ロボット部隊とモビルスーツ3体、サンダーバードに特殊車両の数々で、兵士がゼロだと・・」参謀本部は、静まり返った。確かに作業指示はフランスの将校が指示した。しかし、後は全てをロボットが判断し、作業をした事になる。リモートで中南米兵が指揮を執っていたにせよ、無人部隊として、これだけの規模の隊が動かせてしまう。フランス軍の傭兵部隊が霞んでしまうだけのインパクトがある。ベネズエラには、この海兵隊ロボットとモビルスーツが何体あるのかと、これらのロボットが手にする武器は何があるのかと、急遽調べ始める。           

サンダーバードが隣のバヌアツ共和国から一緒に持ち運んできた食料の数々が、ニューカレドニアの人々の舌を満足させていた。 このままでは独立派を後押ししかねないと危惧してしまう。「軍事的にも、食料サプライチェーンも、中南米に依存している、隣国の独立国バヌアツの方が全てにおいてニューカレドニアに勝っているではないか。フランス統治より、独立して中南米の庇護下に入るほうが格段にいいではないか」と。

ーーー
ベネズエラのスーザン報道官は、中南米軍の防衛拠点となっている隣国のバヌアツ共和国への物資供給と合わせて、ニューカレドニアに暫定的に供給すると、人道的な支援協力を申し出た。隕石落下を懸念した流通網が途絶えているらしい。長期滞在中の観光客も多い島だけに、フランス政府からも感謝される。

バヌアツから、中南米軍の輸送船が2日おきに入港して、食料品を主体とした物資が届くようになる。バヌアツで養殖している魚や飼育している鶏肉、南米の麦やコメや乳製品が大量に届くようになった。ニューカレドニアの人々が驚いたのが、バヌアツから届く食料の美味しさだった。
かねてより、ニューカレドニアのパン・パシフィックホテルの料理は美味しいと言われていたが、その理由はバヌアツから素材をドローン配送していたのだと知る。
パン・パシフィックホテル以外のホテルも図らずも同じ食材を得たので、宿泊客が食の変化を歓迎する。ニューカレドニア島内のホテルが、パンパシフィックと同じ企業、プレアデス運輸に食糧配送を委託する方向で検討を始める。元の流通網に戻ると、レベルが以前のものに戻ってしまうからだ。

島内のスーパーも品揃えが様変わりしていた。バヌアツからの食料品に一時的に変わったのだが、仕入値の安さと素材の味の良さで、スーパーの仕入れ担当も経営者も、バヌアツからの調達を、検討してゆくようになる。
ガソリン、軽油の価格もバヌアツ価格に変更されると、「今迄の生活はなんだったのか、独立国の方が、物資が豊かで安いではないか」とニューカレドニアの人々が、フランス統治に疑問を持ち始める。
自然と、バヌアツからの仕入れ量が増えてゆくと、ニューカレドニアの空港にサンダーバード2号が、毎日のように物資を届けるようになってゆく。

ベネズエラの櫻田首相は、プレアデス運輸からのレポートを見て、ほくそ笑む。ニューカレドニア向け配送物資が、バヌアツ共和国向けの物量を間もなく超えそうだと。
ニューカレドニア独立を求めている組織の過激派が、武力闘争を始めるのを察知して、彼らの計画を隕石投下により、ハックしてみせた。
フランス軍の治安部隊と交戦が始まれば、小さな島が内戦状態になりかねない。独立派の目的を代行し、自然災害として扱えば相互で衝突は起きないと考えた。
更に、隣国パプアニューギニアのオーストラリア流通網に一石を投じて、南太平洋の少ない独立国であるバヌアツ向け輸送網に切り替えてゆく。
年末に行われる、独立を問う住民投票の結果を待てばいいだけとなる。

方やフランスは、南太平洋の植民地支配が足枷になりつつあった。隕石に破壊された艦船の補充を行い、陸上拠点の補修と、僅かな兵器を追加した。
中南米諸国連合企業の大型輸送船が日々飛んで来るようになると、パプアニューギニアの食料会社からの配送は減少を続け、年内で撤退すると早々に決定した。
バヌアツの魚と鶏の養殖企業が、ニューカレドニア内に拠点を構えて新たに事業を始めようとしている。本国フランスから程遠い距離は、バヌアツに拠点を構える中南米諸国の絶好の草刈り場となりつつあった。国民投票は独立派の優勢になりつつある。
ニューカレドニアが独立の道を選ぶと、タヒチもやがては続き、フィジーやサモアといった英国連邦の国も後に続くかもしれない。英国との関係が齟齬となった今では、対策案を論じる事もないのだが・・

ニューカレドニアで起きた、中南米軍の復興支援作業は、フランスによる南太平洋統治の限界を露呈させた。物資取扱量、兵站能力の規模の違いを知らしめる中南米諸国の姿に、惹かれるのは、仏領の住民ばかりだけではなかった。
オーストラリアとニュージーランド、シンガポール、マレーシアが英国連邦から離脱を検討していると報じられる。
非核への検討が各国で検討され、撤廃に舵を切る国、議論が進行中の国と、従来と事情が変わってきている中で、英国との関係性も希薄なものへと変わってきた。英国の王も変わり、2040年という節目の年に合わせて体制をアジアへ向けるべく、変化を視野に入れ始めた。
女王陛下が崩御した後で、中米諸国の英国連邦からの離脱が加速したが、いよいよアジア圏でも始まろうとしている。

オーストラリアとニュージーランドは、10月の作付け小麦と綿花栽培の品種を日本の新種にシフトした。盛んな牧畜の幼体は、ドイツの製鉄会社の関連会社から購入するのが定型化し、1次産業の日本化を加速させている。
南太平洋で英国連邦からの離脱検討が、始まろうとしていた。

ーーーー

11月からフィリピン・ミンダナオ島の2大都市の一つであるサンボアンガ市の基地を、中南米軍部隊が利用する契約が成立した。これまでフィリピン軍の反体制組織掃討目的だった拠点に、代わりに中南米軍が入ることで、ASEAN防衛能力の強化と、南太平洋諸島国で中南米軍が防衛協定を担う独立国への支援拠点への転換が決まった。

ベネズエラが新たに目をつけたのが、フィリピン南部となる。東南アジアでありながら、海洋性気候の影響もあって、ミンダナオ島東部のダバオ市周辺は乾季と雨季が存在しない。また、ミンダナオ島には台風がほとんどこない。仮に来ても、ルソン島までが精々だろう。 その気候の特性もあって、ミンダナオは昔から農業に適した島として、海外資産が投じられプランテーションが広がっている。
ユニーク性がある気候に目をつけた資本家の参入により、ミンダナオ、ネグロス島は、植民地支配の最前線基地となってゆく。農場従事者も他島よりも多く、フィリピンの中でも格差がはっきりし、貧困層の多い島となっている。
収入が低く、体制への批判が重なり、マレーシア/インドネシア/ブルネイ3カ国が共存する島、ボルネオ/カリマンタン島にも近いので、イスラム教を信奉する人達の多い土地でもある。モロ民族戦線等の反政府組織が生まれ、長年抗争が続いてきた歴史がある。
後年になって、中東でイスラム国・ISが起こり、中東で劣勢となって拠点が減少すると、東南アジアのイスラム圏に拠点を求める動きが加わり、インドネシア、マレーシア等のイスラム教徒の多い国は、警戒を強めてきた歴史がある。フィリピン政府もミンダナオ島を中心に警戒を重ねていた。その拠点ともいえるサンボアンガ基地に中南米軍が駐留する。表向きは中国に睨みを効かせる為だが、民族対立抑制のクッション材となる。フィリピン軍は、東のダバオ基地に集結し、規模の最適化、軍事費の抑制となる。世界最強の軍隊が同じ島内に居るのだから、フィリピンは、軍事費に金を掛ける必要は無くなってゆく。

(つづく)



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