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(9) 防衛・国防、 意識の違いがズレを生む


 香港で長年カフェやファストフード店で経営を担っていた劉黎明が 、上海北陸公社の総経理に就任して真っ先に取り組んだのは、北京勤務時にモリが起こした朝鮮料理・日本食 惣菜店「赤彗星」の生産量の強化だった。
マグロ漬け、カツオのたたき、中国産ウナギの蒲焼、サワラ西京焼、サケのムニエル、千島サーモンのマリネ等々と、自然解凍もしくはレンジで温めれば食べれる魚の惣菜を主に製造し、HookLikeの特許パウチ加工された状態でスーパーの惣菜売場と鮮魚売場の隣に魚の惣菜を並べて販売した。中国で魚の値段が上がると予想されていたのと、AIの分析で魚の惣菜が売れると判定していたからだ。

惣菜はパウチ加工されているので日持ちする。プルシアンブルー社の特許包装なので、解凍しても加熱しても中の食材をそのまま保つという特徴がある。元々、中国内陸部では日持ちするので人気商品だったが、鮮魚の値上げで更に割安感が出るのではないかと期待された。
日本の味付けの調理惣菜という物珍しさも加わって、人気を博していった。
16億の人々が住む国だけの事はあって、生産が追いつかない状況となる。
ネットスーパーの売上でも魚介類の購入が多く、中国で流通している魚はindigoBlue社が一手に取り扱っているとまで言われる程だった。
ロボットを活用してマグロの解体ショーや、ブリ・ハマチの下ろし方教室を売り場で行ない、寿司天ぷら店「彩」のメニューで使った魚や、日替わり海鮮丼の「今日の具材」を鮮魚売り場に並べてみたり、日本の魚食文化のアレコレをPRするような売り場レイアウトにした。

16億人の特定の食べ物を抑える事など難しい話だが、この魚食に関しては差異化を計ることが出来た。上海北陸公社はこの年、前年比2倍の売上となり13年目にして最高益を達成することになる。

このパウチされた惣菜食品を,自衛隊が大量にチベット・ラサへ持ち込んだ事で、海なし国家チベットの人々が魚食に目覚めてしまう。古来からチベットの人々は水中の生物を食べない。海や大きな河川が無いので仕方がないのかもしれないが。
ラオスでも、ネパールでも共に起きた現象なので、自衛隊の賄い部隊である料理人達には、今回のチベットへの魚食文化提案は意図的なものだったのではないかと自衛官達は囁きあった。

モリは3度めのラサでもあり、学生の頃何度かトレッキングで訪れたネパールで亡命チベット人の作るチベット料理を食べていたので、違和感は無い。寧ろ、周辺国が香辛料を多用するので、あっさりした味付けに困惑した思い出の方が印象に残っている。海がないのでダシという発想も希薄だ。それでも80年間に渡って君臨した中華料理が、チベット料理に残してしまった傷痕を思うとやるせない気持ちになる。
ダライ・ラマ14世がインドに亡命した時に、最も困ったのが香辛料と油で、腹を壊しっぱなしだったと晩年は笑いながら語っていた。周辺国との標高の壁は、それだけ食文化の違いを生み出してしまうのだろう。
今頃、資源探査班はAIロボットの調理で美味しい日本の夕飯を楽しんでいるかもしれない。

晩餐会ではインドの首相と外相には申し訳ないのだが、アメリカの対応をお願いする。事前の会合で頭ごなしに怒って見せたからだ。アメリカには「米軍撤退の確率が高いので、手掛けているのものは即刻中断して、帰り支度をしろ」と吠えてみた。流石に3度の屈辱は、そう簡単には払拭できない。
これも作戦の一環なのだが、暫くの間はアメリカを容赦なく攻撃し続ける。攻撃期間については、ひとえにアメリカの出方次第による。

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練習がオフの日に、配送担当として水回り品やガス給湯器の納品をし、ついでにトルコ人街やバングラデシュ人街で飛び込みセールスをしてゆく。「モリ」の顔はサッカーのお陰で受けが良かった。飛び込みも3度目で手慣れてきたし、自分の知名度も活かせて良かったかもしれない。
家のデザインも静岡に居る圭吾のアイディアで義姉のヴェロニカに頼み、欧州風のデザインが新たに加わって、反応が良かった。歩はトルコ人街の一角にある売地を購入して、事務所兼モデルハウスの建築確認申請をドーハ市に提出した。20日程で完成する予定だ。
「Rs Home」「Rs Sports Shop」と2つの会社の登記もプルシアンブルー社の柴崎に委託した。プルシアンブルー社はコンビニとカフェ事業を同一事業会社として「HookLike Co.」を起こし、合計3法人が登録された。

海斗がクラブハウスで遭遇したオランダの石油メジャー会社の御仁は、未だに警戒しながらも面会を重ねている。実際の番組も存在し、確かに番組のメインスポンサーにもなっていた。多少は信じる気になったのだろう。   歩は義姉にあたる杏に連絡を取って、Rs SportsのCM制作の依頼をした。ついでにその石油メジャー会社のCMも作成して貰う。
CMの出来栄えを見せつけてやろうという思惑だった。展開的に話が複雑になってゆく。石油会社としては、Rs SportsのCMもオランダの業者を使って制作しようと考えていた。

そこへ海斗が「このCMを流してほしい。ついでに御社のCMも作ってみた。良かったら検討して下さい」とぶつけたので、予想もしていなかった石油会社は面食らった。
海斗が持ってきたCMはアメリカで売れっ子のAngle社が手掛けたもので、CM自体のクオリティも申し分なく、正直に言えば誰もが今の石油会社のCMよりも良いと思った程だった。これから制作しようとしていたものがすでに手元に出来上がっており、既存のCM制作会社との契約解消等でスポンサーの石油会社の方がドタバタする。

歩は狡猾だった。これでアルジャジーラとオランダの放送局へCM制作のパスが出来た。
杏に依頼して「Angle network」という販売子会社を作って貰い、アルジャジーラとオランダ放送局にCMを売込む準備を始めた。Angle社は当初はCM制作費の安さをウリにしたが、今ではアメリカのCM製作会社の大手だ。価格を通常の値段で受注して6割を親会社に還元すると提案していた。濡れ手に粟だが4割を貰う。妹のあゆみにHPを作って貰い、CM制作依頼プロセスを全面に掲げる。「CMサンプルを無償で作ります。採用となれば対価を頂戴します」という、同業他社が見ただけで頭を抱える内容だった。

商談はオンラインで歩が行う。テレビの世界なので対面でのビジネスの必要性は希薄だ。 それも、Angle社のCMの完成度の高さのお陰とも言える。 どうでも良いモノを売り込むのは、客先に足を何度も運んで相手の決済権者に対して提案・直訴に行かねばならないが、クオリティの良いものであれば、実物を提示するだけで事が足りてしまう。
Angle社の良さはCMの実物をサンプルとして見てもらって、採用となれば購入して貰う。
通常のCM会社では、受注してからCM制作に入る。それこそ芸能人や俳優を選んで室内、室外で作成するので手間と時間が掛かる。Angle社には従来のCM制作の工程が一切要らないので、仕上がりも早い。そこで勝負に出た。
初回のコンペの段階で、CMが出来上がっているのだから勝率が高いのは当然だった。

「あなたは引退したら、プルシアンブルーに就職しなさい」勢いで彼女になってしまった志木にそう言われるようになる。実際、怪我をしていた7年間が自分をすっかり変えてしまったのだろう。サッカーへの情熱があっても、プレーが出来る状態では無かったので、人生を有意義なものにする為の思考が必然的に増えた。外交官となってからも外交業務を第一としながらも、プルシアンブルー社の製品やサービスの数々が身近にあったので、相手の国に何を売り込もうか、そればかり考えていた・・カタールに拠点を構えて、プルシアンブルー社の中東責任者と接していれば、これまでの習慣が具体性を帯びるのも仕方がなかったのかもしれない。

サッカー選手に転じて思ったのは、プロである以上はスポンサーや企業との関係が大なり小なり出て来る。こと中東の地では、王族との接する機会も十分に考えられる。歩はアラビア語の難解な文字読解は諦めて、カタカナ音と日本語意味の対比がある本を購入して暇さえあれば読み始めた。
朝鮮語を覚えた時と、同じやり方だった。

歩が考えたAngle network社を真似て立ち上げた杏はCM制作だけでなく、番組制作も請け負います、とアメリカとカナダで始めた。米国ABCD放送局だけでなく、様々な局から依頼が届くようになった。これにはAngle社の社員も驚いた。もともと営業レスでここまでやってきたが、益々営業の必要が無くなったからだ。

テレビと言えば、ラジオ局も含めて、チベットが独立した1日から新放送が始まっている。日本で始めた24時間ニュース放映の「United Nation」と日本の地方局で放映して高視聴率を取った番組を再放送する「Variety Program」の2つのチャンネルの放映が、衛星から送られてきたデータをラサの放送局で受像し、AI翻訳機でチベット語に変換して、お茶の間へ届けている。
日本でチベット国内ニュースを朝夕の2本分を作成して暫定的に流しているが、いずれ番組の編集作業をチベットに移転して、チベット発となるニュース配信に切り替えていく予定だ。今は大勢の記者達がラサに滞在中なので、情報量も多いが、いずれは減少してゆくだろう。独自の取材も必要となる。

テレビもラジオも、中国の放送を引続き放映しているが、扱いをどうするかは政府の判断に委ねている。しかし、日本の新番組の方が好まれているらしく、6月以降の中国の視聴率は数%に低迷しているという。十中八九、放映は中止になると聞くとチベット人の中には感情的なものも多分にあるのだろうと推察せざるを得なかった。
ラジオは、自衛隊と米軍には欠かせない。FMの音楽専門局があるので、隊員も兵士達も楽しんでいるようだ。チベットの飲食店でも中国の音楽はパッタリと聞かなくなり、FM局の欧米の音楽が流れるようになった。変化が少しづつ始まろうとしていた。

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標高のある高原地帯は夕方になると気温がグンと下がり始める。暗視ゴーグルをつけた6人が動き出した。
今は建屋の中は食事中で、この時間が最も音が出るのが分かっていた。椅子を動かす音、アルミの食器がスプーンと重なる音、スープを啜る音、しかし人の声は殆ど聞こえなかった。そこにあったのは人の溜息くらいだろうか。

6人が建物に近づくと散った。6人が足に履いているのは足袋だった。2人は弾倉を抱えた連射式銃と小銃という重装備だったが、4人の腰には短い日本刀が挿してあった。6人は古式歩行術で音も立てずに、食事で手薄になった警備兵へ近づき、その背後へ回ると、鋭利に磨かれた短刀で後ろから首を掻いた。頸動脈から噴水のように血が吹き出すが、暗闇では見えないだろう。4人の警備兵の心臓を、背後から差して事を終えると、静音ドローンが5機ゆっくりと現れた。建物を覆うようなシート状のものを4隅を4機のドローンが引っ張り。シートのセンター部を引っ張り上げるように1機の
ドローンが吊るしていた。そのシートが建物を包んでゆく。6人の隊員達は背負ってきたボンベのホースをシートの穴から挿してボンベの中身を注ぎ込んでいく。ボンベに入っているのは高濃度の無臭の睡眠ガスだった。計算では5分後には食堂付近まで睡眠ガスが到達・蔓延する。隊長が内部の盗聴音声を聞きながら、時計のストップウォッチを眺めていた。3分の所でバタンバタンと音がするようになった。ガスが効き始めたのが想定よりも早かった

4分経った処で隊長がライトを3度点灯させるとナイジェリア軍が一斉に建物めがけて斜面を降りてゆく。その1分後には先発の5名が建物に侵入してゆく。直に一人が出てきて腕をグルグルと振りまわした。ナイジェリア兵が怒涛のごとく建物に突入してゆく。暫くすると担架に載せられた女子学生が次々と運び出されて庭に並べられてゆく。
大型ヘリが3機やってきて、2機が上空で周囲を偵察しながら、1機づつ降りて担架を運び入れてゆく。練習した甲斐もあって作業が迅速に進んでいく。32名全員が運び終わると、「後始末」をナイジェリア兵に任せて、日本の特殊部隊6名は撤退地点まで退却移動を始めた。

建物の中では、責任者だけが確保され、残りの13名は眠ったまま人生を終えてゆく。さすがに日本が請け負う内容ではない。
いきなり警備兵4人を殺めた、4人の自衛官にとっては今回が初めての殺人となってしまった。何度も事前に指摘されていたように、自分の意識の中に混濁や混乱の兆候が認められた。その混乱・葛藤状態を軽減する為に、殺傷後直ぐに特性のドリンクを飲んだ。コカの葉を抽出して覚醒作用の濃度を高め、炭酸と砂糖とで割った特殊部隊特性のコカ・サイダーだった。色は一見緑茶のようだが、味はサイダーと何ら変わらなかった。この飲み物で妙に意識が冴え、眠気も吹っ飛んでいた。
殺傷に加わらなかった2人が、4人の表情を見ながら、通常時との違いを確認しながら走っていた。暗視カメラで見ると、ハイになって笑みさえ浮かべている4人をなんと形容すればいいのか分からなかった。基地まで戻れば、精神科医のケアが待っている。今はコカの成分で高揚させられているだけだが、4人が通常の状態に戻るのを祈り続けていた。
待ち焦がれたヘリが、ようやく見えてきた。隊長がチームの5人と肩をそれぞれ組みながら、一人一人に謝意を伝えた。6人のミッションが、成功裏に終ろうとしていた。

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「Misson Complete」その第一方がチベットの櫻田に届いた時は会談中だったが、櫻田が突然泣き出したので、成功したのか失敗なのかが分からなかった。越山が櫻田を抱きしめて、良かった良かったと言っているので上手く行ったのだろう。席上にいる3カ国の代表達は一体何事だと怪訝な顔をしている。越山が振り返って「全員無事救出です」と教えてくれたので、モリが口を開いた。

「ナイジェリアで女子学生が拉致された事件が10日ほど前にあったかと思います。ナイジェリア軍が先程全員の救出に成功したそうです。日本は設備一式を提供しましたが、日本が支援したのは今回も内緒です」最後だけ、アメリカ側を見て皮肉を込めて言い放つ。

インド首相が立ち上がって拍手を始めると3カ国の全員も首相に倣った。
櫻田と越山は、12年前の北朝鮮の拉致被害者救出に引続いて、偉業を支援した。今回は計画立案者でもある。何度も遭遇するのは困る話なのだが、2人にとっては終生忘れることのない救出劇となるだろう。
 
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ナイジェリア軍に貸与したロボットがゴム弾を放って、反政府組織の拠点の攻略を始めていた。初日で5拠点を接収し、300名近い連行者を挙げた。
政府が武装勢力の一掃に乗り出し、拉致された学生を全員救出した。組織の拠点を5箇所制圧、掃討作戦は継続中、と報じられると市民は歓迎した。
根本的な問題解決を実現するためには、議員の間には媚びる賄賂や不正などを正さなければならないのだが、「女子学生拉致」という一線を越える犯罪行為には鉄槌を下さざるを得ない。
アフリカ最大の経済国ナイジェリアであっても、基本原則の遵守が徹底できないので、インフラ投資的な金額の嵩むプロジェクトではなく、中南米諸国連合の実経済に即した商業ベースの経済活性化が、アフリカ諸国には適していると考えていた。中国マネーのバラマキが不正の温床になっていたが、その中国がアフリカから撤退したので、多少は改善するだろうと見ている。

救出作戦に携わった南米方面所属の海上自衛隊は、輸送船と船のクルーとロボット技術者を残して、ナイジェリアを撤収した。6名の特殊部隊自衛官はベネズエラ行きの航空機に搭乗し、カラカスの自衛隊病院で検診後、休暇に入る。チベット入りしているチームが戻ると2チームが中南米担当として、ベネズエラを拠点に活動してゆく。
日本や北朝鮮では出来ない活動に、積極的に取り組むのが目的とされているが、恐らくアフリカでの作戦参加が増えるのだろう。

アフリカ系ユダヤ人がナイジェリア軍の中佐、少佐クラスを買収して自衛隊が纏めた救出作戦の資料を入手した。イスラエル軍の作戦室が分析していった。作戦自体の完成度は事前に把握している情報量が膨大なまでに揃っているので、非の打ち所が無かった。資料が触れていないのが、この事前の情報収集能力と集まった情報の多さだ。そして先人役を努めた6人の先遣隊だが、内偵活動も含めて担当したのが自衛隊だと、ナイジェリアの中佐が証した。催涙ガスを濃縮して、噴出後に拡散しやすいように短時間で改良できる技術開発力もさる事ながら、自衛隊が特殊部隊を持っていて、日本古来の装備を利用したという。この日本の特殊部隊の詳細を把握すべく、モサドに指示が下された。

日本が作戦の主謀者であり、反政府組織人員への大量尋問で組織の全容も掴み始めていると聞くと、米中の軍隊には脅威となる。ナイジェリアに続けとばかりに、各国政府が国内の治安維持回復のために自衛隊に協力を求めていく可能性がある。
既に自衛隊が関与したコロンビア、メキシコ、グァテマラ、パナマ、ハイチ等では、実際に日本との結びつきが急速に深まっている。日本がちゃっかりと経済的な恩恵を受けてゆく図式が定着するかもしれない。世界の警察官という代名詞は、日本が確立したものにするかもしれない・・

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チベットの首相がアメリカに回答を求めていた。
チベット政府のITチームが、解析機を持って米軍と自衛隊のレーダーを調査した。昨日、中国人民解放軍のヘリコプター3機がチベット北部に侵入してきた事件が発生したのを受けて疑念が生じた為だ。日本のレーダーは中国機が侵入したのを捉えて、首相に第一報を伝えたが、米軍のレーダーでは感知できなかったばかりか、逆に別目的で飛翔した米軍ヘリを、中国のヘリが追尾するという状況になっていた。何故、こうなったのかチベット政府で調べたところ、米軍のレーダーの出力が想定より低いことが分かった。到底チベット全域をカバーできず、2/3が精々だろうと判定された。首相が回答を要求したのは、国防を委ねた米軍が何故、提出された仕様と異なるレーダーを使っているのかというものだった。

既に米軍のレーダーとヘリコプターの数とヘリの乗員数、迎撃ミサイルの数量がどれも仕様書よりも少ないのは自衛隊の内偵調査で分かっていた。いずれ指摘するタイミングがやってくるだろうとは思っていたが、昨日、中国のヘリが堂々と侵入したことで露呈していた。ヘリ全機を投入したが、その数も少なく自衛隊ヘリの捜索と侵入した中国ヘリの対応と複数事案が生じただけで、機体が足りない事実を露呈していた。
会議に出席している米軍のコンサルタントが、「まだ1次分で、間ももなく2次分が到着します」と言ってしまい、櫻田外相がキレた。

「何を言ってるの!貴方方が勝手に装備を縮小したんじゃないの。これがその証拠です!」
会議室に響いたのは、会議参加者と同じ声の男性の発言だった。

「どうせ、中国は来やしない。兵力は半分で十分だ。その分の利益で我が社の当初の目的は達成する。これで帳消しとしようじゃないか・・」

「サミュエル特使、これはどういうことですか!」首相が机を叩いた。

「僭越ながら、我々からも一言申し上げます。米軍は今回、国連軍として参加されている。これは国連資金の不正利用であり、横領と見なされる事はご理解されていますでしょうか?」インドの外相が、予定通りにツッこむ。

「ですから、間もなく2次分が到着しますので・・」コンサルタントが蒼白な顔をして、尚、しらを切った。

「間もなく到着するにしても、6月1日に揃っていなければ協定違反ですな。間違いありませんね、サミュエル特使?」インド首相が追い込んでいく。米軍に追加オーダーの形跡も無いのも内偵済だ。

「いずれにしましても、ご指摘頂いた内容を早急に纏めましてご報告いたします。内容につき、私が不正を見落としておりましたのは事実に相違ありません。協定に反するのは明らかですので、国連からの資金も受取る資格もありませんし、米国政府としては違約金をチベット政府にお支払致します」 

包囲されたサミュエル特使は、耐えきれずに非を認めた。
コンサルタント会社などに依存する米軍が、ここ一番で しでかした大失敗だった。ワシントンはこれで面目丸つぶれとなる・・

「サミュエル特使、2次隊がいつ到着するか教えて下さい。それまでの期間でタイとビルマの自衛隊を確保しますので。数日で宜しいですか?」モリがトドメを打って、コンサルタントが死にそうな顔をしている。

「大統領閣下、申し訳ございません。米軍はこれ以上の増員が出来ません・・」ラサ駐留米軍 司令官が頭を下げた。

「これは大問題になりますよ。私が事務総長でしたら、アメリカ合衆国を絶対に許さないでしょう・・。 櫻田大臣!至急自衛隊に連絡。ヘリと乗員以外に、迎撃ミサイル1千式を大型輸送機で運べ。それから念の為に垂直離陸AI戦闘機50機と護衛用サンドバギー500式、全て今日中だ!」 

「分かりました!」櫻田外相兼防衛大臣が「予定通りでお願いします」とタイとビルマの両司令官にメールした。

新造した滑走路は本日より自衛隊の基地へと転ずる。これも予定通りだ。

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「迎撃ミサイル千式、無人戦闘機50機か、凄まじいですな・・」モートン国務長官が全員に聞こえるように皮肉を込めて話した。CIAに独断で調査の指示を出した大統領に加えて、派遣米軍の詐称を行い。その行為に恥の重ね塗りをしたコンサルタント会社と、チベットとウイグルで2つの失態を重ね、モリが怒るのも当然だった。
モリは、チベット政権から委託されて、チベットへ領空侵犯した中国政府に対して、明確な協定違反であると違約金の即時払いを求めた。

中国もアメリカも大損となる。双方で牽制しあっていた意味がお互いの軍部の意識と認識の脆弱により、内部から破綻してしまった。米国コンサルタント会社は戦勝国気分で利益を少しでも稼ごうという意識に塗れた。一方の中国人民解放軍は、チベットは永久に中国のものだと誤解している軍人が横行している組織であるのが露呈した。どちらも国内のモノサシ・尺度ばかりを掲げて、自滅した。組織の中間層を把握しきれていない上層部の過失でもある。ペナルティを課すだけでは済まない話だ。
国連はチベット国連軍の主力を自衛隊に変更する手続きを取った。事務方が淡々と米国へ報告し、体制が変わった。中国は隣国に不法侵入した咎が問われる。前者はコンサルタント会社を首にして、勝手にアメリカ政府が補填するなり、潰すなりすればいいだけだが、懸念すべきは人民解放軍で、兵士一人一人がチベット人を差別的な目で見ているのであれば、上層部を無視して発泡・攻撃してくる可能性がある。その為に自衛隊は防衛力の強化を行い、万が一に備える事にした。

現時点に於いては、インドー日本連合が主導権を握った。

(つづく)   

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