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【観劇レポ】今あるものに目を向けよ ミュージカル「ブラッド・ブラザーズ」

2022年ミュージカル観劇第3弾。「ブラッド・ブラザーズ」の大阪4/22公演を観てきました。

まる2カ月も観劇していなかった上に、仕事やらなんやらが忙しくて心が荒んでいたので、心洗われる良い観劇となりました。・・・ストーリーは悲しいのですが。

梅田芸術劇場のシアタードラマシティでの公演。メインホールよりこじんまりとしているのもあって、舞台がすごく見やすい。ここで舞台を見るのは3年前の「ヘンリー5世」以来かもしれない。19列目の真ん中で、めちゃくちゃ見やすかったです。

ストーリー概要:ミッキーとエディ。双子として生まれたものの、ひとりは産みの親の元で、もう一人は子宝に恵まれない人のもとで育てられる。二人は同じ日に生まれ、違う環境で育ち、同じ土地で友人として過ごし、違う人生を歩み、同じ日に死ぬ。これはとある双子の物語。

無敵なこども

メインキャストである双子の二人を含め、誰も救われない物語。冒頭からバッドエンドであることに言及されたうえで展開されるストーリーゆえに、1幕のこどもたちが持つ独特の無敵感が印象に残ります。

こどもならではのずる賢さ、無邪気さ。今、その場をしのぐためにウソも付く。目の前の楽しそうな出来事に触れずにはいられない。「あーそうそう、こどもってこういうこと言うよね・やるよね」というポイントが多くて、そこには間違いなくイギリスのこどもたちがいました。
そして絶対的な「母」への信頼感。こどもにとっての帰る場所。あるいはこどもにとっての世界のすべて。母という帰る場所があるからこそ、こどもたちは無敵でいられるのかもしれません。

こどもたちは、「指をクロスして10秒数えたら死んでも復活する」とか、大人からしたら何の合理性もないルールの中で生きている。1幕の多くの場面が創り出す「こども特有の万能感・無敵感」が、2幕の悲劇的な展開をより際立たせる気がします。
「大人の世界の不合理」であり、「現実」であり、「無敵ではない矮小な自分という存在」。指をクロスしたところで、身に降りかかる不幸を、認めたくない現実を、なかったことにはできない。

2幕中盤、ミッキーが失業し、そこへ大学生活を謳歌するエディが帰ってきたという場面での二人のやり取りが、「こどもと大人」の違いを象徴するようにも感じます。世間の荒波が、不条理が、日々の生活が、無敵のヒーローだったこどもたちを大人にしていく。

TVドラマや映画なら、子役を使うであろうところですが、「それなり」の年齢のキャスト陣がこどもに扮する姿にプロの魂を見ました。カッキーに至っては、半ケツ出してましたしね。
ミッキーとエディ、リンダについては、少し成長した思春期の場面が2幕で出てきます。こちらも共感性羞恥を引き起こされるような、世界の男子が通る道というかなんというか・・・うん、甘酸っぱかったです。

ないものねだり

子宝には恵まれたが、貧しく生活が苦しいジョンストン。中流の暮らしは手に入れたが、子に恵まれないライオンズ。
聖書に誓った悪魔の契約、人身売買により、ミッキーとエディの運命は悲しき末路を迎えることになります。

悪魔の契約により、ジョンストンには「ひもじい思いをさせず、我が子の成長を見届けること」を、ライオンズには「念願のこどもをもち、育てること」を手に入れました。
しかし手に入れた幸せを守ろうとするあまり、我が子を少しでも手元で愛でたいという母性が、ジョンストンには我が子と引き裂かれ成長を見守れない苦しみを、ライオンズには自分が産みの親ではない後ろめたさへの苦しみを与えてしまいます。

どちらもただ、母として愛を注ぐことに一生懸命だっただけなんですが、皮肉にもそのすべてが双子の最期に繋がってしまう。ジョンストンがエディに渡した写真入りのロケット。後ろめたさからジョンストンを嫉妬するライオンズ。
最後の引き金となるのはジョンストンの告白。聖書に誓った秘密、二人が双子の兄弟であること。二人の息子に生きてほしいと願うばかりに、二人を大切に想うばかりに、放った告白が、ミッキーに引き金を引かせてしまう。子を売り、子を買ったことへの罰なのだとすれば、その罰は子に向けられるべきものだったのでしょうか。

そしてその二人の母親に育てられたミッキーとエディもまた、お互いに自分のないものを見て、相手の持つものを羨ましく思います。容姿、性格、教養、育った環境、そしてリンダへの想い。

偶然か必然か、二人の母が子への想いを歌う「♪我が子」と、双子が互いの羨ましさを歌う「♪あいつに」はメロディが似ている気がします。僕は絶対音感もないので感覚なんですけど・・・。

人生はないものねだり。今持つ大切ものに目を向けられず、持っていないものを欲すれば、すなわち待ち受けるのは絶望的な終末
今生きている時間を、今ある幸せを、大事に生きなければならない。そんなメッセージがあるように感じます。

マリリン・モンロー

劇中歌でたびたび登場する大女優、マリリン・モンロー
僕があまり彼女のことを知らず深堀できていないのですが、ざっと以下のようなイメージモデルとして登場しているのかなと考えました。

(有識者の方、もしよければ教えてください)

・華やかで美しい姿から、若きジョンストンの女性らしい魅力を表現
・銀幕スターとして華々しい活躍をした一面から、映像の中の人物の象徴として登場し、「この悲劇的な物語がフィクションであったならよかったのに」というジョンストンの思いを表現
・薬が手放せなかったという説から、ミッキーが中毒となっていく姿を重ね合わせた表現
・モンローも若くして亡くなったことから、ミッキーとエディの悲しい最期と重ね合わせた表現

自分でまとめておいて言うのもなんですが、国語の試験問題解説みたいな書き方やな。

言葉が届きやすいミュージカル

これは他の作品を貶める意図ではないのですが、ミュージカルはやはり音楽がメインになりがちなので、セリフや言葉が音に負けることもあるように思います。一言一句を聴きとれなくても話は理解できるし、ミュージカルを楽しむことはできますが、やはり聞き取りやすいことに越したことはないです。

その中で本作は、セリフ・言葉がすごく聞き取りやすいなと思いました。ストーリーがスピーディーに流れていく中で、話の展開、キャラクターの心情が聞いたその場で落とし込まれる感覚、とでも言いましょうか。

劇場のキャパ、音響設備と座席の位置関係、キャストさんたちの力量・工夫、あるいは演出やセリフの組み立て方など、たくさんの要因があると思います。グランドミュージカルのように、ずっと歌いっぱなしというわけでもなく、歌唱シーンとストレートプレイのメリハリがしっかりしていることもあるかもしれません。

言葉が届くという意味では、特に最後の場面、堀内さんの歌唱シーンは、もう圧巻の一言でした。このストーリーを凝縮したような言葉と音が劇場中に放たれ、観客の細胞一つひとつを震わせるような。言葉に感情を乗せ、感情に音が乗っている。さすがの一言で片付けてはいけない凄みがありました。

伊礼さんの狂言回しも素晴らしく、この舞台の世界を呪うかのように何度も歌われる「♪テーブルの上の靴」は耳に焼き付きます。

アフタートーク

終演後30分ほどのアフタートーク付きでした。出演はウエンツさん・柿澤さん・木南さん
楽屋着+グッズTシャツのラフな感じで登場。カッキーはTシャツを洗濯して置いてきたらしく、グッズ販売コーナーで買ってこいといじられていました。あと、モコモコのスリッパが暑くて序盤で裸足になる木南さんカワイイ。

メインキャスト3人に加え、ゲストで伊礼さんも登場。ゲストという体でありながら、結局序盤から最後までいるので実質4人のアフタートーク。マイクが足りないので、劇中で使ったマイクをわざわざ付け直してのご登場。

最後の最後には、伊礼さんが舞台袖を見ながらソワソワしているなあと思ったら、一路さんが一瞬ご登場。

ウエンツ君が司会回しながら「キャスト同士の暴露」コーナー。
(カッキー「最近はやりの暴露ね」ウエンツ「やめなさい」)

・九州公演からの帰りの飛行機で、出発時間になっても現れない内田さん
・登場シーン直前、舞台袖で「いっくぞー!」みたいなポーズをしているカッキー(それを実演させられるカッキー)
・子ども役として登場する前は念入りな準備をしている年齢高めなキャスト陣
・セリフを間違えたら出演者にクエン酸を配って回る堀内さん
・クエン酸配布をルール化したい伊礼さん
・セリフ間違えの回数が多いのにクエン酸を配っていない一路さん
・楽屋でもずっと喋っているうるさい内田さん
・集中モードの堀内さんの近くで大声を出す内田さん
・それを注意されて「すみません!」の声もでかい内田さん
・暴露がテーマやのに普通に質問を投稿する堀内さん
・カステラの紙ごと食べちゃう一路さん
・これにとどまらないチャーミングエピソードの宝庫な一路さん

ちょうど同じ劇場で「千と千尋の神隠し」の舞台がやっていたので、「出るなら何役で出たい?」と堀内さんからの質問。
伊礼さん「あっちはハッピーエンドなので、ナレーターとしてストーリーをぶっ壊しに行きたくなっちゃう」
ウエンツさん「千尋より年下の役やってるから、みんなこのままの役で出れるね」
こんな話をしていたと思います。

終演後で絶対疲れている状態なのに、楽しいアフタートークをしてくださってありがとうございました。

今あるものに目を向けて

誰も救われない物語。この物語がフィクションであることにどれだけ救われることか。

一方で現実、やはりないものねだりになるのが人間の性で、身につまされる思いがしました。こどもの時のように「今」を一生懸命に生きる純粋さ、自分が本当に大切なもの、今自分が手にしている幸せ。見失わないよう、手から零れ落ちてしまわないようにしたいなと感じました。

ちょうどこれを書き終えた4/24、大千穐楽を迎えた頃でしょうか。このご時世にあって、無事に1か月強の公演を終えられてうれしいです。

2カ月ぶりの観劇、はあー、やっぱりミュージカルはいいなあ。

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