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GAFA解体論を間違って理解しないために知っておくべき“L字型”の基礎理論

「GAFAは巨大だから解体すべき」という誤解

10月6日に、米国下院の反トラスト小委員会が、GAFAの分割も含む提言を盛り込んだ報告書を公表したことは、色々なニュースで取り上げられているとおりです。

あくまでも議会の提言ですので、必ずしもこのままGAFAの分割が進められるわけではないのですが、このような巨大企業の分割は、競争政策の界隈では構造分離(structural separation)と呼ばれ、米国ではこれまで実際に行われてきています。例えば、1911年には、連邦最高裁の命令によりロックフェラー財閥の石油会社スタンダード・オイルが分割されました。また、電話発明者グラハム・ベルに源流を持つ通信会社AT&Tが、1984年にやはり競争法を巡る訴訟の結果分割されています。ちなみに、日本でも1999年にNTTの再編成が行われましたが、このAT&T分割がモデルになっています。

このGAFA解体論についてのよくある誤解は、「GAFAは巨大だから解体すべき」というものです。これは100%誤りというわけではないのですが、決して正しい理解ではありません。私は総務省で色々な仕事をしてきた中で、特に通信市場の競争政策というテーマに長く携わってきましたので、その経験を踏まえ、構造分離に関する競争政策の基礎理論について書いておきたいと思います。少し抽象的で難しい話かもしれませんが、なるべく分かりやすく書いてみます。

GAFA解体論を導く“L字型”のビジネス領域

大前提として、構造分離が必要という議論が出てくる市場には、非常に特徴的な競争の構図があります。

まず、普通の競争の構図を絵にしてみました。企業Aと企業Bは、Xというサービスの市場で、お客さんの獲得に向けて競争しています。

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それでは、どのような競争の構図が競争政策上問題だとして構造分離の議論を招くのでしょうか。実は、必ずしも独占自体が一番の問題というわけではありません。次の図を見ていただきたいのですが、企業AはサービスXについて企業Bと競争しつつ、Yというサービスの市場を独占しているとします。また、企業Bがお客さんにサービスXを届けるためには、企業Aが独占しているサービスYを使わざるを得ない状況にあるとします。少し分かりにくいかもしれないので例も出しておきます。

- 企業Aはネット販売(X)のマーケットプレイス(Y)を独占している
- 企業Bはネット販売(X)をするためには企業Aのマーケットプレイス(Y)を使わざるを得ない
- 企業Aは自らネット販売(X)も行い、企業Bと競争している

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このように、企業Aのビジネス領域がL字型となっているのが非常に特徴的であり、私も競争政策を担当していたときには何枚このL字の絵を描いたか分かりません。報告書では、これがGAFAを取り巻く競争の構図という前提で議論を展開しています。GAFAはまさにこの企業Aであり、企業Bのようなプレイヤーはお客さんにサービスを届ける上でGAFAのサービスを使わざるを得ないとしています。具体的にサービスYに当たるのは、Googleでは検索と検索連動型広告(独占)、Amazonではマーケットプレイス(重大・持続的な市場支配力)、FacebookではSNS(独占)、AppleではモバイルOS(重大・持続的な市場支配力)です。そして、GAFAはサービスYによりお客さんとの窓口をコントロールしていることから、門番(gatekeeper)の役割を果たしていると評価しています。

独占領域と競争領域の両方でビジネスをすることで生まれる問題

ここで、独占の梃子(monopoly leverage)という問題が生まれてきます。つまり、企業Aは独占領域(Y市場)と競争領域(X市場)の両方でビジネスをしているのですが、独占領域で得た強みを競争領域でも使うことにより、競争領域での公正な競争が成り立たなくなるというものです。

例えば、企業Aは、企業Bが企業Aの独占サービスを使わないとビジネスができないことにつけ込み、高い手数料を課すことができます。そして、そのようにして得た潤沢な資金を、企業Bと競争しているX市場の領域につぎ込みます。

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また、企業Bのビジネスは企業Aの独占サービスを使って行われているため、企業Aは企業Bやその顧客の情報を入手することができます。このような情報を、企業Bと競争しているX市場で使うことにより、X市場でも圧倒的に有利な立場に立つことができます。報告書では、GAFAが将来強力な競争相手になるおそれがある有望なスタートアップ企業を次々と買収してその芽を摘んできたことを問題視していますが、独占領域で入手した企業情報・顧客情報により、どのスタートアップ企業が有望かということ自体も分かるとしています。

このように、企業Aが独占領域と競争領域の両方でビジネスをしていることにより、(Y市場での独占はやむを得ないとしても)本来公正な競争が行われるべきX市場での競争までもがゆがめられてしまうということになります。

だからこそ、企業Aを独占領域と競争領域とに分割し、L字型を解消するのです。これにより、(Y市場での独占はさておき)X市場では、企業Aと企業Bが公正に競争できることになります。

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そもそもなぜ独占が生まれるのか

ところで、そもそもAはなぜY市場を独占できるのでしょうか? これにはいくつか要因がありますが、GAFAについて一番重要な要因として挙げられるのは、ネットワーク外部性(network externality)あるいはネットワーク効果(network effect)と呼ばれるものです。

ある世代以上の方であれば、昔はmixiを使っていたんだけども、ある時期からFacebookに切り替えたといった経験をお持ちだと思います。なぜ切り替えたのでしょうか? 友人や知人がFacebookを使うようになったからではないでしょうか。これがネットワーク効果です。

これを分かりやすく説明してみます。1,000人が参加しているSNSと、10,000人が参加しているSNSがあるとして、これから新しくSNSに参加するときに、どちらを選ぶでしょうか。ほとんどの方は、10,000人のSNSの方だと思います。なぜなら、より多くの人とコミュニケーションすることができるため、価値が高いからです。したがって、ユーザーは価値の高い10,000人のSNSの方に流れていくことになります。こうしてユーザー数が多いSNSは雪だるま式にユーザーを集め、独占に向かうことになります。

また、GAFAが提供しているようなデジタル・プラットフォームのサービスは、このようなネットワーク効果がより強力に働く仕組みを備えています。これは、デジタル・プラットフォームが両面市場(two-sided market)と呼ばれる特徴を持つことによります。

検索サービスを例に取ると、検索をする利用者と、検索結果に広告の掲載をお願いする広告主という2種類のお客さんが存在し、それぞれを相手にする2つの市場があるということになります。これが両面市場です。

そして、まずこの2つの市場それぞれの中でネットワーク効果が働きます。これを「直接ネットワーク効果」といいます。ここで特徴的なのは、一方の市場でのお客さんの増加が、その市場のお客さんのみならず、もう一方の市場でのお客さんも増やしていくことになることです。これを「間接ネットワーク効果」といいます。例えば検索サービスの利用者が増えると、広告主にとっても魅力的となるため、広告主も増えていくという風に、2つの市場をまたがってネットワーク効果が働くのです。このような直接・間接のネットワーク効果による強力な雪だるま効果が、GAFAの巨大化を支えているのです。

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GAFAが巨大化する理由はこのほかにもあるのですが、令和元年版情報通信白書にそのあたりのことを書いてありますので、興味のある方はご覧いただければと思います。

独占自体を解消するための方策にも要注目

それでは、独占はこのネットワーク効果によって生まれる以上、仕方ないものとしてあきらめるしかないのでしょうか。報告書は、この点の解決策についても提言しており、実はこちらの方にもっと注目すべきではないかと思います。その解決策とは、相互運用性とオープン・アクセス(interoperability and open access)です。これだけでは何を言っているのかよく分からないかもしれませんが、要はFacebookのユーザーと他のSNSのユーザーが、お互いにコミュニケーションできる仕組みにすることで、ネットワーク効果が働かないようにしようということです。先ほどの例でいえば、1,000人が参加しているSNSと、10,000人が参加しているSNSのどちらを選んだとしても、11,000人とコミュニケーションできることに変わりはないという状態を作るのです。

報告書にも書いてあるとおり、通信の世界では既にそのような仕組みができています。実際、ドコモのユーザーは、auのユーザーと通話することが可能です。そして、これを可能にしているのは、法律で通信ネットワーク同士は接続しなければならないという規制を課しているからです。

○電気通信事業法(昭和59年法律第86号)
(電気通信回線設備との接続)
第三十二条 電気通信事業者は、他の電気通信事業者から当該他の電気通信事業者の電気通信設備をその設置する電気通信回線設備に接続すべき旨の請求を受けたときは、次に掲げる場合を除き、これに応じなければならない
一 電気通信役務の円滑な提供に支障が生ずるおそれがあるとき。
二 当該接続が当該電気通信事業者の利益を不当に害するおそれがあるとき。
三 前二号に掲げる場合のほか、総務省令で定める正当な理由があるとき。

もしこのような規制がなければ、やはりネットワーク効果により、ユーザーの多いサービスがますますユーザーを集め、独占に向かうということになってしまうでしょう。実際、電話発明者グラハム・ベルが起ち上げたスタートアップ企業のベル電話会社が、独占企業AT&Tへと成長していく上での最も重要な戦略は、当時は法律で規制されていなかったネットワーク接続の拒否をすることだったのです。

会社の分割というのは、様々なコストを伴うものであり、実際にはなかなか難しいでしょう。また、そもそも独占を解消できるのであれば、それにこしたことはないでしょう。そのような中で、通信分野のネットワーク接続規制を参考にした相互運用性とオープン・アクセスという措置にもっとスポットを当ててみても良さそうです。

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