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ami.SaaS:高い解約率は次なる成長の種だ

ユーザベースの佐久間です。

SaaSについて、私の経験から少しでも一般化できそうなことをお伝えするami.SaaS。初回は「解約率は成長の上限を決める」ということについて書きました。

たくさん反応いただきうれしかったっす。note ✕ Twitter最高だな。

今回は、その逆のテーマについて書きます。「高い解約率は次なる成長の種になる」という話です。

さて、前回同様、1つの画像からはじめます。私の大好きな四象限マトリクスです。

この画像の意味を解説し、「高い解約率は次なる成長の種になる」ということを実際のストーリーを交えてお伝えします。

テクニカルな話の文量が多くなってしまったので、「SPEEDAで次なる成長の種をどう探したか」というストーリーだけに興味がある方は、最後の方を読んでください。

SaaSセグメントマネジメント、GRMを使おう!

このマトリクスは、縦軸に成長率、横軸に継続率をとっています。継続率は解約率の逆です。解約率が10%なら継続率は90%。

前回、「ユーザーセグメントごとに解約率を計算することが重要」と書きましたが、それはこのマトリクスを使うためです。シンプルで、強力です。

名前をつけましょうか。GRM(Growth-Retention Matrix)と便宜的に呼びますね。ダサいかも。

この四象限に、ユーザーセグメントをプロットしていきます。プロットするのに必要なのは、ARR(持続的な年間売上高)、成長率、解約率です。

成長率、解約率はそのセグメントの数値です。前年比の数値や、前月比の数値から示唆される今後の見込み成長率、解約率などを使うと良いでしょう。

各セグメントの円の半径をARRに比例させて、このようにプロットします。これは、昔のSPEEDAの例です。

最も円が大きく、ARRが大きいのが「プロファーム」セグメント(銀行、証券、コンサルなど)、成長率が一番高いのが「マーケ」、成長率と継続率両方が高いのが「経営企画」。

「ユーザーセグメントの分け方」についても別途記事を書きたいのですが、「ユーザーの課題とそれへの解決策」を用いてセグメントを分けると考えてください。カスタマーサクセスストーリーで分けるということですね。

この四象限、それぞれが持つ意味は下の画像の通りです。この説明が今回のコアです。

(右上)成長率、継続率が共に高い:
PMF(プロダクトマーケットフィット)が達成できていて、かつ伸びている。なので、マーケティングの重点領域として伸ばしていく。

 (右下)継続率が高いが、成長率が低い:
PMFが達成できているが、伸びが鈍化してきた昔のコア領域。アカウント営業的に、既存顧客を周り、アップセル、クロスセルの機会をつくる。

(左下)成長率、継続率が共に低い:
マーケティングを行わない領域。意図して伸ばさない領域。

継続率の真ん中のラインは、前回の記事でお伝えした通り、10%が基準になると思います。

成長率については、明確な基準は思い浮かびません。Global Top SaaSの成長率(T2D3など)を基準にするか、自社で目指す成長率を基準にすれば良いと思います。

この2つを重ね合わせたのが、冒頭の画像です。

GRMを用いて次なる成長の種を探す

今回、私がもっともお伝えしたいのが、左上の領域についてです。

成長率が高いが、継続率が低く、PMF(プロダクトマーケットフィット)が達成できていない領域。

成長率が高いということは、現在のPMFの周辺領域であり、かつ、明確なユーザーニーズがあるということ。そして、そのニーズに応えきれていないということ。

これこそが、開発とカスタマーサクセス活動で、PMFを達成し、次なる成長の種をつくっていく領域だと思います。前回お伝えした、

開発 → カスタマーサクセス → マーケティング

の順番の出発点になるべき領域ですね。

SPEEDA:M&Aと新規事業で次なる成長の種をつくる

ここから、SPEEDAについての、実際のストーリーの話に入ります。

実は、上のセグメントは粗い分け方であり、実務で使っているセグメントはもう少し細かいです。

例えば、経営画企画でも、M&A戦略の策定にSPEEDAを使うのか、海外競合企業の調査に使うのか、中期経営計画の策定のために使うのか、ではそれぞれカスタマーサクセスストーリーが異なります。

「経営企画」の中で比較的解約率が高く、応えきれていなかったニーズとして「ベンチャー企業の調査・提携・投資」というものがありました。

SPEEDAに格納されているベンチャー企業情報は当時限定的で、このニーズに応えきれていなかった。

そこで、entrepediaという日本唯一のベンチャー企業データベースを持っていたJVRという会社に事業提携の話を持ちかけ、結果、事業継承(M&A)という形にいたります。

そのときの話もnoteに書いているので、ぜひ読んでいただきたいです。

「ベンチャー企業の調査・提携・投資」について、それに最適化したサービスが必要だとの判断から、entrepediaはSPEEDAに統合させず、単独サービスとしてユーザー価値を追求すると意思決定しました。

そして、ユーザベースの決算説明会資料で開示されている通り、買収後1年で、主にSPEEDAとのクロスセルを通じて、entrepediaの有料契約社数は3倍以上に伸びました。

もう1つの例がFORCASです。これは、左上の「マーケ」セグメント、成長率が高いが、解約率も高い、というセグメントを対象にして新しいサービスを開発した例です。

FORCASを、「SPEEDAをマーケティング用途に発展させる形でどう開発したのか」、についてはこちらの記事を見ていただきたいです。

求人記事ですが、FORCASが生まれるストーリーについて詳細に、オープンに話しています。笑顔は苦手です。

最後に

めちゃくちゃ長い記事になってしまった。。。
ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。

今後書くテーマでもあるのですが、私のSaaS経験にはバイアスがあります。年間ARPU(平均単価)50〜500万円のサービスしか経営したことがありません。

SaaSという大きなくくりに対し、ベストプラクティスは(ほぼ)存在しません。ARPUのレンジごとに大まかな解があり、それを自社のサービスに最適化させていくことが必要だと考えています。

なので、今回の私の考え方は、SMB SaaSやSelf Serve型のサービスにはそのままの形では適用できません。

ただ、それでも何らかのヒントは提供できるかもしれない、と考えて、私の考えをオープンにしました。

ユーザベースはオープンな会社で、私自身ももっともっとオープンになりたい。オープンになることで自己認識が高まり、幸せを感じる力が高まる。

最後はポエムみたいになってしまいましたが、今後も自分の経験をどんどんオープンにしていきます!