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21世紀へ #02


 来週には、21世紀の世界に居る
のかと思いながら、代理店をあと
にした。

 一週間が過ぎて、いよいよ、
21世紀へ旅経つときが来た。
 この世界から、タイムトラベル
する場合は、タイムポートへ行く。

 タイムポートはタイムマシンが
設置してある建屋で、人々はそこ
から、過去へと旅立っていく。

 タイムポートの建屋に入ると、
タイム通関のコーナーへ向かった。

 タイム通関とは、旅行者がこの
世界から過去へ旅立つ資格がある
かどうか、検査する機関である。

 タイムマシンがある部屋の手前
のゲートに、人々が並んでいた。
 そこでは、タイム通関の検査員
が、一人ひとりに対し、検査を行っ
ていた。

 その検査方法だが、人々はパン
ツを下げて、検査員にお尻を突き
出していた。
 その突き出されたお尻にたいし
て、スキャナーを当てた後、旅行
者にいくらかの質問をした後、
ゲートを通していた。

 検査を通った人々はそのまま、
タイムマシンのある部屋へ入って
いった。

 時間旅行代理店のときも、そう
だったが、この世界の人々は、他
人にお尻を見せるのは、わりと平
気らしい。

 電脳世界でも、フランスにヌー
ディスト村などはあったが、日本
では、見ず知らずの人前で、お尻
を晒すことはしない。そんなこと
をしたら、公然わいせつ物陳列罪
で逮捕されてしまう。

 僕は、変態ではないので、そん
なマネはできない。
 人々を見ると、平然とお尻を出
している。
 なかには、この世界でも、露出
狂の部類に入るのだろう、下半身
がすっぽんぽんの人もいる。

 ゲートに並んでいると、いよい
よ、僕の番が回ってきた。
「さ、お尻を出してください」
と通関のおやじが言ったが、僕は
お尻を出せないでいた。
「後がつかえているんだ。早くし
ろ!」
 おやじは苛立たし気に言うと、
僕を睨みつけた。
 なにも、そんなに怒らなくても
……。 わかったよ。
 しぶしぶ、パンツを下すと、
苛立たし気に「まったく」と言い
ながら、おやじは僕のお尻にスキャ
ナーを当てた。

 通関のおやじはディスプレイを
見て、僕が問題の無い人物だとわ
かると、ゲートを通した。

 ゲートを通って、部屋の扉を開
けると、複数台のタイムマシンが
あった。
 何人かの人々が椅子に座って、
自分の順番がくるのを待っていた。

 タイムマシンは結構な大きさだ。
透明な円筒形の筒の中に入ると、
瞬時に過去へ送られる仕組みだ。

 各タイムマシンの前には、一人
のキャビンアテンダントが付いて
いる。
 ここで、またまた、恥ずかしい
ことが待っていた。
 タイムマシンに入る前に全裸に
なるようだ。
 時間旅行代理店では、そんな事
は聞いていなかったぞ。

 過去の世界に、この世界の物を
持って行かない為の措置のようだ。

 タイムマシンの行き着く過去に
も、同じような円筒形のタイムマ
シンが置いてある。その場所は
現地人に見つからないように、
ちょっと次元をづらした異次元の
ポケットに置いてある。

 旅行者はそこで、その時代に合っ
た服装に整えてから、現地へ出て
いく。別に次元を変えた世界に行く
のだから、何も全裸にならなくても
いいようなものだが、そうはいかな
い。
 なぜなら、その時空ポケットはタ
イムマシン一台が置ける狭い所で、
余分な荷物は置けない。

 そこに現地の時間旅行代理店の
駐在員が、現地の服を補給するの
だ。
 当然、そこに未来の服が存在し
てはならない。処分に手間が生じ
てしまう。

 とまあ、こんな訳で、未来から
来るタイムトラベラーは最初はみ
んな全裸だ。

 ちょっと違うが、旅の恥は掻き
捨て、とばかりに、全裸になった。
 服をキャビンアテンダントに預
け、開いている扉から、筒の中に
入った。

 筒の中に入ると、円筒形の筒の
扉が音もなく閉まり、立ったまま
の僕は静寂に包まれた。
 やがて、どこからともなく、
ウイーンという音がすると、筒の
中は、白いもやに包まれた。
 筒の中はまっ白になり、白い世
界に包まれた。

 何分間、そうした白いもやの中
に佇んで居たんだろうか?
 突如、白いもやは無くなり、視
界が開けた。

 円筒形の筒の外の扉付近に、先
ほどとは違うキャビンアテンダン
トが、立っていた。
「ようこそ。坂上様。当社のご利
用、誠にありがとうございました」
キャビンアテンダントは僕に向かっ
て、深々とお辞儀をした。

 僕は両手で前を隠しながら、顔
を真っ赤にして、「はぁ……」
と言うのが、精一杯だった。

 キャビンアテンダントは、服を
僕に差し出した。
「それでは、この服を着まして、
そちらのドアを開けて、この時代
へ行ってください。良い旅を」
 キャビンアテンダントはまたも
深々とお辞儀をした。
「ありがとう」と礼を言って、服
を受け取った。
 服を着て、扉を開けた。
 扉の外は眩い閃光に包まれたが、
それもほんの一瞬の出来事だった。
 僕は、別の何も無い部屋の中に
いた。
 どこからともなく、声が聞こえ
た。
「今、坂上様は西暦2025年の東京
の麻布台にいます。この建物を出
ますと、近くに東京タワーが見え
ます。それでは、坂上様。本日は
ありごとうございました」

 建物を出ると、近くに東京タワー
が見えた。そこには電脳世界で見
慣れた東京タワーがあった。

 この世界での当面のお金の心配
はなかった。 時間旅行代理店に
預けていたお金を、この世界の現
金に換えて、受け取っていた。
 戸籍とか、この世界で生きて行
くうえで必要なものはすべて、未
来の世界での手続きで、済ませて
いた。
 どのように処理をしたのかは、
僕にはわからない。それは、時間
旅行代理店の企業秘密なのだろう。

 とりあえず、用意してくれた、
この世界の僕の家に向かうことに
した。

つづく

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