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21世紀へ #03

 とりあえず、用意してくれた、
この世界の僕の家に向かうことに
した。

 東横線で、神奈川県の元住吉駅
へ向かった。
 元住吉駅から、歩いて5分ほど
にある、アパートの一室が僕の新
しい住居だ。

 ここから僕の新しい人生が始ま
る。
 やりたい事は決まっていた。
西暦2025年のこの時代で、西暦23
41年には存在していた、自動おむ
つ装置を開発することだ。

 会得した、自動おむつ装置の技
術をこの世界で再現したかった。

 未来の世界では簡単に手に入っ
た材料が、この時代には無い。
 この時代にある材料で開発を進
めるしかない。
 自動おむつ装置をこの時代で作
成するのは、簡単ではなかった。

 開発は困難を極めた。
 何度でも洗えて、長期間の使用
に耐えられる必要があった。

 三か月が過ぎたが、開発は思う
ように進まなかった。

 休憩中に、コンビニで買った雑
誌をパラパラとめくっていると、
「ガールズバー」という文字が目
に入ってきた。

 この世界にはガールズバーとい
うものが有るらしい。
 以前住んでいた電脳世界にも、
実世界にも無いものだった。
 すくなくとも、電脳世界の2000年
には、無かった。

 気晴らしに、池袋の夜の街に出
て、雑誌で見た、ガールズバーに
行ってみることにした。

 池袋駅西口からほど近い所に
「ガールズバー ビー」という、
雑誌に載っていた店があった。

 店に入り、カウンターに座ると、
純朴そうな、かわいい子が接客に
対応した。
 その子と話すと、話言葉がだい
ぶ訛っている。
 同僚の子は、その子の訛りをマ
ネして、笑いのタネにしていた。

 彼女は福島の短大を卒業した後、
東京の商社に就職して、一年が経っ
たという。お給料が安いので、こ
こで、アルバイトをしていると言っ
た。

「お客さんは、ここは初めでです
か?」と、訛りのあるトーンで聞
いてきた。
「うん。雑誌みて、ぶらっとね」
「へー。そーなんですか。あだし、
このお店では、まだ1か月なんで
す。お客さんは、どんなお仕事を
してるんですか?」

「僕? 僕はねー、発明家なんだ」
 とっさに何と答えていいか分か
らなかったので、適当にごまかし
た。

「発明家? どんな発明をしてい
るんですか?」
 彼女は、ものすごく興味があり
そうに聞いてきた。
「あ。いや。これから発明するん
だ」
「あはは。なんだー。ぷー太郎さ
んですか?」
「し、失礼な。 本当に画期的な
物を開発してるんだ」

 名刺を彼女に差し出した。
「株式会社 アップデートクローズ
 CEO 坂上ケンタ ……。
社長さんなんですか? かっこい
いですね」
「いや、僕、一人だけなんだけど。
今、社員募集中なんだ。 君、僕
の会社、こない?」
 冗談めかして、言ってみた。
「え? 良いんですか?」
 この子は人を疑うことを知らな
いようだ。
「あ、でも、君は会社勤めをして
いるからダメだろう?」
 この子は本気か?と思いながら
聞いてみた。
「あだし、今の会社、合わないし、
お給料安いし、それで、アルバイ
トしてるんですけど、もっと発展
的なお仕事がしたいんです」
と、目をキラキラさせている。

「そうか、じゃー。今度、僕のオ
フィスに来るといいよ。
オフィスと言っても、アパートの
一室だけど」
 彼女は、満面の笑みで言った。
「井上綾香です。よろしくお願い
します!」
 話の弾みで、社員を雇う事になっ
てしまった……。

「ピンポーン」ドアチャイムが鳴っ
た。先日、ガールズバーで知り合っ
た、井上綾香が面接にやってきた。
ドアを開け、彼女を中に入れた。
部屋の中を、キョロキョロ見回して
いる。
「これ、何ですか? おむつ?」
作業場にあった、開発中の自動お
むつ装置を指さしていた。
 独身男の部屋に、赤ちゃんもい
ないのに、おむつが有る。
 誰が見たって、おかしいと思う
はずだ。
「それは、今、開発中の自動おむつ
装置だ」
「???」
「これはねー。画期的なものなん
だ。
 これを履くと、トイレに行かな
くても済むんだ」
と、得意気に説明すると、彼女は
笑った。
「ええー? お漏らし、したまま
で、いるんですか?」
「いや。そうじゃなくて。これは
ね、排泄物を一瞬にして、分子レ
ベルに分解してしまうのさ」
 彼女に、仕組みを長々と説明し
た。
 理解して貰えたかどうか分から
ないが、彼女なりに、理解したよ
うだ。
「それで、これは使えるんですか?」
 痛いところを突かれた。
「いや、まだ開発段階なんだ」
「じゃー、あだしが、明日からお
でつだいします」
「わかった。じゃー、明日から、
頼むよ。今日は帰っていいよ」
 井上綾香が帰ったあと、再び
開発にとりかかった。

 次の日、井上綾香が出勤して
きた。
 はじめは事務的な仕事を頼んだ。
商社に勤めていたので、事務仕事
は得意なようだ。
 事務仕事は彼女に任せて、僕は
開発に専念した。

 この世界の物で代用できず、
部品の開発に、てこずっていたが、
ある日、パッとひらめいた。

 早速、試してみると、見事に自
動おむつ装置に適合した。
「やったー! やったぞ!
遂に完成だ! 井上君、見てくれ」
大声で叫ぶと、隣の部屋で事務作
業をしていた井上綾香が、作業場
に来た。

「社長、遂に完成ですか?
おめでとうございます!」
「うん。完成したぞ」
僕は、おむつを両手で持って、
彼女に手渡した。

 彼女は受け取ったおむつを、
ひっくり返したり、裏返したり、
して、しげしげと見つめた。
「これ、見たところ、普通のおむ
つですね。何が違うんですか?」
「そうだ。見た目は普通のおむつ
だ。しかし、これが真価を発揮す
るのは、まさにこれを使用した時
だ」

「と、いうことは……」
 彼女は不審そうに、僕をみつめ
た。

 感の良い彼女は、気づいたよう
だ。
「そうだ。今、完成したので、ま
だ、試してない。君、試してくれ
ないか?」

「ええー? あだしがですか?」

 彼女は、ふたたび、手にしてい
る、『おむつ』を見ると、僕に突
き返した。
「嫌です。そんな恥ずかしいこと
できません! 社長からどうぞ!」

 我に返った僕は、冷静に考えて
みると、至極当然の返答だと思っ
た。しかし、ここで引き下がると、
女性の試用者を探すのは大変だ。
ここは、何としても、試用して欲
しかった。

「あ。悪かった。つい興奮して、
変なことを言ってしまった。
すまない。じゃー、僕が最初に試
してみるけど、もう一着あるんだ。
僕が試してみて、問題なかったら、
君にもお願いしたいんだが。
どうかな?」
 僕は、できるだけ下手に出て、
再度、ダメもとで、頼んでみた。

彼女はちょっと困ったように、少
し考えていたが、意を決したよう
だ。
「わかりました。社長が、どうし
てもと、おっしゃるのなら、お手
伝いしましょう。会社の為ですか
らね。その代わり、後で、フラン
ス料理を奢ってもらいますよ」

 彼女の了解は取った。これで
男女の試用ができる。

 僕と彼女は、さっそく試用して
みることにした。

 試用してみると、自動おむつ
装置は完成したかのように思えた
のも、つかの間。
 使用直後に、想わぬ事態が二人
の身に襲い掛かった。

つづく


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