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物理専攻で量子系を研究する私と京大院試でトップレベルの成績を取った友人が解説する最速で量子力学を独学する方法とおすすめの教科書・参考書(入門編・基礎からその先まで)

1. はじめに

この記事では、物理専攻で量子系を研究した後医学部に編入する私と京大物理系院試9割越え (おそらくトップ)の友人が共同で、最速で量子力学を独学する方法について書きます。 

物理全般(学士編入試験出題範囲の物理、院試対策等)については他の記事で書くかと思います。

以下のような方々の役に立てればと思い書いております。特に、この記事は予備知識がほとんどゼロに近い入門者向けに書いてあります。

・量子力学に興味がある

・研究・業務で量子力学の知識が急に必要になった

・非物理系だが物理の勉強をしたい

・院試に向け量子力学の勉強をする必要がある

・どんな教材を使えばいいのかわからない

以上のような人に向けて適切な教科書や演習書を紹介し勉強の道筋を説明しています。

2. プロフィール

読者の方が私の体験談を読んで役に立つかを判断してもらえるように、まず私自身の簡単なプロフィールについて紹介します。

関連する経歴と実績

・旧帝理系学部卒、GPA 3.7↑/4.0

・学部卒業後医学部進学

・理論系の研究室所属

・大学入学前にMITの量子力学の講義を履修

・1回生で量子統計の授業(3回生向け)と量子多体系の授業(3, 4回生向け)の単位を取得

・2回生の終わりまでに学部上級・院共通レベル(場の量子論や一般相対論の授業)の単位をオールA, A+で取得終了

友人のプロフィール

・京大物理系の院試で9割超え (おそらくトップの成績. 理論系の難しい研究室でも8割あれば確実)

・素粒子物理学について研究するべく大学院に進む

・2回生の終わりまでに学部上級・院共通レベル(場の量子論や一般相対論の授業)の単位を取得終了

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3. 量子力学を学ぶ上で前提とすべき知識とその準備

量子力学は分野の名前は聞いたことがあるとは思いますが、実際にどういうことを勉強するのか、どういう知識が前提として必要とされるのかわからない方も多いかと思います。ここでは、入門者向けに量子力学を学ぶ上で前提とすべき知識とその準備について書きます。すでに、知っている方は読み飛ばしてください。

前提となる知識とその準備

量子力学を学ぶにあたって最低限必要な知識(力学、解析力学、振動波動論、数学)について書いておきます。学んでいくうちに、他の知識が必要であることに気づくかと思いますがその都度足していきましょう。何が必要で何を勉強すべきか見極める力も培っていかれると良いかと思います。

・力学(大学教養レベル)

力学の学習を通して、数式を用いて現象を理解するという物理学におけるリテラシーを学ぶことができます。高校レベルの物理・数学ができている方であれば次の教科書・演習書をやれば独学が容易にできるかと思います。

単に、量子力学を学ぶための準備をしたいという方であれば、力学の教科書や演習書にあるマニアックで面倒な計算問題などは読み飛ばしてもらってもいいかと思います。

基幹講座 物理学 力学 (基幹講座物理学)

力学が大好きな先生が書かれた教科書です。初学者向けにわかりやすく、でも、力学の面白さは余すことなく伝えるように書かれています。

新・演習 力学 (新・演習物理学ライブラリ)

力学については、演習書でしっかり手を動かすのが習得への近道です。次の参考書が一番平易でおすすめです。


・解析力学

解析力学とは、微分積分を使って力学の問題を機械的に解こうとする分野です。ここで導入される原理・形式は量子力学にも応用することが出来ます。解析力学は現代物理学の基礎知識の1つともいわれています。

上の力学で演習した問題を機械的に、より速く解けるようになった時にはある種の感動が得られるかと思います。

基幹講座 物理学 解析力学 (基幹講座物理学)

最低限の解析力学を学ぶのはこれ1冊で大丈夫です。解説もやさしく、学習を助けるちょうどいい演習問題ものっています。


解析力学についてさらに演習したい場合は、次の本が使えます(上の演習書ではできない)。私の周りでは院試対策に使っている人が多かったです。

・振動・波動論

振動・波動論を学ぶことで、量子力学で後に学ぶ、波動関数、不確定性関係、境界条件などの基礎について学ぶことができます。また、対角化を用いた解法やフーリエ変換など数学的テクニックも習得できます。

振動・波動 (裳華房テキストシリーズ―物理学)

振動・波動論についてはこの本が一番易しく使いやすいかと思います。僕もこの本を用いて学習を行いました。

演習しよう振動・波動: これでマスター! 学期末・大学院入試問題 (ライブラリ物理の演習しよう)

振動・波動論も手を動かして学習することが必要ですが、振動・波動論の演習書は選択肢が少なく、この演習書かマセマしかないかと思います。私はマセマを使いにくいと思うのでこの本を使いました。

https://note.com/taiking_1111/n/n51ca0825da66


・物理数学

ここでは、量子力学を学ぶにあたって最低限必要な数学の知識の準備をします。

最低限必要な数学の知識というのは、簡単に言えば理工学部共通レベルの数学のことです。次にあげる本で自分に足らないものだけ学習していくと良いでしょう。

物理のための数学 (物理入門コース 新装版)

大学の物理を始めて学ばれるような方は、上にあげた分野について学習をする際に数学的知識の不足に悩まされるかと思います。とりあえずはこの本を用意しておけばしのげます。

上の本で不足を感じる場合は、次にあげる本をするのが良いでしょう。


演習微分積分 ((サイエンスライブラリ―演習数学))

この本をつかって、把握しておくべき積分計算や公式を詰め込みましょうた。


演習微分方程式 (新版演習数学ライブラリ)

この本で頻出の微分方程式の解法を覚えることや実際に手を動かす練習をしましょう。細かいことを言わなければ、結構ワンパターンの覚えゲーかつ作業ゲーです。


線形代数 (大学院入試問題から学ぶシリーズ)

これ一冊で物理などで使う範囲全ての線形代数に対応できるほどの良書です。数学系の先生がする講義を聞くよりこの本をやる方が役に立ちます。

院試でも超役立つ最高の1冊です。

新版 演習線形代数 ((新版演習数学ライブラリ))

線形代数が初学のかたや簡単な問題で計算演習をしたい方は次の本も役に立つかと思います。

フーリエ解析 (理工系の数学入門コース 6)

振動・波動論の学習と並行して軽く読むと良いかと思います。


演習と応用 関数論 (新・演習数学ライブラリ)

関数論の勉強は教科書を読まず、演習書を読みながら計算テクニックを身に着けるのが速いかと思います。

以上が準備編です。

4. 量子力学を最速で独学する方法 - 入門編

初学者が量子力学を学ぶにあたってやってはいけないこととして、有名な難しい本にいきなり手を出すということがあります。簡単な本から始めて、しっかりと概要をつかみ、基礎を作っていきましょう。

この方針で学習を進める場合、実は最初に必要な本は3冊しかありません。それらをまず紹介します。

量子力学〈1〉,  〈2〉(基礎物理学選書5A)

世の中にある量子力学の教科書の中で最も易しく使える教科書かと思います。この本の1, 2巻で大体のことは学べます。

私の所属していた研究室の教授の一押しの教科書みたいです。

これら2冊の本を読む以外に、量子力学は演習しながら学んでいくことが必要です。次の参考書がおすすめです。


演習しよう量子力学: これでマスター! 学期末・大学院入試問題 (ライブラリ物理の演習しよう 3)

問題のチョイスが過不足なく素晴らしすぎる演習書です。私の大学ではこの本で演習をして定期試験や大学院入試に挑む方が多かったです。注意点として、誤植がすさまじいところがあるので解答はうのみにしないようにしておきましょう。本のリンクの下に正誤表のリンクも張っておきます。

5. 量子力学を最速で独学する方法 - 基礎編

上記の本を読み進めていく中で疑問を持ったり不足を感じられると思います。ここでは、上記の本を読み終えてさらに学習を進めたい方に向けて記事を書きます。

物理数学

準備の部分で紹介した本を読んで準備していただけでは、氾関数の扱い、直交関数、デルタ関数、特殊関数等についてわからないことや知らないことが出てくるかと思います。そのような方に役に立つ本を2冊紹介します。

物理のための応用数学

私の大学の学部3回生向けの物理数学の授業の教科書になっていました。非常にコンパクトで分かりやすく使いやすい教科書です。この本1冊で量子力学を学ぶ際に必要となる数学は概ね大丈夫かと思います。

詳解物理応用数学演習

院試などに向けさらなる演習を積みたい方のほかに、物理数学についてまとまった辞書のようなものを必要とする方にお勧めの1冊です。


量子力学

入門編の勉強ができた状態から開始すれば、有名な難しめの教科書で本格的に学ぶことができます。量子力学を研究などでバリバリに使いたいという方は、以下の教科書を読むことをお勧めします。

量子力学1 (KS物理専門書)

おそらく最も有名な本ですね。この本は入門編で紹介した小出さんの本をやった後に読むと量子力学の基礎がわかるようになります。演習問題も理解の助けや院試対策の役に立ちます。


量子力学(2) (KS物理専門書)

学部の量子力学の総仕上げの本とも言えます。散乱の量子論から経路積分まで幅広く乗っています。後に場の量子論の勉強に入る際の足掛かりになります。


量子力学 砂川重信 著

電磁気学の教科書で有名な先生が書かれた量子力学の教科書です。1冊で量子力学の入門編で学ぶようなことから多体系の量子力学や量子電磁気学までカバーしている辞書のような頼りになる1冊です。


現代の量子力学(上) 第2版 (物理学叢書)

この本で量子力学の基礎概念や角運動量の理論についてしっかり学ぶと良いと思います。この本の上巻を横において上に挙げた演習書を解くと難解に思える量子力学の諸概念がわかるようになります。

なお、この本の下巻は上の本をやった方がいいのでわざわざ買う必要はないかと思います。


Quantum Mechanics: Non-Relativistic Theory, Volume 3, Third Edition

ランダウの理論物理学シリーズです。実はこれ一冊でカバーできるほど内容が豊富です。和書は絶版なので、英語に抵抗がない方にはおすすめです。


単位が取れる量子化学

永年方程式など化学屋が学ぶような量子力学をざっくりと早く学べます。ノータッチでは困るのでこのような入門書だけでも目を通しておきましょう。


5. 番外編: 勉強に役立つアイテム

量子力学の勉強に役立つアイテムをいくつか紹介していきます

nu board (ヌーボード) A3判 NGA302FN08

どうしても手計算が多くなる量子力学の勉強において、ホワイトボードの様に使えるノートである nu board は超役立ちます。

紙でやろうとするとどうしても荷物が多くなるので荷物を減らせるという利点があります。僕は計算が多くなりそうな勉強をするときは、この nu boardをメインで使っていました。


計算の過程を残したい派や電子書籍派のかたは思い切って iPad を買って使うのも良いかもしれません。


電子書籍化

医学系だと最近多いですが物理系でも進んできている流れです。自分で書籍を裁断しスキャナーで読み込んで電子書籍化をすることで荷物を減らせます。

教科書がどうしても分厚く多くなりがちな物理系でもかなり使えるアイテムかと思います。

物理系の友人でもやっている人はそこそこ見かけました。この裁断機とスキャナーが使いやすいようです。


6. まとめ

この記事では、物理専攻で量子系を研究する私が、最速で量子力学を独学する方法について書きました。 

特に、この記事は予備知識がほとんどゼロに近い入門者向けに、予備知識の準備から学習法について書きました。

この記事をもとに量子力学を学ばれ、量子力学を使う現代物理学に興味を持っていただけると幸いです。



Appendix: 量子力学の先へ  - 学部上級~院生など研究に向けての本

ここからは学部上級から院生向けの量子系の教科書で私がセミナーや授業などで使った本をいくつか紹介しています。

物性理論

統計力学 阿部龍蔵

量子統計から摂動計算の基礎まで物性理論を勉強するのに必要な知識・計算が詰まっています。


Fundamentals of Condensed Matter Physics

物性についての海外の標準教科書になっているようです。上記の量子力学の教科書や統計力学や固体物理などの物性を学ぶのに必要となるベースができていると、最近の研究にも関わる様々なテーマについて容易に学習できるようになっています。


Condensed Matter Field Theory

物性理論に進む人はぜひ読んでおきたい1冊です。僕は学部2回で教員と行っていたゼミから読んでいます。何気にこの本の後半の非平衡のところがまとまっていて良かったりします。

量子系のエンタングルメントと幾何学

量子系のエンタングルメントと幾何学:ホログラフィー原理に基づく異分野横断の数理 単行本

4年生の時の卒業研究で使いました。量子情報や幾何学などに興味がある人はぜひ読んでみるといいかと思います。


理論物理学のための幾何学とトポロジーI [原著第2版]


理論物理学のための幾何学とトポロジーII [原著第2版]


また、このあたりの入門書としては次のような本もあります。


場の量子論

最近ではこの本が評判が良いようです。



場の量子論については無数に本がありますが、以下に僕が授業などで役立った本をいくつか載せておきます。

興味や取っている授業に合わせて選ばれると良いと思います。





 


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