ケ・セラ・セラじいさん
女が嫌い。エッセイで、書きながら思った以上のダメージを食らったので、大好きな祖父の話で、お口直しといこうじゃないか。
お口に合いますかどうか。
写真のクシャクシャのメモは、死んだ祖父が書き写したもので、15年くらい前、私を呼び止め聞かせてくれた。千利休の句だって。その時はなんだか有難く、記念にそのメモを貰ったのだった。2回聞いたけど、2回ともよく分からなかった。
記念に、ってなんだ?
なぜこんなにクシャクシャなのか、大切にしていたのに、怖い。
祖父は、能天気なことばかり言う人だった。昔の写真を見たことがあるけど、江戸っ子の職人気質、鼻も高くなかなかの二枚目、若い頃は大酒飲みで、手が付けられないほどの暴れん坊だったとか。晩年は祖母とのやり取りに疲れ、人が変わったように怒りっぽくなってしまったが。それ以前の思い出はいつも笑顔の祖父しかいない。
子供の頃、日中は、母方の祖父母に預けられていた私。だいたいやることがなく、祖父がいる作業場に出向き、流れるラジオを聴きながらビスの向きを揃えたり、仕事する様子を見ていた。いつも、私の気配に気づき「お茶にするか…なあ」と言う。「○○よ、知ってるか?」と、色んなうんちくを聞かせてくれる。
「親切はかならず返ってくるもんだ、ただし、不義理も返ってくるんだぞ、いいか?」
こんな、ものごとの道理や在り方を。ほぼ毎日聞いた。太陽は…、とかちょっと訳わかんないことを言い出すときは無視した。わからないことを言ってくれるのがよかったのだと思う。わかっていることを言われ続けるのって煙たくなるじゃない?祖父くらいぶっ飛んでると、こちらも器用に聞き流して思考を停止する術を学ぶようになる。
祖母の前で、人間てのは、なんて話をしようものなら「もうろくじじいが、よく言えたもんだっ!」などと立場がないくらいけちょんけちょんに言われてしまう。ばあさん、そんなに怒らなくたっていいのに、と幼心に思ったものよ。
そんなある日、庭先で祖父が2人のご婦人と立ち話していた。「あ、、勧誘のひとじゃん…」会釈だけして素知らぬ顔して通り過ぎたとき、祖父がご婦人たちにいつもの、道理とか在り方の話をしていた。「あ、お孫さんで?」と私に注意をそらす婦人に、聞く耳を持たず話し続ける祖父。一人はこうべを垂れ、もう一人は顔が鬼みたいになってた。
そのあと、うちに勧誘のひとは二度と来なかったよね。
なぜあんなに好きだったのに、一言一句全てを覚えていないのだろう。……聞き流したりしていたからだね。正解。自ずと、わかるシーンに出会う度に、答え合わせ感覚で、より深く心に刻めるってもんよ。
予め知ってるってことは、準備ができるって訳だ。
(↑↑↑こんな当たり前のことも言っていた。幼かったから、深かったな。)
母親がいなくなってしまってから、色んなものがガタガタと音を立てて崩れ落ち、その影響は祖父母にも。
そんな状況でも祖父だけは変わらなかった。チャリに乗れなくなっても、ASIMO歩きで毎日、豆腐屋へ出かける。50円の絞りたて豆乳を飲むのに二、三時間帰ってこない!と祖母が怒り狂っていた。だって、ASIMO歩きだから仕方ない。
ケ・セラ・セラって知ってるか?なるようにしかならない。だとよ。(笑)
絶対、ラジオの受け売りでしょ!さっき聴いたでしょう!と心の中で突っ込みを入れた。ズレたテンポでうろ覚えのケ・セラ・セラを歌う祖父。楽しそうだなおい。
「婆さんみたいにぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー騒いでたって、なぁんにもならねえんだよ。なあ、○○よ。」
私も近親者みんな酷い目にあっていたあの頃、一番冷静だったじいちゃん。説得力があった。
私、祖父がこの祖父でなかったら、とっくの昔に潰れていたと思うんです。
火葬場で、お骨になった祖父を眺めて「この人がいたから、私らがいるんだよね。」と言うと、祖母が「もっと出来がよかっただろうよ!」と笑って言った。その時は一同爆笑だったけれど、いや、絶対にじいちゃんで良かったと思う。
あと2つくらいデカい爆弾があるけど、どちらも祖父の面目丸潰れエピソードなので控えようかな。
4時の水戸黄門再放送は、絶対に観るじいちゃん。笑点を観てる時、客が笑うところと違うポイントで笑う、笑点がまさにズレていたじいちゃん。すっげえ固い煎餅食べれなくてずっと舐めてるじいちゃん。野良猫に厳しすぎるじいちゃん。プレゼントしたセーターを1度も着なかったじいちゃん。孫らがちびちび借りた小遣いをきっちり日記に書き残していたじいちゃん。お囃子のリーダーをずっとやってたじいちゃん。
入れ歯を取ると、もう、じいちゃんがじいちゃんじゃないみたいで…。入れ歯を取った顔って何でみんな似ちゃうのだろう…。冬だからと言って、寝る際に大きめの青いニット帽を被るものだから、ジャミロクワイみたいで可愛かったな。
なんかすみません、この回は、自分用にします。
ケ・セラ・セラ〜♪
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