中野

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CASH SHORTAGE

「ここさ、セル結しないで? 昨日も言ったけど。pivot使えねえだろ」 「アッアッはい、たびたびすみません…」 俺---バダサイ---は同僚からの注意にしおらしく返答し、すぐに共有ドライブのExcelを開いた。C5セルから始まる結合セルが不要な位置にあったのでセル結合を解除して保存する。 「アッ直しましたので…アノ... 一旦閉じていただいても大丈夫ですか?」 ctrl+sした瞬間、ファイルが競合して俺の名前で別保存されたのだった。 「あ?…ああ悪ぃな。てか言えや

    • ハリー・ポッターと炎のベンチャー part8(終) 最高の退職エントリー

      僕はハリー。 コールセンターからも追い出されそうになってるけど、どうにかこうにかしがみついてるホグワーツOBだよ。 そんな僕は今、退職者が相次いだ職場で何が起こるのかということを目撃している。 まず、これまで現場でのマネジメントを担ってきた層の退職が相次ぎ、現場の雰囲気に変化が生じた。僕を始めとしてこの泥船みたいな企業に残ってる数少ない異常個体達は、これまでのように常には監視されなくなったのだ。 在職している僅かなマネジャー層は、臨時会議や緊急の外回り、バックオフィス業

      • ハリー・ポッターと炎のベンチャー part7 大量解雇

        インサイドセールスとして、受話器を耳に当て続けて数か月がたった。飛んでくる灰皿も罵声も、もうお手の物だ。 僕は、ハリー・ポッター。誠実な営業マンさ。 業務外でマホなり社長の未経験エンジニアスクールに貯蓄の半分を課金、現状からの脱出を図りつつ日々を過ごしていたところ、社内に不穏な空気が漂い始めた。 どうやら、花形であったフィールドセールス部門からぼくらの地獄、インサイドセールスへと異動になる営業マンの数が増えているようなのだ。さらに、魔法技術職の一部すらも同様にここに回さ

        • ハリー・ポッターと炎のベンチャー part6 コールセンター

          「あ~ちょっと今社長いなくて~そういうお話よくいただくんですけど~結構ですので~」 今日はもう100回ほど聞いた切り返しだ。左手にガムテープで固定された受話器はもう半日以上耳に押し当てられており、すっかり身体の一部分のように馴染んできた。 僕はハリー。ホグワーツ魔法学校を卒業してコールセンターへ配属になった男さ。 おっと、「インサイドセールス」だった。 「ていうか、おたくの会社はこんな朝早く電話してくるんですか?」 決裁者がまだ社内にいると思われる朝一番だもの、鬼の

        CASH SHORTAGE

        • ハリー・ポッターと炎のベンチャー part8(終) 最高の退職エントリー

        • ハリー・ポッターと炎のベンチャー part7 大量解雇

        • ハリー・ポッターと炎のベンチャー part6 コールセンター

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part5 配属

          「もし話を進めたいなら、最低でも半分だな。半分にまで減らせ。」 アルビノのように白い肌と、鼻の欠落した顔、オールドファッションな魔法使いの着る黒いローブが対峙する者を威圧する。 テーブルを挟んでこの異形の男に相対する者は、白いTシャツにジーンズを身にまとっている。しかしこの場の雰囲気は、彼の服装のように軽快なものでもないようだ。 ここはとあるM&A仲介企業の一室。この企業は先端魔法技術を活用したM&Aコンサルティングを謳うベンチャー企業だ。従来型の仲介に加えて、魔法技術

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part5 配属

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part4

          「では、説明したいと思います。君ら二人のうちどちらかがクイズを出題する教師役、どちらかが回答する生徒役になります。生徒役はあの素敵なイスに座ってもらいます。」 ディメンターが例の電気イスを指差す。ひじ掛けや脚は古い高級家具を思わせる造形だが、蔦のように絡まった電線と、ひじ掛けに取り付けられた電極パッドがグロテスクなアクセントを添えている。 この先は何となく説明を受けなくても察することができた。 「生徒役が間違えたら、教師役は電流を流して"教育"して下さい。」 ディメン

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part4

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part3

          「無理というのは、嘘吐きの言葉なんです。」 ディメンターが優しい笑みを浮かべながら、研修生を諭す。欲望を寸前で保っていた先ほどの様子とは打って変わって、極めて丁寧な物腰だ。 いや、静かに狂っているのかもしれない。声は冷静だが、そのトーンはどこか獲物を前にした高揚を秘めている。 激詰めされている女性研修者は目に苦痛の涙を浮かべながら俯いている。 今行われているのは社訓の暗記だ。といっても、ペーパーテストじゃない。全員が(冗長とも思えるような)社訓を連続で完璧に諳んじるこ

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part3

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part2

          (世の中には、4種類の魔法使いがいるフォイ... ひとつめは、労働者の魔法使い。二つ目は、自営業の魔法使い。三つめは、ビジネスオーナーの魔法使い。そして、四つ目は投資家マルフォイだフォイ。 世の中の大半は一つ目か二つ目だフォイ。でも、富の分配は残りの...) ~~~~~ 早朝 目覚まし魔法が鳴り響く。今朝は絶対に遅刻してはならない研修初日という意識もあり、5分刻みで音が鳴るようにセッティングしていた。今のところ、ホグワーツで学んだ魔法で普段使いできているのはこういう

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part2

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part1

          僕はハリー。ホグワーツ魔法魔術学校を卒業し、今日から晴れて社会人だ。 「アット・ホームな、環境です!」「幹部候補として圧倒的に成長できます!」「未経験マグルでも大歓迎!」っていう内定先の謳い文句に、期待と不安が入り交じる。 正直、ホグ卒で入る職場としてはスタンダードじゃない。でも、魔法省の総合職とかホグワーツの教職ってのはもう時代じゃないのも確か。ベンチャーで経験を積んで、フリーランスの魔法使いとして稼げるようになったら起業もアリかなって思ってる。 (名前を呼んではいけ

          ハリー・ポッターと炎のベンチャー part1