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CASH SHORTAGE

「ここさ、セル結しないで?
昨日も言ったけど。pivot使えねえだろ」

「アッアッはい、たびたびすみません…」

俺---バダサイ---は同僚からの注意にしおらしく返答し、すぐに共有ドライブのExcelを開いた。C5セルから始まる結合セルが不要な位置にあったのでセル結合を解除して保存する。

「アッ直しましたので…アノ...

一旦閉じていただいても大丈夫ですか?」

ctrl+sした瞬間、ファイルが競合して俺の名前で別保存されたのだった。

「あ?…ああ悪ぃな。てか言えや。こっちにもう一回上書き修正しておいて。」

マジで事務方に向いてねえよなお前、と苦笑しながら同僚---デルタ---がexcelを操作し、PCを閉じた。

「俺ちょっと吸ってくるからさ、残り今日中にやっとけよ。明日資料提出だからな」

「ウス…あと少しなんで進めておきます」

吸いかけのジョイントを手に取ると、デルタは早々にオフィスの外へ出ていった。コンクリート打ち放しの殺風景なオフィスに、デルタの靴音が鈍く反射して、遠ざかっていった。

もう夜の10時頃になっているだろうか。初夏のじんわりとした蒸し暑さが部屋の中に入り込んでいた。

(…てか、7月の実績間違えてねえか?これ)

ふと見直した実績セルの数値に違和感を覚える。7月中の販管費が例月並みであることに気付く。夏のピークということでイベントを積極的に開催していたのにこの水準ではおかしいのだ。

PLが間違っていれば当然、CFやBSもおかしな数値になっているだろう。

(現預金合ってるのか?これ…)

実績経理は俺たちのチームの年長であるG-PLANTSが担当している。俺は過去にデルタと共に金庫破りをやっていた経緯から、現金には触らず予算と見通しのポジションを担当している。

口座閲覧権限だけ付与されたネットバンキングサービスにログインすると、実績BS、CFのそれと全く異なる数値が表示されていた。

(また実績に差し戻しじゃねえかよ…普通合わせるだろうがよクソが…。まあ、受け取った時点で気付いてない俺も雑魚か)

本来なら、あとはゆるいタスクをインディカでも吸いながら片付けて今日は上がる予定だった。ジョイントに伸びそうになる手を自制し、PCモニターの無慈悲な画面に打鍵する。

……………………………………………

To. G-PLANTS
cc. DELTA9KID
本文:

G-PLANTSさん、お疲れ様です。

ご多忙のところ大変恐縮なのですが、7月実績の販管費をご確認いただけますでしょうか。熊谷の地元イベントなど、いくらか計上されていない費用があるように思います。
また合わせて、現預金の残高も記帳額と突合のうえご確認いただけますでしょうか。

お手数をおかけしますが、フォーキャスト提出が明日になっておりますので、本日の23:00頃までにご対応いただけますでしょうか。
(必要でしたら家まで迎えに行きますので)

よろしくお願いいたします。

BADSAIKUSH

……………………………………………….

メールを送信すると、俺は椅子に思いきり倒れ込んだ。

(いくらラッパーだからって現金合わせねえで実績〆て帰るんじゃねえよ…)

デルタに報告したらまた苦い顔をするだろう。そこは実績までカバーするつもりで見ておけよ、とまた小言を言われるに違いない。

(そもそも、俺はこのチーム---舐達磨---のリーダーだったのに、どうしてこんな状況になったんだっけ。)

過労と日頃吸ってるもののせいか、妙にぼんやりしつつ落ち着きのない気分になる。

~~~~~~~~

ラッパーの俺たちが大口のパトロンを見つけたのは今年に入ってからだった。俺たちの活動資金が底をつく限界のタイミングで。

最初にそのパトロンを連れてきたのはデルタだった。刑務所にいた頃のツテか何かで知り合った人で、少々グレーな界隈にも顔が利く、VC業界では知る人ぞ知る者らしかった。

そいつが俺たちのリリックに惚れ込んで、投資を申し出てきた。

…ところまではよかったものの、彼は資本主義世界のど真ん中で生きるVC業の人間であり、金回りに関して異様に厳しかった。

彼は信じ難いことに月次経理と四半期フォーキャスト、予算、その他IR資料を自分たちで作成して提出することを条件に付けてきたのだった。

そんなものはラッパーにとって服役よりもブルシットなジョブに違いないのだが。

パトロンの獲得を重んじて熱烈に迫ってきたデルタに押され、結局俺たちは慣れないコーポレート業務を分担する羽目になった。

~~~~~~~~

G-PLANTSは当初俺よりも不満を募らせていた。そんなもんアウトソーシングしろよと分担を突っぱねていたが、デルタもデルタで一円でもコストセンターには銭を落とすべきでないと言って聞かなかった。

まあ、何と言おうと金を引っ張ってきたのはデルタなのであって、俺たちはファンドの管理についてとやかく言いにくい立場にあったというわけだ。

リリックを生み出す時間より、コーポレート業務に割く時間が多い日も増えた。

俺は不慣れなExcelを毎月どつき回す羽目になり、多少事務作業に心得のあるデルタに敬語を使い始めるほど頭が上がらなくなってしまった。

仮に納税をしろなんて言い始めた日には、それでも俺とG-PLANTSは黙って確定申告に備えてレシートをA4に張り付ける作業を始めることになるだろう。

俺はため息をつきながら、今夜中に修正するであろう月次累計に一瞥をくれてやった。

(トップラインがダメだとコストカットしてもジリ貧なんだよ…。結局)

PLの推移を見ると、かなりのコスト(賃料、給与、草代、保釈金)を切り詰める一方で販促・広告宣伝費は大盤振る舞いしている。

だが動画広告やイベントでの収益はプロモーションも虚しく緩やかに下降していることが分かる。

appendixで付けている直近の動画再生数増分やイベント集客数なんかのグラフを見ると、当然ながら収益の傾きとほぼ相関している。

舐達磨の営業CFは今月もギリ黒字といったところか。G-PLANTSが入れ忘れていたイベント費用を加味すると、それも怪しい。

VCは10本に1本当たれば奇跡というような業界らしいが、それにしてもハナから雲行きの怪しい投資先にパトロンがどういう顔をするか。今そっぽを向かれ資本を引き揚げられたら、舐達磨の財務は苦境に陥ること必至だ。

(確度ほぼ無えけど、秋にかけて大きめのイベントある見通しにしねえと次の四半期赤字だな、これは。)

無理なフォーキャストをさらに背伸びさせて、どうにか次のQの見せ方を考える。広告と販促を削って営業CF黒字にするというのは、できればやりたくない見せ方だった。

(ああ、やっぱ音楽性だわ)

俺は直感した。動画再生やイベント動員数が伸び悩んでいる理由。外部要因ではなくて明らかに俺たちの姿勢に原因がある。

(Excelに汲々とするBADSAIKUSH、資本家の靴ペロしてるDELTA9KID、現預金数えてるG-PLANTS。それでマトモなリリック書けるわけねえだろ。)

庭先で育ててるライム、ポリスに切るメンチ、鼻腔を伝うハイの感覚がおれたちの原点だった。脳の皺の一本ですらセル結合のことなんて考えていなかった。

今俺たちの魂はリリックに向き合っているか?デルタとG-PLANTSが何を思っているのか、それすらも今は分からなくなってしまった。

胸元の18Kが、墨の入った皮膚の上を撫でていく。PCモニターの無機質な白い光が、俺の皮膚と、ゴールドと、煤けたコンクリートの壁とに反射して初夏の闇に放射されている。

(…煙欲しいわ)

俺は立ち上がり、パイプ椅子がバランスを失って後ろに倒れたのも気にせずPCを乱暴に閉じた。

ジョイントを咥えライターを取り出す。

シュボッっと噴き出したライターの炎は幾度も目にした橙色で、PCの白い光を上書きするように室内を照らした。

炎が包みの先端をなめらかに撫でると、芳醇な煙が立ち上る。口元から俺の肺に、心臓に、脳に、指先に馴染みの高揚が走った。

ライターを消し、ジョイント先の橙と夜の帳とが世界の全てになる。

その瞬間、世界が再構築された気がした。

脳が、肺が、みっしりと言葉で満たされ、カンナビノイドから連鎖するセンテンスが静脈を遡る。

ケミカルリアクションは刹那のうちに極彩色の核分裂に昇華し、無限個にも思えるニューロンの組み合わせから産み落とされた言葉たちが脳に溢れた。

(上を見て振り返る
   繰り返しては下を見て
      探してた半透明な結晶が)


脳は無意識にリリックを刻んでいた。

俺はオフィスのドアを蹴破って夜の帳に飛び出した。

(一応、Windows+Lで画面ロックしてから飛び出した。)

廊下を抜け玄関を飛び出すと、一服から戻ろうとしていたデルタと鉢合わせした。デルタは驚いて身をかわし、咥えていたジョイントを投げ捨てて俺を罵った。

「あぶねえよ。
てか、フォーキャスト終わってんの?」

「うるせえよ。汚ねえ手で触るな」

俺は普段の敬語も捨ててデルタを罵り返し、溢れるリリックを世界に結実させるべく意識を言葉の海に泳がせた。


(聞こえなくなった右耳や 
  左腕の静脈に溶けていった)


「おい!バダサイ!待てよ。資料提出明日だぞ。」

デルタが後ろから俺を追ってきた。俺はかまわず、リリックの赴くままに夜の道を駆けた。俺の肉体はもはや、リリックに導かれる器でしかなかった。


(刺した針の数が
  今に水を刺し嫌気が差した)


道の向こうからこちらを照らすヘッドライトが見える。G-PLANTSの車だ。先のメールをみてオフィスに戻ってきたのだろう。

運転席のドアが開き、G-PLANTSがこちらに叫んだ。

「マジでごめん、現金の実査しねえで月次締めてたわ。」

俺は無性に苛々とした気分になった。

「普通それやったら仕事下ろされるからな。ジャーナルはマヤカシ。」

俺は吐き捨てると、G-PLANTSが何か釈明するのを振り切って先に進もうとした。


(前後する曖昧な記憶
  燃やす量はことごとく)


「おい、バダサイ!」

デルタが追いつき、俺の方を掴んだ。

「どうしたってんだよ!何急にキレてんだよ」

「…今の俺たちでは…舐達磨を伸ばしていけねえんだよ」

俺は吐き捨てた。こんな陳腐で現実的な言葉のためにリリックの海から浮上してしまったことを慰めるように、ジョイントを吸った。

「バダサイ、落ち着けって。確かに俺も…最近そう思うけどさ…」

運転席の窓から身を乗り出したG-PLANTSが、伏し目がちにそう呟いた。デルタは、この状況に困惑していた。

「…んだよお前ら。デケえ金引っ張ってきて、まさにこれからってとこじゃん。何が伸ばしていけねえ、だよ?!」

「それが俺らのリリックを汚してるっつってんだよ。」

俺は現実から逃避するように目を瞑った。

G-PLANTSの車内ラジオから、エキゾチックな歌詞が流れている。


…A un passo dal possibile
  …A un passo da te


「…これ、曲名何てんだよ?」

俺は不意に、この曲に捕らえられた。思わずG-PLANTSに問うていた。

「え…?ああ、イタリアの歌手の曲で…どうしたんだよ急に」

G-PLANTSがこれだよ、とスマートフォンの画面を差し出す。表示されたリリックと和訳を、俺はなぞった。

………………………………………….

Elisa
Un senso di te

A un passo dal possibile
A un passo da te
(出来るだけ離れるの
 あなたから遠ざかるの)

………………………………………….

「なあ、話聞けって。お前らの言いたいことも分かるけど…」

デルタが声を高くした。俺にはすべてが雑音に聞こえた。

「うるせえよ。ちょっと黙れや。」

………………………………………….

Paura di decidere
Paura di me
(決断を恐れているの
 自分が怖いの)

Di tutto quello che non so
Di tutto quello che non ho
(何も分かっていない自分が
 何も持っていない自分が)

………………………………………….

「Paura di me…」

俺は初めて言葉を覚えた赤ん坊のように歌詞を呟いた。
脳に渦巻いている過去の映像、リリック。異国のフレーズはあたかも背景映像のようにごく自然にモンタージュされた。

「Paura di me…」

「いい歌だよな、これって」

俺が呟く歌詞を聞いたG-PLANTSが、ぼそりと呟く。

疲れと、インディカによるハイも相まってトランス状態になっていた俺は、口元に出掛かっていたリリックをついに現実世界へと放った。

「月次見て 振り返る 
  繰り返しては仕訳見て
   探してた 担当外の決裁」

(…??!!)

俺は自分の口から飛び出した醜い歌詞に驚き、恐怖した。

描いていたリリックとは全く別物だった。

およそラッパーの語彙とは思えない。世に社畜と言われる奴らがインターネットで垂れ流しているような言葉を吐いたことに、俺は羞恥した。

俺は、自分のことを根っからのラッパーだと思っていたが、こんなリリックしか紡げなくなったというのか?

そうだ。オフィスを出る時、無意識にwindows + Lで画面をロックする自分がいたことを思い出す。

脳は残酷だった。美しい合成映像にこぼれるノイズのように、日常のバックオフィス業務にまつわるあれこれがリリックに焦げ付き、俺の言語野を支配しているのだろう。

「…バダサイ。なんだよそれ」

俺の方を掴む手を緩め、デルタが声のトーンを落とした。

「舐達磨の紡ぐリリックじゃねえって。
  んなもん…」

「デルタ…。バダサイのリリックは俺たちの偽らざる現状だ」

G-PLANTSは車両から下り、点々と道を照らしている遠くの街灯を眺めた。

「だがよ…。それもまた刻むべき真実(マジ)のリリックじゃねえのか。
 
...バダサイ、続けろよ。抱え込むんじゃねえ。」

G-PLANTSの言葉に、俺のリリックは堰を切ったように夜の空気へと飛び出してきた。

………………………………………….

「…Represent APHRODITEGANG

日本 JAPAN
DELTA9KID G-PLANTS DBUBBLES BADSAIKUSH  R.I.P は104

     …in de house」

………………………………………….

イントロが車内サウンドに重なる。
デルタが息を呑み、G-PLANTSがゆっくりと目線を上げる。

遠くで一匹のコオロギが真夏の終わりを告げていた。

………………………………………….


月次見て 振り返る 
繰り返しては仕訳見て 探してた
担当外の決裁

探せなくなった連調や 
謎に積もる雑損に溶けていった
入れた仕訳の数が謎に差額出し 嫌気が刺した

前後する曖昧な記憶
燃やすプロジェクトはことごとく
白く上がる煙 しら切るjunior girl


毎日 毎日 growする marginal loss
俺が育ててる 俺と仲間達で育ててる


質悪い週次会議
始まるの遅い 無え用 俺じゃない
営業 職探すため 覗き込む 極上なIndeed


日本 Made hottown 馬小屋が職場
此処に居るいつでも ここから飛び立つ

zigzagの組織図 
願い事のようにforecast書いて
太(ぶ)っといSheet 社畜(みち)の核
地を這う職場 コード1つ
全員 わからしてやる

Millionでも Kでも いいよ大体
Joint先で爆ぜるベンチャー
集合 タスクフォース解散しろ
独りで見きれない子会社

じっと 考えてる増減を
それは単体でも連結でも変わらない事

転職が最近心 支配して
先歩く 見ろ表情
2、3日後体が空く 家まで迎えに行くからよ
また出勤(あお)う

………………………………………….


「聴くのしんどいわ、バダサイ」

気が付くと、デルタの目元から液体がこぼれ落ちていた。

「お前だけで….すべて背負ってるような顔すんなって」

デルタはジョイントを投げ捨てると、街灯の下に躍り出てリリックを刻んだ。

………………………………………….

棚卸(お)ろす債務 災いや偽りはいらない
耳に入るその"倒産"(トビ)  言い訳は聞かない
俺のLife ただの玩具 期日伸ばす頂き
増えた借りの威力が 背中押して手を出し


手に"持分"(steak)  災いや偽りはいらない
赤に浸かるこの"事業計画書"(かみ)
言い訳は聞かない

バックオフィス メインバンク 煙に巻き頂き
増えた借りの今後は GOD-KNOWSの導き

………………………………………….

「そうだ。これが、俺たちが"今"刻まなきゃいけないリリック…
 
俺たちだけの語彙じゃない…世の社畜全てのためのリリック…」


G-PLANTSが叫び、車両のドアを開け、こみ上げる躍動を抑えきれないように夏の夜に向けて両手を広げた。

………………………………………….

殻を破り 利回りはむいていく風上
根元から絡まりつき刈り取りしたプロパー

鬱す代わり 憎まれては世にはばかり
降りしきる雨の中 渋く挙げた決起会

空を舞う でけぇ四季報 よく吸う灰皿
追い詰めるhardに Can't I ask a supporter?

損益描くペンを 走るだけ書き溜め
ぶちまける growing loss 煽る 左団扇で

法務や 品管に 何一つ話さず
違法案件 不法所持してる 肌身離さず

音鳴らす この案は 粗利割れたゴミ玉
耳を刺し 目につく 口つぐむ仕事柄

自分(てめえ)で額盛り 届きそうな月のみ
消えるone-mileはこの"飛び" 燃えて罪滅ぼし

客の"苦情"(ほどこし)
 寄せて返す 俺の所に
死のtarget 熱したmtgこそ冷ましたほとぼり


この後に 及んで眠れず 夜は朝方
山盛り ケミカルより よりhighな負荷が
見えるゴールが 遥か星の彼方じゃ
溶かした 残高はgoldより高けえ眠剤

………………………………………….

いつの間にか、いつの間にか、見失っていたのかもしれない。

舐達磨としての音楽性。
体制ファックのマインド。

………………………………………….

棚卸(お)ろす債務 災いや偽りはいらない
耳に入るその"倒産"(トビ)  言い訳は聞かない
俺のLife ただの玩具 期日伸ばす頂き
増えた借りの威力が 背中押して手を出し


手に"持分"(steak)  災いや偽りはいらない
赤に浸かるこの"事業計画書"(かみ)
言い訳は聞かない

バックオフィス メインバンク 煙に巻き頂き
増えた借りの今後は GOD-KNOWSの導き

………………………………………….

今の俺達は資本にという重りに繋がれ、世の社畜の苦しみの一端に触れている。

ラッパーにとってそれは一種の汚染なのかもしれない。

だが俺は最後までこのリリックを刻みたい。

………………………………………….

昨日途中で火付けたERP導入PJ
起きてTeams鳴らせ 火付け
トイレで吐き出してる manager

これが"瑕疵" の書き方 上司が朝死んだが
こうなったら俺は言葉乗せる
"労基通報"(clean assassin dagger)

長期見つめてない 
これから 狭い世間 カギ閉めて内向き
砕けた職歴の上で jobローテさせるな

staff去る剣幕 札は餞に
scratchの汚ねえデータ引き継ぐな 

鬱で逝かれた俺は
performance improvement plan
精一杯にやった  未だに俺はavailableのまま

言われ尽くされてるそんな言葉が
核となる人生はクソだ
俺は俺だが 俺はお前の部下になる

他と同じ筈実力は努力の数
見ればわかる奴と奴
または昨日捌き損ねた"求人"(ネタ)の話

業界を変える しかし高給が欲しい
TOEICはまやかし
求人に また増える 週8勤
看板はHigh-career gang
練度は0 無職は刺青

………………………………………….

リリックが終わり、気が付くと俺達は道端に倒れ込んでいた。激しい運動を終えた後のようにじっとりと汗ばむ俺達を、柔らかな芝生と土の香りが包んでいた。

夏の夜空をキャンバスに、極彩色の夢を見ていたのかもしれない。

倒れた俺の耳元で小さなコオロギが鳴いていた。コオロギは俺の腕に飛び乗るとしばらく触覚を揺らし、小さな足で俺の腕を蹴り、しばらく跳ねてから腹の上に落ち着いた。

「…ラッパーが経理とかやらねえから!って突っぱねてもいいかもな」

仰向けになったデルタがどこへともなく笑いながら呟いた。その笑いは、どことなく彼自身に向けているような気がした、

「それでスポンサーが渋って金出さなくなっても、まあ音楽性には代えられねえし」

俺とG-PLANTSとコオロギだけが、吐露される彼の心境を聞いていた。

「外注するか?
でもまた金足りなくなるなぁ」

そうぼやくG-PLANTSの言葉に、俺はしばし沈黙し、返した。

「いいんだよ。これからだよ、舐達磨は」

コオロギが俺の体からぴょんと跳ね、深夜11時の夜空に消えていった。夏の夜の夢は終幕し、俺たちはまた現実に向き合う時間が来たんだなと思った。

「さっきの曲のイントロ、あれなんだかリリック湧き出てくるよな」

デルタも土埃を払いながら立ち上がり、夜空に向けて思いきり背伸びをした。

「ああ、でもさっきのリリックは...
   流石にダメだろ」

俺も立ち上がり、吸いかけのジョイントに火を付けてふうと煙を吐いた。

「あの曲はもっとチルくできるはずだよ」

ジョイントをデルタとG-PLANTSに回し、俺は本当のリリックを夜の空気に刻んだ

「上を見て振り返る、繰り返しては下を見て 探してた半透明な結晶が…

fin




















~~~~~~~~

やっぱり税理士に頼みましょう(完)








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