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[メモ]ドイツのスポーツクラブとハーバーマスの公共性


ハーバーマスの公共性に関する理論的枠組みをドイツのスポーツクラブが持つ民主主義教育の機能といかに関連させて論じるか。
親密圏(Intimsphäre):公的領域と私的領域との相互浸透という前提の上で、日常生活において形成する人称的なコミュケーション関係
市民連合(Zivilgesellschaft):「自由な意思に基づく非国家的,非経済的な結びつき」
→親密圏の横のつながりによって生まれるものが市民連合。この具体的な形態がドイツのスポーツクラブや市民団体といった、アソシエーション型市民活動

ドイツのスポーツクラブ(Sportverein)は、登記によって法的な位置付けを持つNPO法人の形態を取る。そこには特定の関心や目的を持った市民たち、すなわち親密圏の横のつながりを保持するという点で生活世界とのつながりを持つ。その中で、市民連合は、親密圏の横のつながりが拡大したものとして解釈できるだろう。そして、市民による自由意志によって成立するクラブは、基本的に「コミュニケーション」を媒介として運営される。そこから民主主義的な要素を身言い出すことができる。

第一に、クラブの会員はNPO法人という法人格を持つ。そのためどのクラブにも必ず規約が存在し、理事なども総会によって選出される。クラブのメンバーは総会での投票権などが与えられており、学校教育では想定不可能な権利主体として、現実的な政治的手続きを経験することができる。こうした政治的な活動が「統治形態としての民主主義」という、政治教育的な効果を持つと考えられる。

第二に、スポーツクラブでは当然ながら、メンバー同士の活動における自由なコミュニケーションが行われる。その際に異世代交流が行われるが、基本的にクラブでは年齢関係なく、敬称を使わずにタメ口で話し合う。これは先輩後輩だけにとどまらず、クラブのメンバーと指導者の関係でも同じである。さらにこうしたクラブは基本的に誰でも加入可能であり、私自身もたった一年の交換留学性にも関わらず、現地の青少年のオーケストラクラブに加入することができた。このようにクラブは多様な人を受け入れる複数性を持つ。このような生活世界における自由なコミュニケーションが行われることで、「生活形態としての民主主義」の契機が生まれてくる。

こうした民主主義教育に関わる二つの契機をスポーツクラブが持つことで、それは単に同じような興味関心を持った親密圏による横のつながりという市民連合にとどまらず、そこから市民的公共性を生み出していく。市民的公共性が生み出す公共圏では、人々はそれぞれの生活世界、私的領域によるバックグラウンドを持ちながらも、公的な問題に関して、公的な観点から対話を行うことがそこで可能となる。こうして、スポーツクラブはただ余暇的な活動としてスポーツを楽しむだけの場ではなく、公私の間の領域かつシステム世界と距離を置き、むしろシステムに対して批判的な議論を繰り広げることができる、新たな市民的公共性を生み出す場として、位置付けられるのではないか。

<参考文献>
野平慎二,『ハーバーマスと教育』,世織書房,2007
辻英史「現代ドイツにおける市民活動:1990年代までの歴史的展開」『公共政策志林』第8号,2020
ユルゲン・ハーバーマス,『公共性の構造転換』,未来社, 1973

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