虎子奮迅 3-3

次の日珍しく朝から山本が出社してきて
『虎、昨日言ってた取り立ての分の借用書預けとく。コピーやけどな。詳しく説明しようか。』

『いえ、大丈夫です。とりあえず本人に会いに行きますんで。額面通りもらってきたらいいんでしょ?』

『それで構わんよ、なんかわからん事あったら電話してくれたらいいや。なるべく穏便に行ってきてくれよな。』

『分かりました。早速今日から動きます。』

『分かった。よろしくな。』

『松永さん、今日何か手伝う事有りますか?』
番頭の松永に虎之介が声をかける。

『昼頃一件南区に集金に行ってくれたら助かるけどね。』

『分かりました。その帰りにでもちょっと今預かった取り立て行ってきます。』

『了解。』

『山本さん、南区なんでこの田中、100万円ってのに行ってきます。』

『あー、田中ね。3ヶ月ほど音沙汰無しやな。電話にも出んやつやな。なんかあったら連絡してな。』

『分かりました。とりあえずこの名刺に書いてある会社の方に顔出してみます。一応社長なんですね。』

『小さい住宅会社やけどな。多分会社に居るやろ。俺が行っても甘えた事ばっかり言って話にならんから虎が行ってくれたら少しは堪えるやろ。しつこい様やけど穏便に頼むな。』

『はい。今のところそのつもりです。』


その日の昼過ぎ、虎之介はビルの一階に店舗用のテナントが並ぶ一つに田中住宅の看板を見つける。
いかにも個人経営の社長が乗りそうなクラウンが停まっているのでその横の空いたスペースにキャデラックを駐車する。
会社の入り口のスライドドアをいきなり開け少々大きな声で
『こんちわー』
『田中社長いますかー』
と奥に向かって声をかける。

一番奥の事務机に座っていた見たところ40過ぎの男が出てきて
『私ですがどの様なご用件でしょうか?』
と訝し気な様子で応対に出てくる。

『山本の代理で来させてもらいました。何の用事か分かるでしょう?』
『3ヶ月もほっとかれて山本さんも困ってる様なので代わりにわざわざ出てきたんですが。』

『あー、その件ですか。すいません、連絡しようとは思ってたんですが、ここしばらく忙しかったもんで、後で山本さんには連絡しときます。来客の予定も有りますので今日のところはお引き取りください。』

『そういう訳にはいかないんですよ。子供の使いじゃ無いもんで。3ヶ月も黙って待ってるんやから今すぐ貸した金返して下さいよ。』

『そんなもんいきなり来て払えって言われて払える訳ないじゃないですか。』

『じゃあいつだったら払ってくれるんですか?払ってくれるまで居座ってもいいんですよ。今日暇なんで。』

『とにかく山本さんには後で連絡しときますから。本当に今からお客さんくるんで勘弁してください。』

『じゃあ今日のところは仕事の邪魔するのが目的じゃないんで一度帰りますが明日昼頃また出て来ますよ。金の用意お願いしますね。』
『じゃあ、また明日。』

一方的に話を切り上げて虎之介は田中の会社を後にする。
車に乗り込み何気なくバックミラーで後ろに写った田中の会社を見てみると入り口の所に立ったまま不安そうに見送る田中の顔があった。


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