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就学前教育が子供の「成功」の鍵

 保育園が子供にとっていいのか悪いのか。実は、乳幼児教育の重要性は、経済学的にはもう決着がついている。
 アメリカで実施された実験によれば、「良質」な保育園に通うことができた子供たちは、その後の人生において、学歴と年収が高い傾向にあり「成功」する確率が高くなることがわかった。また、保育園に通うことができた子供たちの「犯罪率」の低さも見られた。
 保育園に通うことで得られるのは、今後の「学力」だけでなく、「非認知能力」といって、子供たちの「生きる力」も得られることがわかっている。この「非認知能力」は、意欲(好奇心、探究心)や自制心(強いメンタリティや常識などと思ってもらえれば)という人生の成功に重要なものだ。
 だから乳幼児教育は重要で、「非認知能力」は人との交流によって育まれるものだから、「お母さん」1人に育児を任せてはいけないのだ。
 今回は、そんな小学校に入る前の就学前教育の重要性を見ていこうと思う。

日本は「教育」がきちんと研究されてこなかった

 日本における(もしかしたら世界中で)保育や育児の界隈では、トンデモ本が当たり前のように流通している。
 例えば、ミネルヴァ書房の『乳児保育』という教科書には、乳幼児保育は子供の発達に悪影響を与えない、という研究が紹介されている。また、古いデータも扱っており、1歳半以上で保育園に入った子供より、0歳から保育園に入った子供の方が精神発達指数(日常生活や対人関係などにおける子どもの発達の規準を数値として表したしたもの)が高いというデータが載っていた。
 こういった調査自体には意味があると僕も思う。問題は、その調査が行われた時代にある。上記の教科書で扱っていたデータは、30年以上前の1980年と1985年にそれぞれ実施された調査のデータなのだ。当時と現代とでは、保育園の在り方や様子、社会状況が違うから、知識の乏しい「情報弱者」には優しくないし、そもそも信頼できない。
 また、その後の追跡調査もなされていない。当時の子供たちがその後の人生で健康で生活できているのか、学力に差は出たか、幸せになれているのか。
 しかし、幸せになっているというデータはないが、不幸になったというデータもない。そもそも増え続ける現代の保育園において、それらに害があるとは思えない。けれど、信頼できそうなデータや研究が無い(少ない)から、なんとも言えないのが現状……。

根拠なし。おじさんたちの「私の経験」

 日本の教育政策には、科学的根拠が薄弱だ。例えば、税金や経済の政策において「私の経験から……」と発言する大臣はいない。
 けれど教育政策では、とにかく偉いおじさんたちが「私の経験」から発言をすることが多い。
 こういった「私の経験」に基づいた教育政策ばかりが溢れているのが現状である。
 また、不思議なことに、全国の小中学校で実施される「全国学力・到達度調査」の結果が研究者に十分に開示されていないのだ。この調査には約50億円もの費用がかかっているのに、そのデータを研究者が学術研究のために使用できないのだ。このことからわかるように、日本の教育政策では、大金はたいて集めたデータよりも、おじさんたちの「私の経験」が優先されてしまうのだ。

就学前教育が子供の人生を左右する

 ある教育経済学者は「子供の教育にお金や時間をかけるとしたら、小学校に入学する前の教育が一番重要だ」という見解を示している。
 だが、現代の日本人の感覚からすると、この発言はちょっと不思議なものに聞こえないだろうか。
 私たちは、専門学校や大学に高い学費を払っているのだがから、無理もない。
 ここからは、就学前教育の重要性を見ていく。
 1960年にアメリカで実施された「ペリー幼稚園プログラム」が、就学前教育の重要性の根拠となっている。
 このプログラムでは、貧しい地域に生まれたアフリカ系住民の3歳から4歳の子供たちに質の高い就学前教育を提供した。
 子供6人を1人の先生が担当し、その先生も大学院を出ている修士号以上の学位を持っている人に限定し、読み書きや歌のレッスンを週に5日、それを2年間続けた。さらに週に1度の家庭訪問も実施し、親にも積極的に介入した。
 この実験で何がわかったのか。
 40年にわたる追跡調査の結果、ペリー幼稚園に通った子供は、入園を許可されなかった子供に比べて、「人生の成功者」になる確率が高いことがわかったのだ。
 彼らは高校卒業率20代での持ち家率40歳時点での所得が高く、40歳時点での逮捕率が低かったそうだ。
 つまり、貧しい家庭に生まれても、高い就学前教育を受けることができれば、高学歴高収入を手にすることができ、犯罪などに走ることが少ないということが証明されたのだ。

「非認知能力」が子供たちを成功に導く

 なぜ、ペリー幼稚園に通った子供は「人生の成功者」になれたのだろうか。
 みなさんは、「乳児教育」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。英語や算数といった「勉強」に早い段階から触れさせることが重要だと思っている、または聞いたことがある、という人は少なくないはずだ。だが、ペリー幼稚園プログラムのキモは「勉強」ではないのだ。
 確かに、このプログラムに参加した子供たちの小学校入学時点でのIQや学力は、他の生徒と比べると高かった。
 しかし、面白いことに、こうした就学前教育のおかげでついた学力は、年齢が上がるごとに他の生徒と大差なくなるというのだ。実際、8歳前後、つまり小学2、3年生に上がる頃にはプログラムに参加した子供とそうでない子供とでは差がほとんどなくなったらしい。
 要するに、いくら質の高い幼児教育を受けても、学力における効果は短期的、ということだ。では、どうしてペリー幼稚園に通った子供たちが「人生の成功者」になったのか。
 それは、「非認知能力」の高さにある。
 「非認知能力」とは、「人間力」や「生きる力」のようなものだと思ってくれていい。社会性、意欲、忍耐力があるとか、すぐに立ち直ることのできる強いメンタリティがあるとか、広い意味で生きていくために必要な「能力」のことを、「非認知能力」と呼ぶそうだ。
 ペリー幼稚園プログラムによって高まったのは、IQや学力テストで測れるような「学力」ではなく、子供たちの「非認知能力」だったのだ。
質の高い幼児教育がもたらした「生きる力」が、彼らの「成功」につながったわけだ。

今回はここまでにして、次回では、「非認知能力」について更に見ていく。

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