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【 国際メジャーの企画開発 ② 】:リスクの正体を知って、勝つ

前回からはじまったチャネル、【 国際メジャーの企画開発 】の第2回。(※マガジン参照)

ここ “アーティスト業界情報局”はアーティストとして活動する全ての同志に、えこひいき業界情報を届けるエンターテインメントである。そのためなるべく、ビジネス寄りの一般情報や、教材紛いの自己啓発を含めないように留意している。そんな中、【 国際メジャーの企画開発 】は不定期ながら、アーティストとクリエイターに、具体的なソリューションを提供する専用チャネルである。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 ※前回:【 国際メジャーの企画開発 ① 】 』

では、【 国際メジャーの企画開発 ② 】をはじめよう。


『 リスクの正体 』

良識的で立派な一般社会において忌み嫌われている、「リスク」という存在。しかしながら例えば、“映画” や “エンターテインメント” にとっては味方であり、創作活動の間中、常に求めている愛すべき存在である。リスクやトラブルのない映画のストーリーで観客を楽しませるのは、至難の業だ。そんな立場だからこそ理解している、リスクの正体を解き明かす。

そもそもリスクとは、「とても興味深い存在」である。自身にとっては避けたいモノ、他人のリスクならば知りたいモノ。それほどの強いエネルギーを持っている存在ならば、活用する方法をみつける人類が表れるのは、当然である。先の「映画」や「エンターテインメント」をはじめ、「スキャンダル情報」「レース」「格闘技」「コンテスト」「保険」と、枚挙に遑がない。

「リスク」、この太いベクトルは、向きを変えることが自在。「災い」にも「チャンス」にも、変更が可能なエネルギーなのである。


『 リスクをとるのがデファクトスタンダード 』

「リスクを取る」という言葉は、被害者の見栄に重宝される。しかし先進国のマーケットでは、『 リスクを “獲る” 』として活用されている。リスクは、他人の手に渡る前に獲得したい存在なのだ。場面によっては銀行までもが目の色を変えて奪い合っている。“債権”や“暴落株の逆張り”の話をしようというのではない。

「BANKER:バンカー」をご存じだろうか。直訳すれば“銀行員”だが、活動内容はまるで異なる。銀行に所属している彼らが自身を呼称するときの“BANKER”はダブル ミーニングのジョークである。「銀行員」ともう一つ、「胴元(※ギャンブルの主催者)」という意味。

彼らは自身が所属する銀行から許された投資用予算を駆使して、収益を上げる。銀行の収益が上がれば、ポジションが上がり、より多くの投資用予算を手にして、さらに大きな投資に挑むのだ。相手はスタートアップから巨大コングロマリットまで様々だが、国際映画のシードラウンド(※新規のスタートアップ時期に行われる資金調達)にも、よく登場する。朝08:00開始、協賛や出資を募るわずか30分のモーニング会食の場面に、目を充血させた若いバンカーが同席しているのだ。自身の生活と出世を賭したその姿はいつも、「(あぁ、カメラを回したい……。)」と想わせる迫力と魅力がある。

彼らが夢中になっているのが、「リスクを獲る」ということ。

BANKERのみならず、映画企画開発のスタートアップに列席する面々は誰もが、“リスクを獲る”覚悟をしているのだ。なにも、国際マーケットに限った話ではない。日本国内ならばこの10年間、リスクを獲る人物たちが、増えている。彼らの正体は、「個人投資家」と「実業家」である。


『 リスクは、後ほど増える 』

映画に限らない。開発が始まったばかりの企画や事業は、リスクが高い。それは、その企画や事業が“消滅”してしまうことを想定した、BANKER、個人投資家、実業家たち目線の言葉なのである。つまり、せっかく手にしたリスクが、目の前から消滅してしまう、というリスクのことである。

そろそろ本件の真意が見えた方と、リスクから逃げ出そうと決めた方に別れる頃だ。続けてみよう。

“開発初期の企画はリスクが高い” これは明らかな、認識違いである。企画は開発初期がもっとも痛手に小さく、企画開発が進みローンチの直前にリスクは、最大になる。ローンチ段階で躓けば、参加者一同が大打撃を受けるのは想像しやすいことだろう。一方、会食を続けて談笑しているだけの企画開発初期のリスクなど、毎週欠かさず続けられていた早朝ジム通いの記録が途絶える程度のことだろう。リスクは、早期に獲る、べきものなのである。


『 ポジションを獲る 』

“初期リスクを獲る” 。BANKERやと個人投資家や実業家たちが目の色を変えて飛びついているのは、まだ安価な、近未来の大成功企画なのである。つまり彼らは、目の前の企画開発の初動に参加し、価値を見極めて、ごく小さな投資を行い、その企画の中に「企画開発メンバー」という“ポジション”を獲得しようとしているのだ。ポジションを獲らなければ企画は、他人の手に渡る。3週間後には目の前のポジションが数倍の価格に、2か月後には手が届かず、8か月後のローンチの時点で目にするメディアニュースなど、悔しくて食欲を失うレベルなのである。リスクを獲る、とは、未来を先獲りする挑戦なのだ。

路上のパーキングメーターからプロテスタント教会でのチャリティBINGO大会までカード決済が常識なハリウッドにおいても、タバコすら持ち歩かない手ぶらの街パリ、ロンドンであってもわたしたち国際映画人は常に、30万円程度のキャッシュを持参する。チャット1通から始まる唐突な「リスク獲得」の機会に、その場で、“手付け金”を握らせるためだ。この小さな出資を、「シードマネー(※種銭)」という。“握手”を覚悟した企画開発者は受け取りに、そのBarの紙製コースターに店員から借りたボールペンで、手書きする。「領収と提携合意」を示すDeal Memo(※覚書き)を発行するのだ。


『 リスクを獲る、というチャンス 』

日本はまだまだ、会社主導型社会である。そのため、フリーランスやサムライと出逢う機会は多くない。DMM会長の亀山さんや、わたしの師匠である東北新社 新社長の中島監督のような、覚悟と放任のバランスに長けた戦士に倣う精鋭の台頭を、願うばかりである。

会社主導業界の決裁者は、企画開発の初動席に、姿を現さないのだ。そのため、列席者はその場でポジションを獲ることができず結果、B to Bとして会社間取引以外に、企画開発への参加は実現しにくいのが現状だ。どれほど国際的に熱い閃きも、歴史を刻む情熱も、前年に株主を想い浮かべながらしたためた事業計画書と役員会を経た保守予算のフィルターを通れば、「立派な企画書」という、紙切れかデータに早変わり。そこにはリスクも、チャンスも存在していないのだ。


未完成の企画を喰らい、リスクを獲れ。

どうせまだ、守るほどの人生ぢゃない。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:ハイブランドのラルフローレンが2021年春コレクションに短編ファッション映画を製作、伝説的な黒人女性エンターテイナーに経緯を表明。

ハイ ファッション ブランドのラルフローレンが2021年春コレクションに発表したのは、短編映画だ。20分間の映画には、“Dorothy Dandridge Eyes.”という曲が含まれており、“私たちはあなたを愛しています”、と歌っている。ビバリーヒルズのロデオドライブにあるラルフローレンの旗艦店で撮影された本作は、モデルで女優の黒人歌手ジャネール モネイを主演にしている。モネイのナレーションから始まる本作は現代に、多くのメッセージを届けている。「昔々、私たちは集まりました。私たちはお洒落をしました。私たちは自由でした。私たちは解放された。私たちは楽しかった。私たちはタイムトラベラーでした。私たちは踊った。私たちは激しく愛し合い、私たちはジョークを言って笑ったものでした。」- MARCH 26, 2021 VARIETY -

『 編集後記:』

皆さんは、“Fashion業界”を、どう考えているだろうか?

誕生から126年、まだ新参の我らが「映画」は、リュミエール兄弟の手によって在る。それまで、そのポジションに着いていたのは「舞台興業」。中心にあったのは、「戯曲」と「芝居」。映画の前身である。我らが先輩の舞台興業が憧れ、競い合った存在ソレが、“ファッション産業”だ。

我らが大先輩であるファッション産業は現在、戦争にも揺るがなかった過去をもってしても先の見えない、恐慌のさなかにある。彼らはそれでも悲壮感を滲ませることなく、世界の人々を励ましている。

彼らの魂は、「美意識」にあり。

不平不満は美しくない。他人を責めても世界は変わらない。2011年5月に公開されたKarl Lagerfeld製作の短編映画、CHANEL cruise「The Tale of a Fairy (妖精の物語)」を観て、絶句してみてはどうだろう、若き映画人たちよ。


愛と孤独、美意識高い映画製作の現場へ帰るとしよう。

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