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座・高円寺の芸術監督公募の落選記録

書きたいことを書きたいだけ書いたら、ものすごい長文になりました。
まねっこして公開します☆
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志望理由

東京を拠点とし、長らく演劇作品の制作に劇作家・演出家・俳優として関わってきたが、このたび縁あってジョージア(旧グルジア)の地方都市ポチで開催される、国際地域演劇祭への招聘が決まった。
英語で言えば、「インターナショナル・リージョナル・シアター・フェルティバル」である。
「地域演劇/地域劇場とは何か」について考えつづけていたところ、今回の公募の情報を得た。

東京の「杉並区」は「地域」ではないのか? もちろん「地域」だ。

欧米の「地域劇場」であれば、劇場は「劇団」もしくは「舞踊団」を擁し、レパートリー上演と新作発表、および他の劇場との作品交換の組み合わせにて年間プログラムを形成していく。
日本において、そのような考え方をもった地域劇場は、ない。
そして、そのような予算をつける自治体は、ない。
杉並区/高円寺において、固有の劇団を有する意味もない。東京の舞台芸術業界は飽和している。

都市政策の中での「劇場の必要性」についても、現代の日本では重視される内容ではない。
震災後に、「ではこの跡地に劇場を建てよう」という話にはならないのだ。
(2012年に、演劇人会議(現:公益財団法人利賀文化会議 )の若手の代表として、大船渡市民文化会館・リアスホールをはじめとした沿岸部および盛岡市の視察に行った。「劇場は市民の力となった」との言はあったが「北島三郎さんのコンサートが人気」との話だった。)

わたし自身「劇場」にこだわらずに作品発表をおこなってきたが、9年ぶりの昨年の新作公演は、みずからが住む駅の隣駅に位置する「劇場」にて公演をおこなった。
子ども入場を歓迎する回を設定し、子どもの友達や保護者の方に囲まれた上演をした。
小学校帰りの子どもを一人で劇場まで向かわせる算段をしたところ、ゲネ後のダメ出し中に、迷子になった子どもから、泣きながら電話が入った。
小学校1年生だった彼女は、この4月に小学校2年生になった。
子どもを産んでから、公共に助けられ、また周囲と助け合うものごとが驚異的に増える。
というよりも、赤ん坊を産んだ人間の女性は、しばらくの期間、ひとりではいきられないのである。

そして、地域演劇について考える。

演劇は私的なものであり、公のものではない。そのように作品制作をおこなってきた。
図書館法によって、貸出履歴は保存されない。思想の自由は侵されない。それと同様の感覚である。
しかしあきらかに、「生活」は公私いりまじりっている。
高円寺に移り住み、地域の中で、子どもを抱えてどうにもならない女性として
「座・高円寺の芸術監督をすること」を想像してみた。やりたいことはたくさん浮かんで来た。

リージョナル・シアター、「地域演劇/地域劇場とは何か」についての答えが出そうだ。

任期5年間を通じたビジョン

座・高円寺を訪れたひとびとは、「黒テントだ!」と思う。
観劇後、帰路の観客の脳内では、そのテント空間はサッパリと忘れ去られる。
次回、再び訪れた観客は「そうだ、黒テントだった!」とまた、思い、
座・高円寺へ通い続けることがやみつきになるのだ。

まずは、杉並区民の誇りとなる劇場で「あり続ける」。
皆さんにとって、生きていくなかでの「思い出」がひとつでも多く作れる場所として。

そして、国内のみならず海外からも「座・高円寺で上演したい!」という声が上がる。
その受け入れ体制として、中長期計画を立てていく。

舞台芸術の作り手、また観客、双方にとって、ワクワクできる劇場。
訪れるたびに、心身ともに「癒し」を得られ、新たな活力を得ることのできる場。
「ワクワクできる」とは感性の話であり、数値では計測できない。

超・長期的に価値を高め、最終的には「劇場として、惜しまれて死ぬ」ことを目指したい。

舞台芸術は鑑賞できる人数が限られ、批評家も研究者も少なく、マーケットも非常に小さいため、一般的な「美術」以上に、外からの評価が入りづらい。
座・高円寺として、外部からの妥当性をもった評価基準を策定し、考察と実践を深めていきたい。

なお、高円寺エリアとして大きな流れである、(仮称)高円寺図書館等複合施設及び公園整備、および高円寺地域区民センター(セシオン杉並)の改修について、
お互いに価値を高め合っていくための「座・高円寺としての施設ビジョン」を構築したい。
とくに、セシオン杉並については500名規模のホール等、利用目的として重なる部分がある。
住み分けと相乗効果をねらい、指定管理者である東急コミュニティーらとの連携を図りたい。
それによって、高円寺四大まつり、高円寺びっくり大道芸、高円寺阿波おどり、高円寺フェス、高円寺演芸まつりへの支援も、より効果的で盛大な祭り事となるだろう。

ここからは、杉並区総合計画(令和4年度(2022年度)~令和12年度(2030年度))に沿って、座・高円寺のポテンシャルについて述べていきたい。

杉並区が目指すまちの姿は、「みどり豊かな 住まいのみやこ」。
「文化を育み継承し、スポーツに親しむことのできるまち 」という観点以外にも、「地域の中にある劇場」としての可能性を提示していく。

●みんなでつくる、災害に強く、犯罪を生まないまち
・防災・防犯
災害時の拠り所としての存在価値はもちろん、「犯罪が起こりにくい、犯罪を生まないまちづくり」にも劇場は寄与する。明るい希望とポジティブな雰囲気のまちには、犯罪は近寄らない。

●多様な魅力と交流が生まれ、にぎわいのある快適なまち
・地域に根ざした商店街の活性化促進
開館以来、驚異的な量の試みがおこなわれている。詳細は運営基本方針の項目に記載する。
・魅力的な観光情報発信の推進
現在、劇場ウェブサイトについて、多言語対応が追いついていないことは今後の課題だ。
「劇場」は、地域にとって重要な「観光資源」である。
わたし自身、ベルリンやパリ、ロンドン、ニューヨーク等で英語情報をもとに現地の劇場を訪れた。ドイツ語などまったくわからなくとも、「シェイクスピア劇」が上演されていることもあるし、コンテンポラリーダンスを観ることもできる。また、カフカ『変身』等、著名な文学作品の演劇化であれば。受付やチケット販売等の体制を含め、あらためて予算をつけることが必要ではあるが、今後、可能性を広げたい。
・アニメを活用した誘客促進
演劇と映像作品とのコラボレーションは困難さを抱えることも多いが、座・高円寺には「日本劇作家協会」という力強いパートナーがついている。杉並アニメーションミュージアムとのコラボレーションをおこない、「アニメを活用した演劇」の上演について強い興味を抱く劇作家も多いだろう。
また、反対に杉並アニメーションミュージアムを会場として、アニメ作品を演劇として上演することにも、また違ったおかしみが感じられる。
「座・高円寺x杉並アニメーションミュージアム祭り」の実現は、杉並区を活気づけるだろう。

●気候危機に立ち向かい、みどりあふれる良好な環境を将来につなぐまち
・グリーンインフラを活用した都市環境の形成
現状の高円寺駅から座・高円寺までのルートは、どうにも色気がない。また、敷地内にも植栽が足りない。予算の問題とはなるが、都市の中で樹々を感じることができる場所であってもよいだろう。

●「人生100年時代」を自分らしく健やかに生きることができるまち
・スポーツ・運動に親しむことができる場と機会の充実
「演劇は文系」と考えられている。「鑑賞」という意味ではそうかもしれないが、演劇をより「体験」することで、「ひらいた身体」となることはご存知だろうか。
実際の俳優の訓練では、身体感覚や発声のコントロールを養うために、多様な身体訓練がおこなわれている。小学校のこどもが「音読」をするように、「戯曲を読む」だけでも、これは「スポーツ」といえるのでは? 舞台作品の鑑賞が「心の健康づくりの推進」に役立つことは言うまでもない。

●すべての人が認め合い、支え・支えられながら共生するまち
・14 地域の支え合いと安心して暮らせる体制づくり
・15 高齢者とその家族が安心して暮らせる生活の確保と社会参加の支援
・16 障害者の社会参加と地域生活の支援
「共生」というと聞こえはいいが、「福祉」の世界で働くことは重労働だ。
座・高円寺でも、パントマイム等を通じ多様性の理解を深める事業の実施計画があるとのこと。
岡山では、「介護 x 演劇 x 地域 = OiBokkeShi オイ・ボッケ・シ」という団体が活動している。
このような活動が「ある」と知るだけで、我々は「共生」によりゆるやかに向き合うことができる。

●すべての子どもが、自分らしく生きていくことができるまち
・子どもの貧困対策の推進
厨房を持つ公共施設として、子どもと保護者へ安価に食事を提供する「子ども食堂」が開催できる。
・放課後等居場所事業の実施・充実
・中・高校生の新たな居場所づくりの推進
座・高円寺では、すでに「みんなの作業場」が開かれている。
演劇資料室やフリースペース、そして観劇そのものも、子どもたちの「居場所」の選択肢のひとつとなって、子ども個人を尊重する施設を目指したい。
・子育てを地域で支え合う仕組みづくりの推進
「自転車で集まれる距離」の子育て世代の拠り所として、すでにカフェ アンリ・ファーブルが利用されている。一歩進み、家族内の関係性や暴力の悩みをもつ方へ届くリーフレット設置をしていく。

●共に認め合い、みんなでつくる学びのまち
・特別支援教育の充実
・特別な支援を必要とする子どもを支える教育環境の整備
映像ではなく、現実の人間が「伝えよう」とするさまは、さまざまな教育支援を必要とする子どもの学びの一助となるだろう。それには阿波おどりホールのような、段差のない、大きな音が出せる場所が適しているかもしれない。そして「劇場へ行く」ということ自体が、子どもたちの記憶に、よい刺激を与えるだろう。とても時間のかかることであるが。
・出前型・ネットワーク型の学習機会の充実
日本劇作家協会の戯曲セミナーはオンライン講座のコンテンツを持っている。同様の内容を「杉並区民割引」を利用しながら、座・高円寺として提供していくことはできないだろうか。
・歴史・文化に親しむ機会の充実
地域の歴史や民話からの市民劇をつくるといった活動は各地でおこなわれている。
また、アートポータルサイト「スギナミウェブミュージアム」はネット上の仮想美術館として開館したばかりだが、舞台芸術の人材交流の場として、座・高円寺としても協働できる。
・地域活動を担う人材の育成・支援
座・高円寺での人材育成は、おもに舞台芸術に関わる人材とおもわれがちだが、
「表現したいときに、その発表の場所がある」ということ自体に大きな可能性がある。
阿波おどり以外にも杉並区を盛り上げる人材育成のきっかけになるはずだ。

●文化を育み継承し、スポーツに親しむことのできるまち
・部活動の充実
児童青少年センター(ゆう杉並)では、「ゆう杉並Official演劇メンバー」が活動している。
演目や上演規模によっては、座・高円寺が上演会場として適していることもあるだろう。
また、小・中学校・高校でも演劇部をもつ学校は多い。現状、演劇資料室が多くの生徒に利用されているが、技術的な部分のサポート等も将来的にはおこなっていけるだろう。

以上、長文となったが、座・高円寺は、覆いながら形を変えていくテントとして、
これだけのポテンシャルを秘めていると考えている。

今後の事業展開に向けた基本的な考え方 

運営基本方針(1)
優れた舞台芸術の鑑賞の機会を提供する。

★特に力を入れていきたいこと

  1. 座・高円寺1の劇場特徴である客席の可動性および空間自体が「正方形」であることを周知し、その空間特性を活かした企画を優先的に取り上げる。
    青山円形劇場の閉鎖後、都内で「円形」として利用できる空間はない。
    もちろん「円形」と「正方形」で大きな違いはあるが、「360度すべての方向から観客の視線を受ける」ステージ構成ができることに、たまらない魅力を感じる作り手と観客は存在するだろう。

「内形20m×20mの正方形に、舞台のレイアウトに応じステージデッキで階段状の客席を手動で積み上げる。このホールでは、舞台の構造に縛られずに、演出に応じた舞台をその都度「造り出せる」。(「杉並の名建築を訪ねる<座・高円寺>」一級建築士・大嶋信道氏のレポートより)」

  1. 若い劇団にとって基本形状238席の客席を「埋めなければならない」ことは心理的・経済的なハードルが高い。
    上記のように、「正方形の空間」と考えた場合、客席数は「自由」である。
    事業成果として、「入場率」を計測するが、より少ない客席、近年よく見られる「舞台面のみを小空間として客席を別途設置しての公演」「劇場自体を反転させて利用し、客席を舞台面に設定して、本来の客席は演技エリアとなる(2009年『4.48 サイコシス』演出:飴屋法水 など)」等の形態も可能なことを積極的に提示し、技術的な解決方法についても提案したい。

  2. 連携協力を結ぶ「高円寺阿波おどり振興協会」と「日本劇作家協会」のパートナーシップの意義および連携協力の具体的内容について、区民に対し、よりわかりやすい周知をする。
    とくに、「日本劇作家協会」については、それぞれが独自の価値観を持ち劇作をおこなっている「劇作家」の集合であり、団体の方向性は社会や業界の動向によって刻々と変化するものである。わたくしもいち会員であるが、「日本劇作家協会」から発信される、舞台芸術の品質向上への闘いについて、全力で支援し、発信の協力に努めたい。

★新たに取り組んでいきたいと考える内容

  1. 運営基本方針(4)にも記載したが高円寺駅〜劇場までのアプローチにつき、高揚感に欠けていると感じている。座・高円寺の優れた建築を活かすための歩道整備について、専門家をまじえ検証をおこないながら進めたい。

  2. 「優れた舞台芸術」とはなにか。
    座・高円寺1の上演と、座・高円寺2の上演を分けるものはいったいなにか。
    本来であれば、入場料設定と入場率で測るべきであろうが、そのデータはないとのこと。私見としては、自分の好みに沿わなかったとしても、「入場料分の価値のある時間」がプロフェッショナルとアマチュアとを分ける境界だろう。
    なお、今後、座・高円寺独自の評価基準を定め、評価データを作っていくことの必要性を感じている。データによる振り返りを積み重ねていくことで、劇場稼働率および入場率を上げていくことを目指したい。

  3. 杉並区民の公演観賞無料化に向けて、取り組みを進めたい。
    無料で入場いただいたうえで、「払いたい」と思った場合にはご支援いただく。「お代は観てのお帰り」である。最初は「年1回限り」でもいい。
    「いくら払ってでも観たい」というものが、すぐれた舞台芸術である。
    公演毎の入場率データが公開されていないので詳細な収支が不明だが、今後収支とともに検討したい。

  4. 杉並区の自治体規模からすると、協賛金・協賛企業を増やせる余地があると考えている。これは、劇場の運営基本方針そのものに賛同いただくことがひとつではあるが、「優れた上演を実現するための協賛」はどうか。
    一般的には「有名人・著名人・知人が関わっている事業」に出資したくなるが、もちろん優れた舞台芸術の指標とはそれだけではない。
    まずは、できるだけ多くの企業へ、企画の提案や公演への招待をおこない、「優れた舞台芸術を支援することで、企業価値が向上する」ことを訴えたい。
    ここにはもちろん、さらに厳しい目線が存在する。

運営基本方針(2)
区民等に対し、多様な文化活動や交流を行える場を提供する。

★特に力を入れていきたいこと

  1. 座・高円寺2は固定式の座席であり、客席数が300弱と比較的多い。
    また、阿波おどりホールについては、イベント会場として考えた場合に、客席構造から考える必要がある。
    このため、「利用しづらい」との懸念があり、また実務や経済上の困難さを避けるために、過去の利用と離れた独創的な活用を、利用者側が模索することは難しいのかもしれないと案じている。
    より多様な創作空間となるべく、過去の特徴的な利用例の公開や、ホール利用の懸念について専門家が相談に応じる相談会等を積極的におこないたい。

  2. 利用者の希望を細やかにヒアリングしながら、座・高円寺2及び阿波おどりホールでの開催イベントについても「座・高円寺からの舞台芸術の魅力発信」として、より積極的な情報提供に努めていきたい。

★新たに取り組んでいきたいと考える内容

  1. けいこ場について、区民解放も可能な施設として設計されているが、現状としては劇場の主催公演および提携公演の稽古に利用されている部分が大きい。令和3年度の稼働率は95.6%とのことで、かなり厳しい部分はあるが、ゆたかな稽古場から、ゆたかな舞台芸術作品は生まれる。
    座・高円寺2利用者の最終リハーサル会場等に利用できるよう、けいこ場スケジュールの見直しをおこないたい。

  2. 京都芸術センターでは、京都市文化芸術総合相談窓口 [KACCO]が設けられている。また、イベントとして「ゲスト相談員の日」が開催されている。2023年5月のゲスト相談員の方は「盆栽研究家」だそうだ。
    同様の目的をもった「地域文化施設」として、舞台芸術だけにこだわらない、より包括的な「文化芸術総合相談」の窓口を設置したい。
    高円寺ならではの、ライブハウスや古着屋等との連携もできるのではないか。

  3. 座・高円寺2及び阿波おどりホール利用者間の交流会を設けたい。
    プロフェッショナルをめざす団体であれば意見・情報交換は必須であるし、また、お互いの作品を鑑賞し研鑽し合う契機ともなろう。
    これは民間の試みではあるが、東京都北区の王子小劇場では、年間上演されたすべての公演を対象に「佐藤佐吉賞」という劇場運営会社の創業者名を冠した賞を設定し毎年末に表彰式をおこなったり、「佐藤佐吉演劇祭」と冠して「同じ空間を利用して、いかに違うものを見せるか」を競わせる仕組みをおこなっている。アマチュアであっても、セミプロであっても、参加者自身が楽しめるような交流企画を開催したい。

  4. これも交流のための企画であるが、「なみちけ」利用者を対象としたオンラインもしくは対面でのコミュニティを創設したい。観劇後の感想や、今後の劇場企画に対しての期待など、鑑賞者の自由な交流の中で聞こえてくる声もある。今後のプログラム構成に役立てるとともに、舞台芸術従事者のモチベーションアップにも繋がる施策と考えている。

  5. マンパワーが必要となるが、貸館のための施設見学会の拡充をしたい。
    1回10名まで、各団体2名までという現在の条件は、民間の劇場と比べるとあまりにも厳しい。演出家以外の人物からの意見で上演の方向性が決まることはよくある。たとえば俳優から「この空間でこんな演技をしたい」というアイディアが出てくることなども重要ではないか。

運営基本方針(3)
舞台芸術の普及・向上を図るための環境をつくり、発展させるための事業を実施する。

★特に力を入れていきたいこと

  1. 現状のプログラム構成の中でも、「子ども向け」とはされていなくとも、年少者が鑑賞した際に学びの多い演目は多くある。
    歌舞伎や文楽におけるイヤホンガイドのような、鑑賞の手引きとなる情報提供をおこない、より多くの層に、より深く作品を感じ取ってもらえるような取り組みをおこないたい。
    「これぞ演劇!」なのか、「これも演劇?!」なのか。
    現在、世界中で、ヴァーチャルリアリティ等の技術の進化に伴い、「舞台芸術とは何か」といった問いは刻々と変化している。その中の一部だけでも紹介していくことで、舞台芸術を中心としながら芸術文化全般への親しみをもち、みずからも創作者となることのできる人材育成の一助となりたい。

★新たに取り組んでいきたいと考える内容

  1. ピアノと物語『アメリカン・ラプソディ』 『ジョルジュ』については、劇場レパートリー作品として、高い人気を誇っている。
    この演目についての実演を体験できる参加型ワークショップをおこないたい。
    俳優以外の方が「台詞」を発話することで、その方の人生を超え、作品の思惑をも超えていく作品がたびたび存在するのはなぜか、と考えている。
    鑑賞する側だけでなく、「自分でもできる」と自分ごとに視点が変わる、舞台芸術の受け手を増やしたい。

  2. これは運営基本方針(1)(2)に含まれることかもしれないが、あえて「舞台芸術の普及・向上を図るための環境づくりの事業」として提案したい。
    下記、高円寺四大まつりへの参加内容の項目でも言及するが、けいこ場、フリースペース、カフェ、エントランス、劇場建物前等、座・高円寺における「劇場」ではない場所での上演を積極的におこなっていきたい。
    内容については、公募も面白いだろう。
    座・高円寺1、座・高円寺2、阿波おどりホール、それぞれの利用者と共同企画も可能である。

  3. 舞台芸術の「批評の場」をゆたかにしていきたい、ということは常々考えているが、なかなか困難なことだ。「劇評講座」を設けている公共劇場は多くある。
    2004年にスタートし、2015年から休止中の小劇場レビューマガジン「ワンダーランド」というウェブサイトがあった。「劇評を書くセミナー」も積極的に開催されており、作り手にとって、とてもありがたい存在だった。
    「観客発信メディア WL」に継承されているが、そのサイトにて「今年の3本」というひとこと劇評を載せるアンケート企画を毎年継続していた。
    座・高円寺の「今年の3本」。そのような小さなメディアから、観客からの批評の芽は生まれないだろうか。

  4. 高円寺演芸まつりにて、落語等の話芸については上演があるが、そのほかの古典芸能、能・歌舞伎・狂言・文楽・日本舞踊・邦楽演奏等についても、「これも舞台芸術?!」の取り組みの中で、上演企画として挙げていきたい。
    地域の日本舞踊教室や、筝・三味線等の教室との協働も考えられるだろう。

  5. 座・高円寺に「劇場創造アカデミー」が設けられていることは、日本の舞台芸術界にとって、大きな意味を持つ。
    「舞台芸術作品をつくる」ではなく「劇場をつくる」という視点をもった人材は、その後、自身の能力を活かしまた他の人材と能力を補い合っていくことで、あらたな「場」を形成することができるだろう。
    座・高円寺自体も、「働きやすい」「働いていて楽しい」職場でありたいと思う。

運営基本方針(4)
地域の振興とまちづくりの視点を持って運営する。

★特に力を入れていきたいこと

  1. 高円寺四大まつりへの参加において、劇場の可能性を超えたい。
    3つのホール、けいこ場、フリースペース、カフェ、エントランス、建物前と、複数のスペースがあることを活かし、公募企画等も視野に入れつつ、さらにまつりと一体化した期間としたい。
    大道芸をテーマにした物語の上演、演芸をテーマにした物語の上演等、「演劇作品の上演」としてこだわりを見せることもできるだろう。

★新たに取り組んでいきたいと考える内容

  1. 座・高円寺は高円寺駅からのアクセスが良く、高円寺駅を利用しての来場者が多いことが見込まれるが、杉並区内のエリアとしては中野区と近接している部分となる。
    劇場の魅力のひとつとして、「複数のアプローチがある」という点は大きい。
    「高円寺駅寄り道ルート」の提案や、「新高円寺駅・東高円寺駅・中野駅・野方駅から歩いてみると、何がみえる?」の映像作品制作等、観劇を忙しないものではなく、よりゆたかなものとして積極的な働きかけをしたい。

  2. 「任期 5 年間を通じたビジョン」項目内にも記載したが、「魅力的な観光情報発信の推進」を実現するため、劇場ウェブサイトの充実を図りたい。具体的にはスマートフォン対応および多言語対応となろう。
    また、高円寺関連の他の企画サイトとの連携を図りたい。

  3. 現状の「なみちけ」は、舞台芸術の普及・向上の環境を整えるツールとして、大変有効なものと考えている。プラスして、「地域の振興」という視点を入れると、「高円寺スタンプカード」として、高円寺の他の施設や店舗・飲食店の集客にも繋がるツールとして利用できるのではないだろうか。
    劇場観劇後の飲食店利用等を促す、いわゆる「半券割引」も取り入れていきたいが、まずは「なみちけ」を、より高円寺に親近感を持ってもらうためのツールとして使うことを試行したい。

  4. 下記、運営基本方針(5)についての項目でも記載しているが、「高円寺を舞台にした戯曲」「杉並を舞台にした作品の演劇化」をレパートリー化していくことは、地域劇場の責務のひとつであると考えている。

運営基本方針(5)
区民との協働により施設を運営する。

★特に力を入れていきたいこと

  1. 現状の運営懇談会及び地域協議会の貴重な機会を尊重しつつ、その他、「ご意見箱」や、「利用者アンケート」等、さまざまな声を集めることで、「より良い施設運営」という部分について、多角的な面から検討したい。
    任期 5 年間を通じたビジョン項目でも上げたが、すでに杉並区内にある複数のホール施設、杉並公会堂や、高円寺図書館複合施設およびセシオン杉並がありながらも、座・高円寺が「演劇」に特化した施設としてある意味を、協働の中で対話し、確立していきたい。

  2. 絵本の旅@カフェ・みんなの作業場・若者のためのじっくりものづくり塾・おとなのための演劇ワークショップ等、参加型企画については、参加者自身の創作力による部分、またボランティアスタッフの力をお借りする部分がとても大きい。
    企画内容および実施内容については、舞台芸術としての専門性を高めると同時に、生活者目線をもって、参加者およびボランティアスタッフの方が「またやりたい」と思う企画として実現したい。
    こどもや学生、主婦/主夫、高齢者など、ボランティア活動の中核とされる層を超えて、働きながら生活する若者、また働き盛り世代の男女にも参加できる内容を模索していきたい。

★新たに取り組んでいきたいと考える内容

  1. 地域の伝統的な「祭り」と演劇をリンクさせる活動を、地域に長く住まう方のご協力をいただきながらおこないたい。
    旧高円寺村の鎮守社は、高円寺氷川神社と高円寺天祖神社の二社であったと聞いた。これら神社の歴史を体験しながらのまちあるき演劇などを構想したい。
    高円寺氷川神社は日本で唯一気象の神が祀られ、新海誠監督による劇場アニメ『天気の子』の舞台ともなっている。なんとも演劇的ではないか。

  2. 杉並区作成「駅からお散歩マップ 個性的なお店がひしめくサブカルチャー
    のメッカ」の内容とリンクさせつつ、まちあるきのなかに「劇場から飛び出した演劇」が点在する音声コンテンツ等を企画したい。

  3. 「高円寺に滞在して、高円寺についての戯曲を執筆する/高円寺についてのパフォーマンス作品を上演する」等の劇場レジデンス企画を企画したい。
    わたし自身の体験として、2014 年に日本劇作家協会の劇作家大会企画として、兵庫県豊岡市に2泊 3 日の滞在をおこない、短編戯曲を執筆させていただいた。短期ではあったが、多数の地域のかたの多大なる協力に感謝している。

指定管理者との関わり方

まずは、平成 21 年の開館当初より継続している、偉大な貴団体のビジョンについて、大きな敬意をもって共有させていただきたい。この年数の事業内容についてだけで、1 冊の著作となるだろう。

差し迫っている令和 6 年度の基本方針及び事業計画の策定までに、まずは当方が聞き手となり吸収する時間をできるだけ多くいただきたく、平にお願いする次第である。
基本協定書の内容によると、芸術監督の責任と権限は「本施設の運営管理業務」には及ばないと考えられるが、そのうえで座・高円寺のビジョンをともに実現すべく、対話の中で価値観のすり合わせをおこないたい。

「芸術文化の普及振興事業」については、これまでの事業実施の経緯を踏まえたうえで、事業数の 1 割を目安に芸術監督からの企画を発表できるよう、事業数の 3 割ほどの件数の企画を計画時に提案したい。
(令和 4 年度杉並区事務事業評価表によると、令和 4 年度の芸術文化普及振興事業の実施延べ回数予定は 400回との内容であるため、120 回・10 件程度の事業案の提案を考えている。)
年間の基本方針及び事業計画の策定時期については、9~12 月頃との提示があったが、初年ということもあり、できるだけ前倒しのスケジュールで予定していきたい。

「特定非営利活動法人劇場創造ネットワーク」の指定期間は令和 3 年 4 月 1 日~令和 8 年 3 月 31 日となり、今回の芸術監督任期内に、別の指定管理者への変更がある可能性がゼロではない。
個人的には、運営ビジョンの共有は長く継続することが望ましく、指定管理者制度のデメリットのひとつであると考えているが、現場知識の共有と蓄積および継承については、しっかりとした体制をもって臨みたい。
現場の人材 60 名〜80 名については、今後の彼ら彼女らの人生において、他の環境でも芸術文化の普及振興に深く関わっていくことができることができるよう、それぞれのスタッフ個人と適切なコミュニケーションを取りながら、劇場ビジョンの共有に努めたい。

なお、ここ数年で、複数の杉並区議会議員より区議会質問や情報公開請求があったと公開されている。
・堀部やすし議員「不適切な決算処理が複数見受けられた」
・田中ゆうたろう議員「けいこ場や作業場の利用方法について、また事業内容の政治的思想について」
この内容については、演劇や舞台芸術の専門的知識についての説明不足がおもな疑義の原因と考えられるが、公共の施設として、事業の透明性について説明を尽くすことは重要な責務である。芸術監督という立場からも、事業報告書の確認および事業の承認にあたっては、専門家の助言のもと、区民から信頼されるべく過程を尽くしていきたいと考えている。

「管理運営に関する基本協定書」内
(基本方針)第3条 全ての区民が文化活動の機会と場を得られるよう、区民の利用機会を十分に確保する
とともに、施設の提供に当たっては、公平な取扱いに努める。
(業務実施条件)第 11 条 杉並区情報公開条例(昭和 61 年杉並区条例第 38 号)の規定に基づき、情報
の公開を行うために必要な措置を講じるよう努めなければならない。
(業務の質の確保)第 27 条 甲は、基本協定・仕様書、年度協定、及び事業計画に基づき提供する業務の
質を確保するため、モニタリングを実施するものとする。

等を実践レベルに落とし込みつつ、「劇場創造ネットワーク」との協働のなかで、区民にとって、利用者にとって、「使いやすい施設」を実現するためのフィードバックに繋げていきたい。


以上

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