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海の宝石を求めて(翡翠を探す旅 part3)



「ああ、糸魚川にいきたい」


頭の中で、何度も何度も
その言葉が繰り返されていた。

2022年冬のことである。

数ヶ月前に糸魚川で
1週間という贅沢な時間を
過ごしたばかりではあるが、
私は相変わらず翡翠のことばかり考えていた。



新潟の人はいいなあ。

東京には翡翠海岸がない。
東京にはフォッサマグナミュージアムがない。
東京には自宅から1時間以内に糸魚川がない。

冬の北陸は雪国になる。
わが愛車のサマータイヤでは危険だ。
翡翠シーズンは冬なのに。
ジレンマとの戦いが続く。

心の隙間を埋めるために、
翡翠ハンターさんのYouTubeを再生したり、
鉱物雑誌ミネラ(翡翠特集)を購入したり、
池袋で行われる東京ミネラルショーに参加したりした。
(糸魚川翡翠にハマった人みんなが通る道)

ミネラルショーでは、
糸魚川翡翠を扱っているお店を中心に回った。

翡翠系YouTuberの世界では名の知れた
ジョイテックのアラキさんとも話すことができた。
話が面白い。声がでかい。
映像そのままの、とても魅力的なお方だった。
いつもYouTubeをみてます!という話をしたら、
あの有名?な「石探ステッカー」をくれた。

肝心の翡翠ライトは買えなかった。
半導体云々で入荷できていないそうだ。
(お店が忙しそうでリュウちゃんとは話せなかった)

別の翡翠販売店のおじさんにも話しかける。
テンション高めに、翡翠拾いに
ハマっているという話をしたら、
まずは本物を持つことが大事だよと
5万円くらいの大きな翡翠を勧められた。

冷やかしてすみませんでした。
おいら、そんなにお金もってないねん。

ミネラルショーは賑やかで楽しい。
楽しいのだが、何か物足りない。
やっぱり、現金採取はお金のある人が楽しむ
ハンティングである。

帰りの電車で、私は思い切って
3度目の糸魚川を予約した。


積もる雪。
積もる翡翠への想い。
雪が溶けても、
想いは溶けない。
(かっこつけて言いたかっただけ)




1日目(出発〜歌・須沢)


2023年3月中旬。出発の日。

3度目の糸魚川へ。
5ヶ月ぶりの翡翠ハンティングへ。

今回は4泊5日。
当日は、はりきって朝6時に家をでた。

夜明けの海岸で探し始められるように
深夜に出発する強者もいるらしいが、
さすがに徹夜の運転は厳しい。

春とはいえまだまだ肌寒い3月。
北アルプスの山々にはまだ雪が残っている。

眼前には北アルプスの山々
まだ雪が残る上信越道


途中休憩をはさみながら、
約5時間で糸魚川に到着。

姫川前の信号にて。雪の黒姫山があまりにも美しかったので、パシャリ。


まだ正午過ぎ。
予定より早く目的地に着き、
テンションが上がる。
よし、海に行こう。


初っ端は、わがホームコートである
歌(親不知)からと決めていた。


ただいま、日本海。

波は穏やかな様子。
初日から大物を見つけて、
ロケットスタートを切りたいところだ。

すでに先客ハンターもいて、
チャンスはもう残っていないかもしれないが
あきらめずに探そう。

波が穏やかな日は海の中がよく見える。
波打ち際ではなく、ちょっと水深のある場所を
重点的にチェックする。

翡翠棒で白っぽい石を何度もすくう。
確信を持てるような綺麗な石は見つからなかったが、
それっぽい石はいくつかゲットした。

4時間ほどで歌は終了。
その後、須沢へ。


もうすぐ日没。
天気はどんよりとしている。
人も少なく、色彩の少ない景色が広がっている。

翡翠に興味のない人からすれば、
私は、平日の寂しい海岸にたたずむ
哀愁漂う中年のおっさんなのだろう。

今頃、みんな頑張って働いているんだろうなあ。
それに比べて俺は何をしてるんだろう。
自分は社会から弾かれた存在なのかもしれないなあ、
なんていう暗い気持ちになる瞬間もある。
このようにnoteで発信でもしなきゃ
孤独感に耐えられないと思う。


姫川河口まで歩く。
途中で出会ったそれらしい石は
全てポケットに入れた。

須沢で拾った謎の青い小石(きっと翡翠ではない)


川と海の合流するあたりで
とても気になる石を発見する。
流れの強い姫川から運ばれてきて間もないと
思われる大きな石である。
石表面の数カ所には
透明感のあるグリーンが顔を覗かせていた。

まさか、これは!

この大きさ!
1kgは超えるであろう石を
両手で抱え上げて、袋に入れた。
よし、ミュージアムで鑑定してもらおう。

その帰り道でも、
大きめの黒翡翠っぽい石を発見する。
これも鑑定行きだ。

石は重いのに、心は軽快。
この時点で、私の気分は
ノリノリウキウキイケイケである。
そう、この時点では、である。

須沢って相性良いかも!などと思いながら、
気分良いままに、
その日はホテルにチェックインした。

夜、拾った石を眺めながら夕食。
コンビニ弁当なのに、
いつもより美味しく感じた。

須沢海岸で拾った1kgを軽く超える石。透明感のある緑が顔を出している。




2日目(ミュージアム〜親不知・歌)


朝から雨模様だ。

この日はフォッサマグナミュージアムへ。
そう。石の鑑定券(整理券)をもらうためである。

鑑定券は抽選で当たった人だけがもらえる。
雨の平日にも関わらず、抽選には
結構な人数が参加していた。
当選者から順番に番号が呼ばれていく。
運良く早めに番号を呼ばれた私は
無事に鑑定券をゲットすることができた。
予約時間は明日の午前11時。
遅刻しないようにせねば。

その日は雨だったので、
あせって海にはいかず、
ミュージアム内を見学することにした。
(通算3回目)

ここに飾られている翡翠たちは、
どれも美しく何度見ても飽きない。
文字通り、「博物館級」の美しい石が
山ほどあるのだ。

ミュージアムで目の保養を終えた後、
私は親不知海岸へと向かった。
なぜ親不知を選んだのかといえば、
道の駅ピアパークは高架下が駐車場になっているので
雨の日も濡れずに準備ができるからだ。

出発前から、週間天気予報で
その日が荒天であることはわかっていた。
なのでカッパも用意してある。

浜に出た。

小雨の親不知は
どこか物寂しかった。
真昼間なのに、空と浜が暗い。
波も荒れている。
「物寂しい」という言葉は、
こういう景色を表現するために
あるのかもしれない。

あの世のような雰囲気


太陽の光を浴びない浜では、
よりいっそう石の判別が難しくなった。

ひとけのない海岸を
一人でトボトボ歩き続けること数時間。

半ばやけくそになり、
白い石を拾うという基本を破り、
緑色の小さな石ばかりをいっぱい拾った。

この中に翡翠があります。さて、どれでしょう?


夕方頃、雨脚も強まり、
早めに翡翠拾いを切り上げた。

雨の中、カッパをかぶって何時間も歩いて
結構疲れたけれど、全然イヤじゃなかった。
いつも通りの爽やかな疲労だった。

戻った車の中で
仕事のメールのやりとりをしていたら
1時間以上かかってしまった。




3日目(ミュージアム〜宮崎海岸)


運命の鑑定日である。
朝からミュージアムへ向かう。

ドキドキしながら自分の順番を待つ。

私の石を見てくれたのは、
館長らしき優しそうなベテラン学芸員の方だった。

鑑定は1人5つまで。
昨晩じっくり選んだ石をカゴに入れる。
学芸員さんはルーペなどで一つひとつ確認していく。

「えっと、これは翡翠ですね」
カゴの中の石を見た瞬間だった。
間髪入れずに言われ、面食らう。
初日に拾ったよくわからない石が、
いきなり翡翠認定である。
あんまり自信なかったのに。
しかも100g近い、まあまあのサイズ。
(写真右上)

次。前回の糸魚川遠征で拾った石だ。
学芸員さんが「うーん・・・」という顔をしていたので、
「その石、比重は3.2あったんですよ。触り心地もスベスベで」
とアピールしてしまった(笑)。
鑑定結果は、翡翠(少しロディン岩混ざり)だった。
アピールが効いたのかわからないが、よかったよかった。
(写真真ん中)

3つ目は、問題のでっかいやつ。
学芸員さんがこれまた難しそうな顔をしていたので、
「ほら、ここ。緑の透明な部分があって・・・」と、
必死にアピールする。
ちなみに、基本的に
アピールで鑑定結果が変わることはない。
相手はプロである。それでも・・・
私の口は黙っていられない。(←アホ)

水に少し濡らしてみたり、
手に持ってみたり、いろいろ試している。
「ちょっと待ってね」と言って磁石を持ってきた。
「ほら」
「あ!くっついた」
蛇紋岩だったんジャモン。
初心者ハンターの誰もが言いたくなる
ダジャレが頭の中で繰り返された。
蛇紋岩にはクロム鉄鉱という成分が含まれており、
磁石に反応するのである。
(写真左下)

飄々と鑑定を続ける学芸員。
ショックを隠しきれない私。
学芸員の方々は、今の私みたいな
落胆した悲しい表情で石を見つめる、
ブザマな初心者ハンターの姿を
数えきれないほど見てきたのであろう。

4つ目。
須沢で拾った黒翡翠っぽい大きな石。
「これは・・・チャートですね」
(写真右下)

5つ目。
前回の遠征で見つけた
透明感と結晶のある石。
「これも・・・チャートですね」
(写真右下)

ちゃ、ちゃ、チャートってなんや?

チャートとは・・・
ほとんどが細粒な石英からなる堆積岩です。海中に浮遊している放散虫などの殻が海底に堆積することでできる場合(生物起源)が多いですが、水中の熱水活動で放出されたシリカが積もることでできる場合(非生物起源)もあります。チャートは、海底で非常にゆっくりと堆積するため、厚さ1cmのチャートができるのに、数千年がかかると考えられています。
(出典:フォッサマグナミュージアム ウェブサイトより)


まあ、落胆もしたが、
総合的な結果は
そんなに悪くはなかったよ、うん。
2つ翡翠だったし。

次の日も鑑定を実施するということだったので、
鑑定券を再度もらった。
今日はこの後、富山の宮崎海岸まで行く。
宮崎海岸で拾った石を
明日の鑑定で見てもらうことにしよう。

気持ちをすぐに切り替えた。


個人的に相性の良くない
宮崎海岸へ向かう。

この日は朝から快晴。
きっと石も見やすいだろう。

現地に到着。海はまあまあ波があって
石が常に入れ替わっている印象。
これならチャンスはある!と期待が膨らむ。

膝くらいの深さの海底を探し回る。
波が引いた瞬間、石と石の間に
キラッと緑色が輝くのが見えた。
拾い上げてみると、結構大きなサイズの石。
海焼けの汚れ?のようなものに包まれているが、
ところどころに明るい緑色が入っていて綺麗だ。
これはひょっとしたら、ひょっとするかも、である。

謎の石。海焼けの黄色に包まれている。水に濡らすと綺麗なのだが。


その後も、透明感の高い石、
ラベンダーっぽい色の石を見つける。
時間優先でどんどんポケットに入れていく。
後からまとめてじっくり観察するつもりだ。

夕方頃まで頑張って終了。
翌日の鑑定に持っていく石がいくつか拾えた。

帰りはいつものデイリーストアで
夕食のお弁当を購入。
昨日と同じく、拾った石を見ながら食べた。

ボリューム満点(揚げモンばっかやないか)




4日目(ミュージアム〜歌・須沢)


この日も、午前中から
2度目の鑑定のために
フォッサマグナミュージアムへ。

前日とは違う、
ガタイのいい学芸員さんが見てくれた。
このお方も恐るべきスピードで石を見ていく。

結果、全部、翡翠ではないとの鑑定(涙)。
ロディンとかキツネとか。


しかし私は負けない。
どんな逆境でも諦めたらそこで試合終了である。

持ち前のアピールを学芸員さんに炸裂させる。

最後に見てもらった透明感の高い石が
「これはメノウ(モスアゲート)ですね」との話だったので、
生意気にも素人ながら納得がいかなかった。

「あの、これがメノウだとすると、
この石の側面にある緑色の部分の成分は何ですか?」

「そうですね、この緑の部分はえっと、
オンファス輝石か角閃石ですね。だとすると・・・」

腕を組んで考え込む学芸員さん。

「オンファス輝石がくっつくのは翡翠なんですね。
そうなると、この石は翡翠ということになるんですけども。
でもですね、翡翠はここまで透明にならないんですよね。
でも、これがオンファスだとすると・・・翡翠?
うーん。わからないですね。
あ、でもわからないではだめですね」

学芸員さんも、専門家の立場として
「わからない」とは言えないようである。

「あの、こちらの石を
お預かりさせていただいてもよろしいですか?」

どうやら、その場の目視だけでなく、
ミュージアム内のすごそうな機械などを使って
じっくり見てくれるようである。
それならば正確な結果が出るに違いない。
とてもありがたいし、楽しみである。
結果は、2〜3ヶ月後に連絡をくれて、
石も郵送してくれるという。

私はその石を学芸員さんに預けて
ミュージアムを後にした。
期待せずに待っていよう。

後日(数ヶ月後)、フォッサマグナミュージアムの
学芸員さんから電話連絡があり、
その透明な石が翡翠だったという鑑定を受けた。
学芸員さんも見たことがないくらい、
透明感の高い翡翠だったということである。
おそらく、とても希少貴重な鉱物標本である。
とてもテンションが上がったのだが、
私は冷静にこう思う。
あの日、「メノウですね」と言われて、
そのまま持ち前のアピールを発動させず帰っていたら、
この石はメノウとして存在することになり、
このnoteにこのように登場することもなかったのである。

そう考えると、アピールの重要性を痛感する。
これから鑑定に出すみんなも
素人だからといって黙らなくてもいいかもよ。
もっとアピールしてもいいかもよ。
鑑定結果が変わることもあるかもよ。知らんけど。

ガラスみたいな透明の翡翠。見えづらいが奥にオンファス輝石が付着している。


午後から、歌へいく。
天気も良く、波もそれなりにあり、
コンディションは悪くない。
先客もいる。

この日はあんまり良い成果が出なかった。
海とたわむれて一日が終わった。




5日目(歌・勝山・青海)


最終日である。
帰るのかと思うと寂しかった。
今回もあっという間だった。

お約束の歌へ。
疲れているのか、目が慣れてきたのかわからないのが、
石に簡単に手を伸ばさなくなった。
何度も拾って捨ててを繰り返しているうちに
絶対に違う石というのがわかってくるのである。

2時間ほど歩いたけれど、成果はなし。
波も穏やかで、昨日から
石たちがあんまり動いていないようだ。



最終日ということで、
行ったことのない海岸にも
チャンレンジすることにした。

車が停めづらい勝山海岸へ。
浜までの階段が異常に長くて膝が踊った。
成果は小さなメノウ一つだけ。
1時間ほどで退散。

その後、1時間ほど
ラーメンショップの裏にある青海海岸で過ごす。
でっかい白と緑の石を拾う。
石表面が風化した翡翠かと思ったが、
帰宅後、自分でいろいろ調べたら
ほぼロディン岩であることが判明した。
やはり、翡翠は難しい。



こうして、5日間の糸魚川遠征は無事に終了。
北陸道に乗って帰路につく。夏にまた来よう。
早くも次回のことを考え始める私であった。

名立谷浜SAで、お土産を買って帰京。


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[翡翠を探す旅シリーズ]

第1章
ヒスイ海岸で見つけたもの、大公開! (翡翠を探す旅)
https://note.com/tagoline/n/n32a245817a84

第2章
ついに出会えた。(翡翠を探す旅part2)
https://note.com/tagoline/n/n21cbba0853b7



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