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人生とは「直前」である。


「忘れられない夜」を、
あなたは持っていますか。

ぼくには、何十年経っても
心にこびついて離れない夜があります。

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時は1999年1月のとある夜。
インド放浪旅の出発前夜でした。

荷造りは既に済んでいて、
あとは寝るだけでした。

でも、全く眠れませんでした。
リュックひとつで知らない国に旅立つ
緊張感と高揚感に包まれていたのです。

当時、旅の苛酷さから、
多くのバックパッカーから
避けられていた国がインドでした。

「インドを旅できる人は
世界中どこでも旅できる」
なんてささやかれていたほどです。

そんな土地にたった一人で乗り込んで、
大陸をまるっと1周して、
陸路で国境を越えてネパールに入国なんて
ぼくは目論んでいたわけでして。

20年くらいしか生きていない
若者にとっては、それはそれは
壮大な計画だったのです。
なので、心臓はますますバクバクして
目は冴えていくばかり。

24時間後には、ほぼ確実に
恋い焦がれたあのインドの地に
自分は立っているのです。

「無理に寝るのはやめて、
このまま起きていよう」
そう決断するまでに
時間はかかりませんでした。

この胸の高鳴りをそのまま持って、
首都デリーに降り立ちたいと
思ったんですよね。

朝の出発まで何をして過ごそうかと
考えていた時に、一冊の
文庫本が目にとまりました。

沢木耕太郎氏さんの代表作「深夜特急」の
インド・ネパール編でした。
もともと旅先で読む予定だった、
未読のまま置いていた本です。

パラッをめくるだけのつもりが、
夢中になって読みふけってしまいました。
気がつけば窓から朝の光が
射し込んでいました。

「深夜特急」を手にとった瞬間、
ぼくの旅は始まったのかもしれません。

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そのインド放浪旅からかれこれ20年。
今でもその夜のことは、
はっきりと覚えています。

んでもって、
なぜこの記事を書こうと思ったのか。
それは、旅先の記憶よりも、
出発前夜の記憶の方が鮮明に
残っているのが不思議だったからです。

その違和感を、違和感のまま
ずっと放置してきたもので。

そして自分的に腹落ちしたのが以下です。


人は、目的地に到着した時ではなく、
到着するちょっと前あたりで
興奮がピークに達する。

例えば・・・

土日よりも金曜日の方が気分が良いと
思ったことはありませんか。

デートしている時より、デート直前の方が
ドキドキすると思いませんか。

小学校の遠足の日、
行きのバスで過ごす時間が、異常に
楽しくなかったですか。

それらすべてに共通するのは
「直前」なんですよね。

なるほど、そういうことか、と
勝手に納得して頭がすっきりしました。

何事においても、人間は、
「直前」にいる時が
一番人間らしいのではないでしょうか。

読んでもらえるだけで幸せ。スキしてくれたらもっと幸せ。