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十六島の展望台で出会った海苔漁師さんの話

もち海苔って知ってますか。
今日は島根県日本海へ尖ってせり出す端、十六島(うっぷるい)で偶然出会えた海苔漁師さんに聞いた話について書きます。

雲南の雑煮はもち雑煮。そこへ入れる用の海苔がある!

私は島根県雲南市に来るまでもち海苔って知らなかった。雲南のお雑煮は「もち雑煮」と言って、おもちに海苔を入れたものだそう。そこに入れる海苔は「もち海苔」と言われていて、それ用の海苔があるのだ。

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こっちに来てから知り合った方と、残りの期間で行った方が良いところとして「もち海苔が採れる十六島(うっぷるい)なんて面白いかも!」と教えてもらい、行ってみることに。それまで紙のような状態の海苔しか知らなかった私にとって、厚くて大きい鰹節のような状態の海苔がまず目新しい。それがどんなところになっているのかも気になるし、車で1時間のところに採れる場があるならと行かずにはいられず。調べると風力発電日本一!という言葉も目に留まり、まずは行ってみようと思ったのだった。


残りの雲南生活が短くなってきた最近は、せっかくなら日本海側も、と行ける範囲の海沿いに気づいたら向かう週末です


展望台で海苔漁師さんと出会う

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水が綺麗。(指が入っている、、)


漁港にいた近所の女性が、海苔ならもっと上だよ、天気がよいから人が出ているかもと教えてもらってさらに上へ。

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波の間に見える思ったより平らな岩と、そこに在る海苔が良く見える。そして冬は海苔の採取時期だから、釣り人が立ち入らないようにという看板も聞いていた通りでわくわく。下へと続く階段に興味をそそられつつも、これでちゃんと入らないでいる日本人って世界的に見たら当たり前ではないのだろうな~と思いながら通り過ぎる。

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綺麗な眺めと岩々の状態、海苔が生まれる場をこの目で見ることが出来て充実しつつも、あいにく人はいなかったため展望台に登って帰ることに。風力発電の風車の騒音について話では聞いていたけど実際こんな感じなのかとか、どれくらいの世帯を賄えているのだろうと考えながら見晴らしの良い景色を眺める。


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すると一人のおじいちゃんが斜面を耕していた。最初は地元の人はこんなところでも畑をするのかと思っていたら、植わっているのは若いツツジとアジサイ。挨拶をするとその方は地元の海苔漁師さんだそうで、ボランティアで草を刈り花を植えているとのこと。「せっかくここまで来た人が、草で見晴らしも悪く花一本もないんじゃ可哀そうでしょう。だからちょっとでもこうしてやってるんだ。」

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そのまま少し話していると、海苔と十六島のことを教えくださるということで、奥さんの待つお家へ行かせていただけることに!地元の方自らにお話を伺えるなんて本当に有難いと神様とお父さんに感謝しながら向かう。


見せてくれた車ですでにたくさんの情報量。採取に使う竹かごやそこにこびりついた海苔、小さなびく、手袋等、普段使っている道具で海苔漁がどんなものか、だんだんわかってきた。

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海苔漁のこと

お家は3階建て。外階段から入る2階は海苔の乾燥場で、すだれに広げた海苔を置く用の竹がずらーっと並ぶ。こうやって乾かしているのか。直射日光を当てると艶がなくなってしまうから、どの家も大なり小なり乾燥部屋を持っている。今は簾だけど、前は茅に載せて乾かしていたそうだ。

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上がりなさい、日本海が窓いっぱいに広がる居間へと案内してくださった。突然の訪問にも関わらず優しくいらっしゃいと言う奥さんに「ももかに似とったけん!」お父さんが説明していて、おそらくお孫さんであろうももかさんに勝手に親近感。せっかく海苔漁を見にきたのに何もないのではもったいないから、と漁の写真を見せてくれた。


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なんか、もう、かっこいい。海苔漁は冬の寒い時期だから、きっとこの作業もものすごく寒い中に違いない。崖の上から見た岩と、お父さんの道具、海苔が繋がる。

お二人とも十六島で生まれ育ち、家が海苔漁師だったため小学生の頃から休みの日は手伝っていたそう。それぞれの家もしくは数軒ごとに島(=岩)を持っていて、皆そこだけしか足を踏み入れないらしい。海苔がならない時期に岩を平らにしたりして、冬の時期に収穫。少し乾いた状態で採るため、波のない穏やかな日に漁をする。波があると滑るし逃げられないしすごく危ないらしい、命懸けだ。こたつから見える海の様子を見て、毎日判断するとのこと。毎日自然と対話してるんだなぁ。

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コーヒーを淹れてくれながら、小皿で出してくださったのは大きな海苔!

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下で作ったやつそのままだけん、と嬉しそうに説明するお父さん。ものすごくおいしい。薄いぱりぱりした音じゃない。サクサクって噛み応えがあって香りがあって、海苔ってこんなにおいしいものなのかと冗談抜きに思った。

JAに卸すだけでなくて、直接料亭などにも卸しているそう。小学生のころから登っている自分の岩のことは全て知り尽くしていると言う二人だからこそ、最近は暖冬で採れる量が少なくなっていると言う言葉には説得力がある。

十六島に人が来てほしいというお父さんの想いと草刈り

そんなお父さん「とにかく十六島に人が来て賑やかになってほしいんだが。」(~が。で終わるのは出雲弁。逆説ではない)と言っていて、それが原動力で溢れるアイデアがいっぱいだった。
自分で草を刈って花を植えているのもそう。数年前に来訪者から「ここは風車はあっても他は何もないんですね」と言われ、「花の一本でも植えとくけんまた来てね」って言ったことが始まりだったらしい。いつどれくらいの人が来るか分からない中、外から来たその人のたった一言をきっかけに、次来る人が少しでも嬉しいようにと黙々と一人草を刈る。来た人にとっては誰がやっているかもわからない、気にも留めないことかもしれないのに、自分に出来ることを考えて動いていることに、尊敬と、なんでか切なさと、応援の気持ちでいっぱいになった。

「よく周りは儲ける仕組みを先に造ろうとするけど、人がいないこういう場所こそそれだけじゃない。内側の人が、来た人の気持ちを想像して、また来たいと喜んでもらうためにはどうするのか?をまず考えないといけないというのが自分の意見。」

お父さんは、海苔漁の体験ツアーなんかもしたら良いのでは等も考えているそうなのだが、他の人は「そんな寒いときに人が来るわけがない」と話を聴こうともしてくれないらしい。「自分だけの儲け」を目的にするから、大事な岩を絶対に開かない。「町全体に人が来ること」を目的にするから自分の岩を開きたい、という違いが明確で、持続可能であるためにはやっぱり開かれている必要があるんだ、とここでも思った。山間で本当に危機的なところの方が、生き残っていけないからと保守を脱してオープンになるのは他でも聞いたことがある。それと一緒だと思った。

そうではない人もいるかもしれないけど、と前置きをして「自分がこう考えるのも残したい岩を自分で持っているからかもしれん」と。自分の会社を継いだ2代目30代の人たちが、生き残るために自然に循環とか持続可能であることを考えていることと共通するのかな。


お父さんの話を聴いて

とにかくどんなアイデアでもまずは聴いてほしい、と言っていた。
ここから私が思ったことは
・誰かのアイデアは、どんなに些細なものだったとしても絶対に真剣に聞く。
・理想は考える、でも言うだけでなくて自分に出来ることを必ずやる。
・それも、大それたことでなくてもどこかしらで自分との繋がりを見つけて行動する。
あとは、「~しなきゃいけない、で考えちゃだめだよ」とも言われた。~したい、で考えなきゃって。


読んでくださっている皆さん、十六島にはそうやって動いているお父さんがいます。誰か来ることを楽しみに、その時のために草を刈って花を植えている、丘の上では花咲かじいさん。岩の上では海苔漁師。出雲に来た際にはぜひ立ち寄ってみてほしいです。
たぶん展望台の景色も違って見えるはず。

次は、着替えを持って草刈り手伝いに行こうかな。


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