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彫る人~夫による仏像彫刻の「あゆみ」

夫が仏像を彫るようになって、かれこれ8年ほど経つだろうか。
そのきっかけは、今でもよく覚えている。

8年前の4月。
何気なく、高野山にある仏具店に入り、私はそこに置かれた仏像を眺めていた。

子供の頃から、よく寺参りに行っていた私は、仏像が好きだった。
またその頃、先祖供養のため、自宅に仏壇を置きたいと考えていた。

「仏像って良いよなぁ…。でも高いよなぁ」

展示されていた仏像は、安い機械彫りでも数万円。
大きいもの、かつ手彫りになると、ゆうに100万円を超える。

私がぽつりと言ったひとことを、夫は聞き逃さなかったらしい。

「ほな、俺が彫るわ」

「いや無理やろ。だいたい、彫刻やったことあるん?」

「ない。でもやればできるはずや」

夫がそう言ったのは、冗談ではなかったらしい。

その後。
夫はまず、初心者向けの仏像彫刻の本と、小学生が使うような彫刻刀のセットを買った。

そんな夫が、試行錯誤しながら初めて彫ったのが、こちら。

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「彫ってるうちに、木が崩れてくるねん」

言いながら、夫は苦労して1体目となるお地蔵さんを完成させた。

これを見た私は、

「ガチな仏像を彫るのは、多分無理やな」

と思ったのだ。

この頃、もう少し本格的な仏像彫刻の本も買っていた。
その本には、阿弥陀如来立像の彫り方が解説されていたが、このお地蔵さんを見る限り、夫には絶対に無理だと思っていた。

それでも夫は、彫刻をやめなかった。

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本を見ながら、木目の見方を覚え、少しずつ彫り進めていた。
こちらは、5体目くらいのお地蔵さん。
1体目よりも、だいぶ「それらしく」なっている。

平成26年の2月には、夫は彫刻教室に入会した。
独学では、限界があると思ったのだろう。

教室は、月に3回。
生徒さんは60代~80代の方が多く、だいたい10人前後。
朝9時から夕方4時まで、みっちりと先生の指導を受けていた。

ちなみに当時40代半ばだった夫は、生徒の中では最年少だったらしい。

さて、教室に通い始め、夫の彫刻の腕はめきめき上がった。

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初めは「仏頭」や「仏手」など、パーツから練習を始めるらしい。
これは、観音仏頭。

しかし夫は、この仏頭を完成させると、すぐさま「坐像」に取り掛かった。
せっかちな人だ。

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7年前の4月、教室に通い始めて3か月目の作。
釈迦如来三寸坐像。

三寸は、だいたい10センチくらい。
小さな仏像である。

それにしても…
前年、初めて彫ったお地蔵さんと比べると、こちらは「きちんとした仏像」に仕上がっている。

私は内心、舌を巻いた。

夫は、仕事が終わって夕食を摂ると、すぐに彫刻に取り掛かっていた。
それも、毎晩。

「Nさんは上達が早いですなぁ」

先生もびっくりしていた。

何かにとりつかれたように、夫は彫刻に熱中していた。
それに比例して、道具も増えていった。

彫刻刀はもちろん、ノミや砥石、さらには糸のこ盤などの電動工具まで。
電動工具になると、高価なものもあったが、私は何も言わなかった。

5年前、私は子宮頚部高度異形成(子宮頸がんの一歩手前)で、入院・手術をすることが決まった。

その時夫は、小さなお地蔵さんを彫ってくれた。

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裏には、夫が祈願を書いてくれた。

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「当病平癒」の文字と、私の名前を。

私は入院する時、このお地蔵さんを枕元に置いていた。

「うわぁ、かわいいですねぇ」

かくして、このお地蔵さんは看護師さんたちの人気者になったのである。

その間も、夫は相変わらず彫刻に集中していた。

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4年ほど前から、依頼を受けて彫ることも多くなった。
こちらは、知人に頼まれて彫った地蔵菩薩6寸立像。

もうすっかり、ガチな仏像である。
この地蔵菩薩像は、納品させたくなかった。
手元に置いておきたかった。

顔が、素晴らしい出来だったからだ。
惜しみながら送り出したのを、今でも覚えている。

そして、とうとう。
夫はとんでもない仏像を完成させたのである。

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十一面千手観音菩薩一尺坐像。

完成まで、実に1年半。
何度も失敗しながら、夫はこれを完成させた。

この仏像に取り掛かった年の5月、奈良国立博物館で開催されていた「快慶展」に2度行った。
夫はこの時に見た、快慶作の千手観音菩薩に魅入られたようで…

「俺も彫る」

「いや無理やろ」

「いや、絶対に彫る」

と言って、本当に彫ってしまった。

ここまでくれば「凄まじい」のひと言しか、ない。

現在は、コロナの影響などもあり、教室には行っていない。
しかし夫は、こつこつと彫刻を続けている。

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今彫っているのは、父の知人から依頼を受けた「文殊菩薩坐像」。

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獅子に乗った仏様である。

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こちらは、少し前に完成した普賢菩薩三寸坐像。
これも依頼を受けた作品。

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「合掌の手が難しい」

と言いながら、夫は彫っていた。


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普賢菩薩は、象に乗った姿が特徴である。

夫は、今でも時々言う。

「もう一回、千手観音を彫ってみたい。今やったら、もっとうまく彫れると思う」

…と。

「やればできる」「努力に勝る天才なし」

これが、夫の座右の銘である。

初めて彫った、あのお地蔵さんから8年。
今後、夫がどのような仏像を彫るのか、とても楽しみにしている。

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