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#短編小説

備える

備える

夏休みは暇な昼間をいかに充実させるかを考える。もしくは、わたしたち学生に苦痛を味わうために大人が用意した試練なのか。

夏は虫との闘いだと思っている。
痒い、うるさい、目障り。常に気にする必要がある。
なんで太ももの血を吸うのだ…。

わたしがスカートをたぐってボリボリと肌を掻きむしっていると、傍らでミシンで服を直してる母が、
「女の子なんだからそんなカッコウで。」
とため息とも捨て台詞ともとれる

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綴る

綴る

5月11日 日曜日

 姉さんの出産お祝いを見繕いましょうと、かあさんとデパアトへ出かけた。
 デパアトにはおしゃれ着がたくさんならんでいて嬉しくなる。商店街の洋品屋さんではこうはいかないわね。マア、と声が出ちゃうくらいぱっとしていて、すてきな色ばかりなんだもの。鏡に映った私のスカートがみすぼらしく見えちゃって、かなしくなった。
 そういえば、出口のところでとなりの席のしず江さんを見かけたのだけれ

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迷妄する

迷妄する

428 (渋谷)
724106 (なにしてる?)

同僚から飲みの誘いかぁ…。

今日は会社帰りに新しいウォークマンの再生時間延長と音質向上を試しながら買い物をする。色もオヤジ臭い色今までのものから明るい色になったので、少し見せびらかすつもりで、カバンから入れたり出したり。駅ビルの洋品店や雑貨屋を覗いて、西友で食品を買って家に戻ったところだった。

家に戻ってもまだ音楽は鳴り続けている。
わたしが

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収める

収める

扉の小窓を覗くと、丁度彼は「キチント」に没頭しているところであった。

「キチント」というのは、彼の毎日の整理整頓作業のことだ。研究室の隅から隅までを、毎朝9時からきっかり1時間かけて整える。

毎日の事だから整える部分など殆どないのに、誰がなんと言おうと、同じ工程で、同じ場所を、同じやり方で整える。机の端から10cmのところに並べた3本の鉛筆の長さ、ブラインドの角度、飛び出たティッシュの向き——

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