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お話

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2022年5月の記事一覧

敬う

敬う

これは中国の山奥にかつて存在していたある部族の話である。

彼らは約150人ほどのコミュニティを形成していた。猪をはじめとする獣をタンパク源とし、農作物の栽培も行っていた。特徴的なのは樹皮を煮炊きした汁で作る粥。生活環境の一部を身体に取り入れることで、精神的エネルギーを循環させることが出来るという考えだ。

この部族には、さらに特筆すべき興味深い文化がある。

こちらをご覧いただきたい。
一体何に

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粧す

粧す

奥羽本線を北へとすすむ。

山の間をどじょうのように這う線路。
両脇には田園と民家。
いかにも田舎の景色という感じがする。

目的の駅で降り、40分待ってようやくバスが来た。
扉の前で待っていたら、運転手のおっちゃんがガラス越しに指で合図してきた。あ、後ろから乗るのか。数字の書いてある券を取れと言われる。どうやら前方にある料金表と照らし合わせて乗車料金を支払うらしい。しばらくして、予告も無しに金額

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ほどける

ほどける

遺品整理で骨董の引き取りを頼まれた。

故人は美術教師をしていたとのことで、書斎の本棚には美術と歴史に関する分厚い専門書がぎっしりと詰まっていた。

骨董の方も中々の名品揃い。依頼主である奥様は懐かしさと哀しさの入り混じった表情で「よく分からないものばかり集めて…」と呟いていたが、しっかりと見定めて選んでいたことが伺える。蓄積した知識を物体に変換することが彼の愉しみだったのかもしれない。

押入れ

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前進する

前進する

教師とは生徒から教わる生き物らしい。
教育実習を経て知らぬ土地の教師として赴任してもう6年が経った。早いものでもう2周目が完了した。

教わる前に襲われているような感覚だった。
しかも、それぞれまったく違う経験だった。

以前の3年間は無反応・無関心。豆腐に鎹。糠に釘。
自分が正しいのか哲学と禅問答の日々。周りの先生からも親御さんから不満がなければそれが教師・公務員としてはベストなんだと励まされる

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おきかえる

おきかえる

この街ともお別れしないといけない日がやってきた。
困ったなぁ。そんなつもりじゃなかったのになぁ。

ある日私は、同棲していた彼から突然別れを告げられた。
根っからの粗忽者の私は、自分の落ち度を探すことすらしなくなっていたが、このときばかりは自分の非について考えた。
見つからなかった。

自分が粗忽な性格ゆえ、人を責めることをしてこなかったので、このときも問い詰め方を忘れていたように、
「そか」とし

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