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おきかえる

この街ともお別れしないといけない日がやってきた。
困ったなぁ。そんなつもりじゃなかったのになぁ。


ある日私は、同棲していた彼から突然別れを告げられた。
根っからの粗忽者の私は、自分の落ち度を探すことすらしなくなっていたが、このときばかりは自分の非について考えた。
見つからなかった。

自分が粗忽な性格ゆえ、人を責めることをしてこなかったので、このときも問い詰め方を忘れていたように、
「そか」としか言えなかった。

今思うとこういう急な”お別れ”は別に女ができたときであると、高校生からの親友に教わった。わたしもその時は納得して話を聞いていたが、いざ自分に番が回ってくると、そのことに頭がいかなかった。

悲しい気持ちもあるが致し方ない。私の良くない部分もあったのだろう。
どうせ悲観の果に自分を追い込んでも、死ぬという選択をすることもないだろうし、前向きな気持ちで新しい住まいを探すことにした。


わたしと同じで、背中がイケてる。


私の軍資金で都会で生活しようとすると、小鳥の巣箱しか見つからないのは最初からわかっていた。
それでもいいと思う。生活は工夫で愉しむものだとモノの本にも書いていた。
工夫かぁ。なにから工夫したらいいのかわからないくらい工夫のしがいのある家だ。なんだか気に入ってきた。

こんな私を慰めに近所の神社で絵馬でも貰って、当てつけのように部屋の真ん中に神々しく飾ろうか。
それとも可憐な一輪の茎の細い白い花でも飾ろうか。
いやいやこの部屋の工夫は飾り立てることではなさそうだ。
窓もないのだ。窓のない都会の鳥小屋。

わたしの気分一つで様々なものにおきかわる。

そんな都合の良いものは長い歴史の中で誰かがきっとこしらえているはず。「この世の片隅に」が見たくなった。


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