ウルブズ対リバプール__1

ヌーノの導き出した5-2-1-2を読み解く。鍵は第一印象?~ウルブズ対リバプール レビュー~[19-20 Premier League-24]

全文無料公開。面白いと感じていただければぜひ投げ銭200円お願いします。

3週連続プレミアリーグの試合となりますが、今回はウルブズ対リバプールを分析します。他リーグももちろん題材にする機会があれば良いのですが、第24節も非常に面白い試合でしたので、ぜひ興味深く読んでいただければと思います。

プレミアを独走する首位リバプールをホームのモリニュー・スタジアムに迎えたウルブズ。終盤のフィルミーノのゴールによって勝ち点を逃したものの、リバプールを大いに苦しめましたし、組織として非常に統率の取れた良い試合をしました。

もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

序章 スコア&スタメン

ウルブズ1-2リバプール
ウルブズ:54'ヒメネス
リバプール:8'ヘンダーソン 84'フィルミーノ

ウルブズ対リバプール  1

ウルブズは、ルイパトリシオ、サイス、コーディ、デンドンケル、ジョニー、モウティーニョ、ネベス、ドハティー、ネト、ヒメネス、トラオレの3-4-1-2。守備時はWBがDFラインに下がって5-2-1-2となります。
一方リバプールは、アリソン、アレクサンダー=アーノルド、ゴメス、ファンダイク、ロバートソン、オックスレイド=チェンバレン、ヘンダーソン、ワイナルドゥム、サラー、フィルミーノ、マネの11人で4-3-3。第1章で詳しく取り上げますが、守備時は4-4-2に可変していました。

第1章 リバプールに対するウルブズの5-2-1-2運用

まず取り上げるのはウルブズが守備、リバプール攻撃の局面です。

ウルブズはこの試合、リバプールを相手に5-2-1-2を採用しました。ヌーノ監督が準備していたリバプール対策をテーマに話を進めていきます。

ウルブズ対リバプール  2

ウルブズは敵陣でのプレッシングは行わず、自陣にブロックをセット。
リバプールは、右のWGサラー(11)はタッチラインに張る場面が多く、左のマネ(10)は内側に入ります。伴って右のアレクサンダー=アーノルド(66)は低い位置で、左のロバートソン(26)は高い位置に進出します。

ウルブズ対リバプール  3

ウルブズの採用した5-2-1-2システムですが、このシステムの弱点は明確。「サイド」です。中央はWBを除く3-2-1-2の並びなので計8人が配置されており、非常に固い。一方で中央に多くの人数を割いている分、サイドは大きなスペースがあります。WBの手前はガラ空きで、リバプールのSB(ロバートソン(26)、アレクサンダー=アーノルド(66))はフリーでボールを受けられる状況。5-3-2と違い、中盤が2+1なのでIHがおらず中盤からサイドに人を派遣することは出来ません。そのためWBしか基本的にサイドのスペースを埋めることは出来ないのですが、WBが前に出るとその背後のWGがフリーになってしまいます。
ここでウルブズの選べる選択肢は2つです。


①相手SBに対してWBを前に出し、フリーになるWGにはサイドCBがスライドしてマーク。どんどんボールサイドにマークをずらしていく方法。
②WBを前に出さず、相手SBにボールを持たれるのは容認。後ろを埋めることに徹する。

ウルブズが選択したのは完全に②でした。WBは特別な場合を除いて、CB→SBといったビルドアップの段階の一般的なショートパスが相手SBに入った場面では前に出ず、裏のスペースを埋めます。
もう一つの弱点については、後に詳しく触れます。

ウルブズ対リバプール  4

WBを前に出さず常にDFを5人並べ、下がりすぎることはなくとも低めのライン設定をして、DFライン裏のスペースを消します。極力後ろに5枚を残すことで、リバプールの攻撃の核となる「裏のスペースへの突撃」を封じ込むのが狙いでしょう。
この点では前々回で分析したトッテナム対リバプールの一戦でトッテナムを率いるモウリーニョの準備していた「リバプール対策」にも通ずるところがあります。あの試合でもラインを下げ、裏のスペースを没収することでリバプールの武器を奪う。使わせない。
そしてトッテナム同様、もしくはそれ以上に、この試合のウルブズは「裏のスペースのケア」に関しては好パフォーマンスを発揮していたと言えます。

ウルブズ対リバプール  5

リバプールの裏へのロングボールやスルーパスが配球されると、サイドCBがボールへアプローチし、その背中をリベロのコーディ(16)がカバーリング。チャレンジ&カバーが徹底されており、試合の中でチャレンジ&カバーのミスは全くありませんでした。このチャレンジ&カバーの徹底も、4バックだと中々難しくなります。例えば片方のCBがロングボールにアプローチした時に、もう片方のCBが必ずカバーリングできるような位置まで絞ろうとすると、一番重要な中央(ゴール前)をガラ空きにしてしまう。そうならないのが5バックの利点。リベロがカバーリングに入っても、もう一枚CBがいますし、その奥にはWBもいます。リベロ(コーディ)を置いて裏へのカバーリングを円滑にしたのです。
ではここからは、試合の中で起こった実際のシーンを用いながら、具体的に説明をしていきます。

ウルブズ対リバプール  6

一つ目のシーンは41分16秒。ヘンダーソン(14)からパスを受けたロバートソン(26)に対しては前述のようにフリーでボールを保持することを容認。右CHのネベス(8)は縦にランニングする動きを見せたワイナルドゥム(5)について行きつつ、自分のゾーンを離れたタイミングで後ろの右CB(32)デンドンケルへ受け渡して少しポジションを上げ、ライン間(MF-DFのライン間)にフィルターをかけるような立ち位置を取りました。ロバートソンはモウティーニョ(28)とネベスのCH同士の間(中央の門)が開いていたので、そこに顔を出した南野(18)へパス。しかし、絞った左CHモウティーニョがパスを受けた南野からボールを奪い、トップ下のネト(7)を起点に最前線のトラオレ(37)へ。奪ってからスムーズにカウンターへ持ち込むことに成功しました。
このシーン、前段階で中盤の真ん中でボールを回すリバプールに対してウルブズは2CHがプッシュアップしてプレッシャーをかけ、サイドに追いやりました。このサイドへ追いやる守備は良かったのですが、中央からサイドへボールが動いた時に、2人で横幅をカバーするためどうしてもスライドが追いつかず、中央の門が開く。それでも、きっちり逆側CHのモウティーニョが絞る努力をしたことでボール奪取に繋がりました。ネベスの、自分のゾーンから飛び出していく相手選手を追い、受け渡してからポジションを取り直す動きも良く、奪った後にネトを経由して最前線にボールを運んでカウンターを仕掛けたところまで含めて非常にうまく守備→ポジトラが行えたシーンでした。

ウルブズ対リバプール  8

二つ目は52分36秒のシーン。右SBのアレクサンダー=アーノルド(66)から左SBのロバートソン(26)に大きなサイドチェンジが通ります。2CH(ネベス(8)、モウティーニョ(28))は左サイドに絞っていたのでその右脇はガラ空き。そのためWBドハティー(2)が縦スライドをして対応します。それによって縦は消せましたがロバートソンは内側へドリブルし、ドハティーがついていくものの中央の門を通されてしまいます。しかし、ロバートソンからパスを受けたフィルミーノ(9)の南野(18)へのヒールパスを左CBサイス(27)が潰し、ボール奪取。
このシーンでは41分16秒のシーンとは違い、サイドにスライドすることで空くCH同士の中央の門にパスを通されています。しかし、大胆に横幅を使う展開に対して2CHはしっかりスライドしていますし、ネベスに関しては41分16秒と同じように、前へランニングしたワイナルドゥム(5)を追跡してパスが出ないようにケア。自分のゾーンから離れたらCBに受け渡し、そこから元のポジションへ戻るという気の利く対応を見せています。また、トップ下のネト(7)も、ボールの動きに合わせて献身的に右サイドへスライドしており、ロバートソンが少しでも持ち過ぎていたらドハティーとのダブルアタック(二人でボールを奪いに行くアクション)をして奪っていたでしょう。
このシーンのようにMFラインは2CHが2人だけで横幅をカバーするため、ライン間に入ってくるボールに対しては2CHがフィルターをかけますが、どうしても2人ではケアしきれない部分があります。それが5-2-1-2の「もう一つの弱点」。そこで崩れないように組み立てられているのがウルブズの守備。その時に備えて3CBは常にライン間に入ってくるボールを狙っているのです。これも5バックをチョイスしている利点の一つで、誰かが前に出てもまだ4人が残っている。このシーンでもその利点が効果を発揮し、中央の門を通ったボールに対してサイスが迎撃。
サイドチェンジされてからのWBドハティーのプッシュアップによる保持者の管理、ネトの献身的な戻り、2CHのそれぞれのタスクをこなしながら中央の門を閉めに行く努力。そして中央の門を通られた時のCB迎撃オプション。5-2-1-2である以上、「2」が左右に振られた時に中央の門が開くことはそれなりに想定されますから、その点への対処が出来ていますし良い守備が出来ていたと思います。

ウルブズ対リバプール  7

最後に三つ目は62分41秒のシーン。
前段階として、ゾーン1からビルドアップを行い、コーディ(16)のドハティー(2)への浮き球で前に出ていた相手左SHオックスレイド=チェンバレン(15)の背後を使い、相手がスライドしてきたのでショートパスで逆サイド(左→右)へ展開。フリーで受けたサイス(27)から裏へ抜けたヒメネス(9)へのパスが右CBゴメス(12)にカットされ、そこからネガティブトランジションになります。ヘンダーソン(14)が左のロバートソン(26)へサイドチェンジを送り、そこにネト(7)が下がりながら対応。ロバートソンからライン間のオックスレイド=チェンバレンにパスが入ったところで左CHモウティーニョ(28)と前に出た右CBデンドンケル(32)でダブルアタック。ボールを奪いました。
このシーン、ボールを失った後でも素早くWBジョニー(19)、ドハティーはサイドのスペースを埋め、5人が並ぶ状態を作り出しています。そしてロバートソンからライン間へのパスにフィルターをかけきれなかったものの、ネベスは気を利かせてヘンダーソンがボールを持った時に、近くのワイナルドゥムを少し前に出てマークし、ショートパスの選択肢を消してから下がる。モウティーニョもしっかりボールサイドに向かって絞っていたので、中央の門を通られても、迎撃するデンドンケルとのダブルアタックによるボール奪取につながりました。カウンターアタックを仕掛けることは出来なかったものの、このシーンも一人ひとりの献身性とチームで守る、対応する組織性が見て取れます。
中央の門を通されてはいるものの、カウンターに対して冷静に対処できていたと言えるシーンでした。

第2章 リバプールを苦労させた理由を考察

第1章では実際のシーンを用いてウルブズの準備していた5-2-1-2を使ったリバプール対策を分析しました。この第2章では、その対策がリバプールに対してどう効果を発揮していたのかについて書いていきます。
結論から言うと、ウルブズはリバプールの攻撃を、「ほぼ封じ込めました」。終盤に逆転ゴールを流れの中から決められてしまったので、「完全に」封じ込むとまではいきませんでしたが、今シーズン一番リバプールが攻めあぐねたと言っても良いのではないかと思います。
その理由は、「序盤」にあったのではないかと僕は考えます。というのも、いくら裏のスペースを消されたと言っても何とかして崩してきたのがリバプールです。それは単純な戦力だけを見ればウルブズよりも大きく上回るトッテナム戦でもそうでした。リバプールはトッテナムの部分的マンツーを使う4-4-2の弱点を突いて崩すシーンなど、DFライン裏を突くシーンを作っています。
つまり、どれだけ対策をしても、対策だけではこじ開けられてしまうのです。そこには選手の質(技術、知能レベルの高さ)などが影響しているでしょう。この部分について詳細な説明は今回はしませんが、それぐらいチームとして成熟されています。だからこそ今季のプレミアを独走しているわけで。
そこで大事なのが「序盤」だと思います。序盤は、相手の戦い方を探る段階であり、「今日の相手のイメージ」を序盤で形成するからです。その序盤で、ウルブズはしっかりと守備を行いました。技術ミスでチャンスを与えることは無く、失点しているもののそれはセットプレー。「裏のスペースを消す」を主軸に置いたリバプール対策の破綻が早い段階で表面化したわけではないのです。序盤に裏のスペースを徹底して消せたことによって、リバプールは「今日は裏を使うの難しそう」という第一印象を抱いたのかもしれません。もちろん序盤の後もウルブズは非常に良い対応をしていたのですが、序盤(大きな括りで言うと前半45分)の守備でリバプール に実際以上に「難しい」という印象を与えたからこそ、ラスト10分まで全くと言っていいほどリバプールはウルブズの守備組織を崩せなかったのだ、というのが僕の意見です。
そのためか、リバプールは後半の頭から攻撃時のシステムを4-2-3-1に変更するもののその変更によるプラス効果はほとんど表現されず、反対に裏へのボールは前半以上に配球されなくなりました。もちろんリバプール側にも原因はあります。南野とオックスレイド=チェンバレンは裏に飛び出すタイミングがあまり良くない場面が多く、保持者とのタイミングを合わせられていませんでした。
これらの要素が融合し、リバプールは足元、足元、足元、というようにDFライン裏に目線が行かなくなり、各駅停車のパスが続く悪循環に。リバプールでは考えられない光景だったのではないでしょうか。
しかし、絶対に忘れてはならないのは「結果」。81分30秒に、この試合で初めてビルドアップから裏を使って二次攻撃を成功させたシーンだと記憶していますが、CBゴメスから左奥のスペースへロングボールが出て、それにロバートソンが反応。2ndボールをフィルミーノが拾ってワイナルドゥムからのリターンを受け、エリア内に侵入してフィニッシュ。やっとのことで81分にリバプールのやりたい攻撃ができ、直後の84分に逆転ゴール。このゴールもスローインをエリア内に入れて、サラーのドリブルによって生じた2ndボールを押し上げたヘンダーソンが拾ってフィルミーノへ。フィルミーノの左足一閃、というゴールですから、ラスト10分を切ってからは自分達の攻撃を表現したのです。これもリバプールの底力と言うべきなのか、最後の最後で対策を破られてしまったものの、ウルブズは本当に素晴らしいパフォーマンスを披露しました。

終章 総括

第1章
・ウルブズは5-2-1-2。
・相手SBがフリーになるのは容認し、極力WBは前に出ず最終ラインは常に5人並んでいる状態を保つ。
・裏へのボールに対してはチャレンジ&カバーを徹底。リベロのコーディがサイドCBの背後をケアする。
・MFラインは横幅を2人でカバーしているため、サイドにスライドした時にどうしてもCH同士の中央の門は開いてしまうことがある。
→しかし、それを埋める努力は決して怠っておらず、ネベスとモウティーニョはしっかり仕事をこなした。
・ネベスは、縦に走るワイナルドゥムについていってそこへの選択肢を消してからポジションを取り直す、という気の利いたプレーを見せた。
・ネトは押し込まれた時には深い位置まで下がって5+2の2ラインをサポート。奪ったらカウンターの起点になる。
・中央の門を通られることはある程度想定可能。門を通ってライン間に入ってきたボールには3CBの誰かが迎撃。
第2章
・ウルブズはリバプールに今季最大レベルの苦労を強いた。
・その鍵は「序盤」。
・序盤にミスなく徹底して裏を消せたので、リバプールに「今日は裏使うの難しそう」というイメージを与えたのでは?
・結果、リバプールは特に後半、ほとんど裏へのボールが配球されず、足元ばかりな目線の上がらない攻撃が多かった。
→しかし、終盤にやりたい攻撃を表現。強さを見せた。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

ここから先は

122字

¥ 200

この記事が参加している募集

noteのつづけ方

ご支援いただいたお金は、サッカー監督になるための勉強費に使わせていただきます。