二つの大冒険。カオスの中で奇跡は起きた ~アヤックス対トッテナム レポート~[18-19CL 2ndLeg]
チャンピオンズリーグの準決勝、決勝の地、マドリ―のワンダ・メトロポリターノへの切符を勝ち取るための2ndLegです。1stLegは、ファン・デ・ベークのゴールでアウェーのヤング・アヤックスが0-1勝利。それを踏まえてのアムステルダムに位置するヨハン・クライフアレーナでのゲームです。
ホームのアヤックスは、サポーターの素晴らしいサポートに後押しされ、優勝で歴史的なストーリーを完結させようとしますが、なんとアウェーのトッテナムがルーカスのハットトリックで90+6分に大逆転。前日に一足早くこちらも大逆転で決勝進出を決めたリバプールとの決勝への切符をゲット。イングランド対決の決勝となりました。
もしこの記事を気に入っていただけたら、僕のnoteのフォロー、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。
1stLegのレポートはこちら↓
18-19CL分析マガジンはこちら↓決勝進出を決めたリバプールも取り上げています。
スコア アヤックス 2 : 3 トッテナム
アヤックス 5’デ・リフト 35’ジエフ
トッテナム 55’ルーカス 59’ルーカス 90+6’ルーカス
スターティングメンバー
アヤックスの方は、直前のKNVBカップのヴィレム戦からは、ニッセン、フンテラールに代わり、シェーネ、ドルベリがスタメン起用。なお、ネレスが本当は先発する予定だったのですが、直前のアクシデントで急遽スタメンからの出場となった、というのがドルベリのスタメン起用の経緯です。
トッテナムの方は、ソン、フォイスの二人が退場した直前のアウェー・ボーンマス戦からは、サンチェス、ダイアーがスタメンから外れ、ヴェルトンゲン、ワニャマがスタートからプレー。また、サンチェスは負傷でスタンド観戦。
アヤックス・守備 トッテナム・攻撃 ~攻撃戦術は任意のカオス~
では試合の分析をしていきます。
最初は、アヤックスの守備、トッテナムの攻撃から。
トッテナムのルーカスとアリが並んだ4-4-2、アヤックスの4-2-3-1をそのまま嚙み合わせると、上図のようになります。
まずはこの4-4-2対4-2-3-1における、アヤックスのプレッシングプランを見ていきます。
この図のように、右SHのジエフが前に出て相手左CBにプレッシャーをかけます。ということは、右サイド(トッテナムの左サイド)は捨てる、ということです。なぜなら、相手左SBをフリーにするわけですから。
ですが、しっかり直進で左CBにプレッシャーをかけるのではなく、回り込む形のバックマークプレスで、左SBの方を消すようにしてプレッシャーをかけますし、チームとしてもとても強度の高い超攻撃的プレッシングをかけ、左SBにパスを出す余裕を与えない。
この超攻撃的プレッシングでハメ込み、トッテナムを左サイド(トッテナムの右サイド)に追い込む、というのがアヤックスのプレッシングプランでした。
しかし、この試合のトッテナムのシステムといったら、数字で表せるようなものでありませんでしたので、アヤックスもかなり苦しみました。
それがこちら↓
はい、ものすごいことになっております。4-4-2なんてあったもんじゃないですね。実は、「これ」といった決まった配置は無く、局面ごとに選手のポジションが変わります。CFのアリが下りてくることもあるし、ワニャマが左SB-左CB間に下りたり、SBが両方高い位置にいることもある。つまり、カオスです。グルグルグルグルポジションを動かして、入れ替えます。
それによって何をポチェッティーノ監督は狙っていたのか。僕の考えた解答はこちらです↓
はい、このように、4-4-2を崩しに崩してポジションを動かして、不規則な、ランダムなポジショニングを選手がすることで、相手のマークをかく乱することができます。
アヤックスからすれば、相手が4-2-3-1の場合にも、ダイヤモンド型4-4-2の場合にも、4-3-3の場合にも対応しなくてはならないようなことになるわけです。しかもそれが時間帯ごとではなく、ランダムなので、4-2-3-1に対応して、次は4-3-3に対応して、もう一回4-2-3-1に対応する、というようなことになります。それはいくら選手の戦術理解度が高くても、無理です。
配置を常に変えて相手のマークをかく乱して、プレッシングをハメることを困難にさせ、マークをずらしてフリーの選手を作り出し、その選手を使ってプレッシングを突破し、分断して速攻に移行する。
この攻撃戦術によって、絶え間ないアヤックスのプレッシングを突破して、ライン間に進入してチャンスを作り、アヤックスを押し下げるシーンを多く作ることができていました。
これがポチェッティーノ監督の「任意のカオス化」の狙いだったのかな、と思います。
また、上図のように、身長が172cmと小柄のCFルーカスが意外と結構空中戦に強いので、ルーカスにロングボールを蹴って、ルーカスが競り勝ってこぼれを拾って速攻に移行する、というシーンも多く見られました。
アヤックスは、明らかに予想を裏切られたはずです。それでも無理矢理ハメ込んで奪う事ができたシーンも何度かあったことはあったのですが、守備が機能不全に陥り、プレッシングを突破されて何度も自陣側ゴールに向かって30-40m戻らされることになっていました。
アヤックス・攻撃 トッテナム・守備 ~「任意のカオス化」の副作用~
では次にアヤックスの攻撃、トッテナムの守備について書いて行きます。
最初にトッテナムの守備戦術について。
トッテナムは、攻撃時には2トップになったルーカスをアリが縦関係となり、4-2-3-1で強度の高い攻撃的プレッシング。トップ下のアリがアヤックスの攻撃のキーマンである相手ボランチのデ・ヨングをマンマーク。そして、左ボランチのワニャマが、右ボランチのシェーネを見る形。ヴェルトンゲン、アルデルヴァイレルドの2CBは、相手のCF、トップ下にマンツーマン方式で食いつき、潰しに行きます。
ですが、前章で分析した、トッテナムの攻撃戦術「任意のカオス化」の副作用が守備に影響していました。
攻撃時の配置がカオスなので、守備になった時に4-4-2の配置が整わず、アンバランスになっていたり、
前線の選手が自分の担当ではない選手にプレッシャーをかけに行くシーンがあったので、この図で言うとワニャマ一人が自分の担当のシェーネとソンが見るはずのマズラウイの二人を見なければならない状況になって、中途半端になって両方見れず、プレッシングを交わされて速攻を受ける、というようなシーンがありました。
トッテナムの守備の方は、相手の攻撃戦術というより、攻撃時の副作用も含めて、自滅したニュアンスの方が強く、それによってプレッシングを交わされてライン間に進入され、抜群のコンビネーションからチャンスを作られ、アヤックスと同じように前がかりに行った後に30-40m戻る必要が生じていました。
なので、どちらのチームが守備をしても展開としては同じで、攻撃側が相手のハイプレスを交わして分断し、ライン間に進入して速攻を仕掛ける、という展開でした。
後半の攻防 ~2種目の攻撃戦術&アヤックスの決断~
後半にトッテナムの戦術変更が見られたので、後半の展開についてこの章では書いて行きたいと思います。
では早速トッテナムの戦術変更について。
前半の終盤に足を痛めていたワニャマに代わって、後半の頭からF・ジョレンテが投入され、4-4-2は変わりませんが、アリとF・ジョレンテの2トップ、右SHルーカス、エリクセンとシソコの2ボランチとなりました。
そして、前半は「任意のカオス化」を遂行していたわけですが、後半は、たまにポジションチェンジがありましたが、ある程度ポジションは固定されました。右サイドはSBトリッピアーが高い位置を取り、SHルーカスがIRにポジショニングします。左サイドは、SBローズが中盤に入って、偽SBとなり、SHソンが大外レーンに張ります。
ローズが偽SBとなることで、相手SHを内側に引っ張り、CBからSHソンへのパスコースを空けていました。
では次にその狙いについて。
左サイドでは、ローズを内側に組み込むことで大外レーンでソンをあえて孤立させ、ソンのドリブルでの突破力を生かし、右サイドは、トリッピアーを高い位置に上げることでクロスを生かし、ルーカスは彼のドリブル突破ではなく、ゴールに近いポジションでプレーさせて、最近好調の得点力を活用しよう、と考えたのかな、と思います。
前半の任意のカオス化で点が取れなかったことが、3点が必要であることが、後半に向かっていくにあたって、ポチェッティーノに戦術変更の決断をさせたのかもしれません。このままで3点は無理だと。
そしてポチェッティーノは、カオスではなく、点を取るまでの道筋を明確にして、再現性高くチャンスを作り出すことを選択。
この戦術変更において、ワニャマのプレー続行がダメで、じゃあF・ジョレンテを入れよう、となって、ルーカスをSHにしよう、となったところで、前述のようにポチェッティーノ監督は、ルーカスをゴールに近いエリアでプレーさせました。この判断が、57年ぶりにCLの準決勝に到達したチームを、大逆転に導きます。
ルーカスがクロスを入れる側ではなく、クロスを受ける側になったことで、59分の2点目はGKオナナのセーブのこぼれを拾ってルーカスが決めていますし、90+6分の3点目のシーンも、F・ジョレンテ、アリの近くにいたのでしょう。
ではアヤックスについても書いて行きます。
アヤックスは、完全にではありませんでしたが、高い位置からの攻撃的プレッシングを後半は頭から控えて、意識的に4-4-1-1で構えるようになっていました。
それによって、やはり押し込まれる時間が増えました。そして、1失点目こそカウンターからの失点ですが、いよいよヤバいぞと焦ることになった2失点目は、押し込まれて、右から左に振られて、もう一度右に振られてところからフリーでトリッピアーにクロスを入れられ、オナナがシュートをキャッチしきれずこぼしてしまい、ルーカスに決められています。
後半のキックオフ直後なんかはハイプレスをかけたシーンもあったので、もうバテてしまっていたのか、テン・ハグ監督が守備に比重を置いたプランに切り替えていたのかは分かりませんが。
そして、アヤックスは2点目を取られた後も攻撃的にプレーし、多くのチャンスを作ったのですが、惜しいシュートばかりで決まらなかったのが誤算でした。
そして終盤。
終盤は、アヤックスも守りに入ることなく、突き放すゴールを決めようと前線は高い位置からプレッシングをかけに行きました。ですが、後ろが連動できず、間延びしてしまいました。なので、ライン間が広がり、ロングボールをF・ジョレンテに蹴られ、ブリントじゃ勝てないのでアリに繋がれ、速攻を受けることになっていました。
そして最後にF・ジョレンテにデ・リフトが競り合うのですが競り勝たれ、アリに拾われてスルーパスをルーカスに通され、ルーカスにGKオナナの届かない右下の隅に左足で逆転ゴールを決められました。
F・ジョレンテについて。
ここでF・ジョレンテについて書きたいと思います。
F・ジョレンテは、HTに負傷のワニャマに代わって投入されました。そして、2点目のルーカスのシュートの一つ目のシーンのように、シュートチャンスがたくさん訪れました。ですが、相変わらず全然シュートは決まらない(笑)。ですが、ターゲットマンとしてはとてもうまく機能していました。ロングボールが入れば相手左CBのブリントに対しては確実に競り勝って味方に繋ぎますし、最後の3点目のシーンは、デ・リフトの方とマッチアップしても、しっかり競り勝ってアリの足元に落としました。
また、F・ジョレンテがいなければ、ルーカスが意外に空中戦に強いとはいえ、割り切ったロングボール戦術を使うことはできませんし、デ・リフトに競り勝ってアリに繋ぐことができなかったのは明白です。
シュートは決まらないのですが、大逆転に大いに貢献した選手です。
データ分析 ~二戦合計で分かる、1stLegと正反対の形勢~
データ:whoscoredから引用
最後にデータ分析です。
最初にトッテナムの攻撃陣、シソコ、アリ、エリクセン、ソン、ルーカスの5人を合わせたヒートマップです。これを見ると、右サイドに少し偏って攻撃をしていたことが分かります。
対してアヤックスのデ・ヨング、ファン・デ・ベーク、ジエフ、タディッチ、ドルベリの5人のヒートマップです。先ほどのトッテナムの方の5人のヒートマップと比較すると、トッテナムが60%ボールを保持したことも影響しているでしょうが、かなりアヤックスの5人の方が低い位置でプレーしていたことが示されています。
(左がアヤックス、右がトッテナム)
そしてこちらのヒートマップは、両チームのSBです。これを見ても、アヤックスのSBの方が、ポジションが低くなっています。
(一枚目がパス数、二枚目がポゼッション)
この二つのデータで注目してほしいのは、エリクセンです。一枚目のパス数のデータを見ると、2CBに次いで3番目に多い本数のパスを出していて、アヤックスの一番であるCBブリントよりも21本多い65本。二枚目のポゼッションのデータを見ると、チーム全体で59.5%ボールポゼッションをした中で、7.2%を占めている。こちらもアヤックスの一番のデ・リフトよりも長い時間ボールを持っていて、しかも2.6%多い。そしてタッチ数も86で、チームで3番目、これもアヤックスの一位のジエフよりも多い。
前半は一応右SHとしてプレーしていたのに、これだけ多くボールに触っていた、というのは凄い数字ですし、
このパスマップを見ると、とても幅広いエリアでパスを出しています。
1stLegは悪いパフォーマンスでしたが、2ndLegはいつものエリクセン、という感じのパフォーマンスでした。
逆にアヤックスは、ジエフは良かったですが、トッテナムのエリクセンを除いた二人の二列目、ソン、アリに比べてタディッチ、ファン・デ・ベークは、あまりそれぞれゴールに絡んでいるとはいえ、データで劣っていて、データでなくてもそれほど強いインパクトを残すことはできていませんでした。
続いて両チームの純粋なCF、ドルベリ、F・ジョレンテを比較します。
このヒートマップを見るだけで明白ですが、F・ジョレンテの方が圧倒的にゴールに近いエリアにポジショニングをしている。一方ドルベリは、青色なので少し見にくいかもしれませんが、エリア内は青くもなっていない。ストライカーとして大きな違いが出ています。
こちらはタッチ数のデータ。赤線で囲んだドルベリ、F・ジョレンテを見ると、F・ジョレンテの方がプレー時間が短いのに、タッチ数が14回も多い。プレー時間はドルベリの方が22分多いのに、F・ジョレンテの方がよっぽどプレーに絡んでいたことが分かります。
最後にプレーエリア。「Home Third」はホームチーム側の1/3ということなので、アヤックスの自陣でのプレーが、トッテナムの自陣でのプレーより7%多くプレーされたということです。これを見ても、トッテナムが押し込んでいたことが読み取れます。
ここまでの両チームの攻撃陣、エリクセン、純粋なCF、プレーエリアのデータを見ると、トッテナムの方が敵陣ゴールに近いエリアでプレーしていて、押し込んでおり、純粋なCFのパフォーマンスにも大きな違いが出ていることが分かります。先にも書きましたが、結果的にトッテナムの逆転ゴールは、その純粋なCFのF・ジョレンテが大きく貢献しているわけで。
1stLegではアヤックスのアタッカーの方が良いパフォーマンスをしていたのですが、2ndLegは、トッテナムのアタッカーの方が良いパフォーマンスをして、トッテナムが押し込んだ。2試合を通して見ると、結果だけでなく、データでも正反対であったということです。
総括
アヤックス 守備では、右サイドを捨てて左サイドに追い込むプレッシングプランだったが、トッテナムのカオス化攻撃戦術に混乱し、プレッシングを突破されて速攻を何度も受けることに。
攻撃では、相手がカオス化の副作用も影響してプレッシングでハメ込むシチュエーションをあまり作る事ができなかったこともあって、こちらもプレッシングを交わして速攻を仕掛けることことができた。
後半は、バテたのか、監督の指示かは分からないが、守備の重心を下げたことで、押し込まれる時間が長くなり、2点差を追いつかれる。そして2-2になった後は攻撃的にプレーして多くのチャンスを作り出したが、決められず、終盤は前線のプレッシングに後方がついて来れなくなり、間延びしてF・ジョレンテへのロングボールによってライン間に進入され、速攻を受けることに。90+6分にルーカスに決められ、ヤング・アヤックスの大冒険は準決勝まで。
トッテナム 前半は、攻撃戦術「任意のカオス化」のもと、4-4-2からポジションを動かしまくって、不規則でランダムな配置でプレー。アヤックスをかく乱し、プレッシングをハメることを困難にさせ、フリーの選手を使って前進し、相手を分断し、速攻に移行するシーンを多く作った。しかし、前半はゴールが取れなかったので、後半は攻撃戦術を変更。今度はカオスと対極にある、再現性高くプレーする攻撃戦術に。右サイドはトリッピアーを上げてルーカスを中央でプレーさせ、シュートを打つ側のプレーを担当させ、左サイドはローズが偽SBとして中盤に入り、大外レーンに張っているソンの突破力を生かす狙い。そして結果的に、ルーカスをゴールに近いエリアでプレーさせる選択が大当たり。ハットトリックでチームを大逆転に導いた。
守備では、4-4-2では攻撃的プレッシングをかけるが、攻撃の「任意のカオス化」戦術の副作用や、前線の選手が自分の担当マークを話してしまってマークがずれるシーンが多く、ほとんどハメ込むことは出来ず。プレスを分断されて速攻を受けることになっていた。
両チームが攻撃的にプレーした中で、最後の最後にアウェーのトッテナムが劇的に逆転勝利しました。1stLegが終わった後には、トッテナムが勝ち上がる確率は6%ということも言われていたので、意外な結末ですね。
最初にも書きましたが、二つの大逆転で、ワンダ・メトロポリターノでの決勝はイングランド勢対決に。お互いを知り尽くしている両チームの対決ですが、どう相手を捉えて、どう勝ちに行くのでしょうか。トッテナムが勝てばCL初制覇、リバプールが勝てば昨シーズンのリベンジです。トッテナムにS・ラモスはいませんので、サラーが良いパフォーマンスを見せてくれると、試合は絶対に盛り上がるでしょう。
最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、僕のnoteのフォロー、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!
ご支援いただいたお金は、サッカー監督になるための勉強費に使わせていただきます。