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#01 引き継がれる「レガシー」

昨年の5月、小学3年生だった息子が少年野球を始めました。チームは結構な強豪で、特に息子の代は既に10人以上いて、1年生から始めている子もたくさんいるので、相当頑張らないと最高学年になった時にベストメンバーに入るのは難しそうなチームです。

息子はクラスメイトの中では足は早い方だし、客観的に見て運動神経は悪くはないと思うのですが、12月生まれで身長も前から3番目くらいのチビなのでとにかく力が弱い。おもちゃのプラスチックのバットでなら、柔らかいボールをそれなりに打つことは出来ていたものの、本物の少年野球用のバットを持って振らせてみたら、振るのがやっとという感じでした。

よく、野球は道具にお金がかかると言われますが確かにその通りで、練習用のユニフォーム、グローブ、スパイク、バットは必ず必要になります。その中で、性能がピンキリなのがバットです。初心者用の一番安いのであれば7000円くらいで買えますが、高いものになると4万円を超えるものもあります。

バットは長く使えるので、最初から良いバットを買ってあげても良かったのですが、いかんせん息子は非力だったので、最後まで使えそうなバットをいきなり買い与えても重くてまともに振ることが出来ず、それで野球を嫌いになられても困るので、やはり初心者用の軽くて短めのバットを買って練習させる事にしました。

息子は野球にすぐのめり込むようになり、練習も一生懸命頑張っていました。試合に出してもらえる機会はほとんどありませんが、秋にあった3年生以下の大会ではチームメイトの活躍で優勝でき、息子もセカンドの頭をギリギリ超える初ヒットを打つことが出来ました。

やがて冬が来て外で練習出来なくなると、家の中でも毎日バドミントンの羽を打つシャトルティをやるようになり、スイングスピードも早くなってきました。身体は相変わらずチビですが、最初に買い与えた初心者用のバットでは、早くも軽すぎに思えるようになってきました。

そんな頃、息子も「よく飛ぶバットが欲しい」と口にするようになり、私は「毎日シャトルティを頑張ったら考えてあげる」と言って練習を頑張らせていましたが、ある日私が自分の草野球の素振り用に使っていた大人用の竹バットでシャトルを打たせてみると、スイングは遅いなりにきちんとミート出来るくらい振れるようになっていました。

ここまで頑張っているのだから、そろそろ買ってあげても良いかなと思いながら、一つ気がかりなことがありました。それは、ここ最近飛び過ぎるバットに対して規制がかけられてきていることです。高校野球でも、打球速度がどんどん上がっていて投手が危険ということで、バットの規格が変更されました。その流れは少年野球にも徐々に押し寄せていて、複合バットと呼ばれる金属の表面にウレタンを巻いて反発力が高められたバットにいずれ規制がかけられるという声が聞こえるようになって来たのです。

せっかく高い良いバットを買い与えても、すぐに使えなくなってしまうのでは勿体なさすぎです。とりあえず翌年度すぐに規制されることはないようでしたが、残り3年間のうちに規制がかけられてしまったら、またバットを買い直さなければいけなくなります。

そんな時に思いついたのがメルカリでした。

少年野球用のバットは、どんなに高価なバットでも、中学校に進学すると使えなくなってしまいます。そのようなバットが世の中にはたくさん余っているはずで、メルカリに出品する人もいるだろうと思い検索してみました。

どうせなら一番良いバットを見てみようと思い、人気の高いミズノとSSKの最高位のバットを探してみると、予想通りたくさん出て来ました。商品の説明を見てみると、高価なバットだけあって丁寧にバットの使用歴を書いてくれているものが多く出品されていました。


「高価なバットなので大切に使用してきました。バッティングセンターでの使用は一切ありません。」

「試合で当たりの良い経験を沢山しました。
硬式野球に変更したのでお譲りいたします。」

「小柄な息子が小学校5年生の時にこのバットでランニングホームランを打つことができ、野球を好きになってくれました。」

「2年間使用しましたが卒団の為出品します
グリップテープは3回巻き替えて使用しました。」

「何本もホームランは打てませんが、当たれば子供でも、かなり飛んでいきます。良いご縁がありますように。よろしくお願い申し上げます。」

「高価なバットで当初は購入に悩みましたが、本当に良く飛びます。おかげで昨シーズンはホームランを沢山打ってくれました!本当におすすめのバットです。」


どのバットにもそれぞれの持ち主の様々な思い出や記録が詰まっていることが見て取れました。

決して壊れたり劣化した訳ではなく、単純にカテゴリーが変わってしまった事により使えなくなったバットが殆どであり、それをそのまま眠らせてしまうのではなく、バットに刻まれた数々の歴史を引き継いでさらに新しい歴史を追記していくことは、むしろ素敵な事のように思えて来たのでした。

あとは息子の気持ち次第です。中古のバットという事に息子が拒絶反応を示さないかが心配事でしたが、意外にも息子はそこまで高価なバットは自分の実力にはまだ早いと感じていたようで少し躊躇いを見せたくらいでした。もう少し下のランクのバットでもそれほど値段は変わらないし、新品で買うよりも半額以下で買えて、メルカリのクーポンと売上げ残高で買えるのだから値段は気にしなくてよいと伝えると、数ある中から丁寧に使われていてグリップも格好良く巻き直してあったビヨンドレガシーを選び購入することにしたのでした。

数日後、商品が届くと早速素振りを始め、シャトルティも以前に増して沢山やるようになりました。

春になって大会も開催されるようになり、先日4年生以下の大会に途中出場した息子は、ノーアウト2・3塁のチャンスで打席が回ってきて、初球をしっかりミートした打球がセンター前に転がり、自身の人生2本目のヒットを早速記録することが出来ました。

この先もきっとこのバットで、沢山の思い出と記録を作っていってくれることと親バカながら期待しています。


このように、特に子供用のスポーツ用品の中には、まだ使えるにも関わらずカテゴリーが上がる事によって使えなくなってしまう道具が色々あると思います。

少子化などの影響で様々なスポーツで競技人口の減少が課題となっていますが、このようにまだ使える道具を有効活用することで、親の負担もいくらか少なくなり、お金がかかることを理由にやりたいスポーツを諦める子供を減らしていくことができるのではないかと思います。

決してメルカリの回し者ではありませんが、このようなフリマの使い方はアリだと個人的には思っています。

以上、長文になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。


なお、このバットのその後について下記のマガジンにノンフィクションで記録中です。ご興味ある方はぜひお立ち寄りください。

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