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万年筆回顧録『羽毛のタッチ』第六回

六、パイロッ党へのいざな

「国産万年筆の強み」と言えば、まずは特殊ペン先の存在が挙げられると思う。PILOTなら16種類、SAILORなら14種類のペン先がラインナップされている(舶来万年筆の場合、8~5種類が一般的だ)。※PULATINUMは8種類なので除外する。

PILOT公式ホームページより


 この連載をお読み下さっている方なら、既にお気づきかもしれないが、僕はカリグラフィタイプの――つまり、縦線が太く横線が細くなる――ペン先を好む。

カリグラフィとは?
カリグラフィとは、西洋や中東などにおける、文字を美しく見せるための手法。字を美しく見せる書法という面は日本の書道など東洋における書 (造形芸術) と共通する部分があるが、筆記にペンまたはそれに類する道具を用いているため、毛筆を使用する書道とは表現されたものが異なる。ほとんどの場合は先端が平らになったペン先を用いる。

wikipediaより

 なぜ、縦線が太く横線が細くなるペン先が好きなのか? と問われたなら、僕は即座にこう答える。「視覚的にバランスのとれた文字が書けるからだ」、と(多少字が下手な人でも、カリグラフィタイプのペン先を使えば、少しはマシな文字が書けるようになる。だまされたと思って、試してみてほしい)。
 鉄ペンではなく、金ペンでこの要件を満たしてくれるペン先は、僕が知る限りPILOTのMS(ミュージック)ニブとSU(スタブ)ニブ、SAILORのMSニブと角研ぎ時代のPelikan万年筆だ。
 MSニブの縦線は、ちょっと太すぎるので、実用的ではない。普段使いにするなら、SUニブが妥当だろう。――すると、PILOTの万年筆しか選択肢がなくなってしまうという訳だ(Pelikanが角研ぎをやめて丸研ぎになってしまった、ということは前に述べた)。

 お次の「国産万年筆の強み」は、インクとその関連商品だ。国産インクは、色の種類が豊富で高性能、おまけに価格が安いときている(舶来品は種類は多いが、性能と価格面において国産品に遠く及ばない)。
 中でも、PILOTは総合的に見て頭一つ抜けている。国産万年筆インクの多色展開の先駆けとなった色彩雫シリーズをはじめ、インクを最後まで余すところなく使えるリザーバー付きインクボトルINK70の開発(後にSAILORが追従した)、コンバーターの泣きどころ(ピストン式に比べてインクの吸引量が少ない)を払拭しつつ、業界初となる「片手吸引」を可能にしたプッシュ式コンバーターCON70の存在、通常ラインナップのインクの350ml大容量ボトル販売(黒、ブルーブラック、赤、なぜか青がない)……と、枚挙に暇がない。インク関連分野は、PILOTの独壇場と言っても差し支えないだろう。
 SAILORの長所は、混色可能(非公式見解)なほどペンに優しいインクである、ということぐらいか――。
 余談だが、PILOTのブルーとブルーブラックインクには、若干の耐水性が付与されている(もっと言えばブルーの方が耐水性が高い)。耐水性があるということは、洗浄の際に落ちにくい――つまり、ペンに優しいとは言えない――ので、使用するならPILOTの万年筆に限定するのが無難だと思う。ちなみにPILOTのブルーブラックは、僕の使用率No.1のインクであり、ブルーは使用率No.2のインクである。

「あれ、タキオンが持っているPelikanのM805や、MONTBLANC149にもPILOT製のインクを入れているの?」
 僕が、「同一メーカーの万年筆とインクの組み合わせを重んじている」ということを覚えておられる方なら、このような疑問をお持ちになったかもしれない。
 PelikanのスーベレーンシルバートリムM805やMONTBLANCマイスターシュテュック149は、豊岡クラフトのペントレーの中に眠っている。M805や149はサイズが大きすぎて携帯に向かないことと、万が一何かあった場合のダメージが大きすぎること、そもそもPelikanとMONTBLANCのインクが気に入らない等の理由で、僕はこの2本の万年筆を普段使いから外している。
 ここ10年ぐらい、僕が日常的に使用している万年筆は、PILOT製の万年筆(計6本)だ。

 さて、ここまで国産万年筆の強みを述べてきたが、最後に「国産万年筆の弱み」も語っておこうと思う。この弱みこそが、国産万年筆の発展を妨げている最大の要因であることは間違いない。
「国産万年筆は、デザインが致命的にカッコ悪い」のだ。そのほとんどがMONTBLANCのパクリにしか見えない。
 正直なところ、僕も国産万年筆のデザイン問題を克服(というか妥協)するのに、かなりの時間を要した。
 せめてクリップだけでも、何とかならないものか。PILOTのクリップは、先端に玉が取りつけられているだけだし(なぜ玉?)、SAILORのクリップに至っては、形状を思い出すことが困難なぐらい特徴がない。
 デザイン性に優れた万年筆と言えば、ドイツのLAMYが筆頭にあげられるだろう。そのLAMYの万年筆〈ステュディオ〉のクリップには、プロペラ機の羽根をモチーフにしたクリップが取り付けられている。ステュディオがリリースされたとき、「このクリップは、本来ならPILOTが採用すべき形状だった(何せ社名がパイロットなんだから)」と口惜しく思ったものだ。
 SAILORも船乗りや船にちなんだクリップを考えてみてはどうか。広島の呉市が発祥の地なのだから、戦艦をモチーフにするのも面白いと思う。例えば、「大和」や「武蔵」なんていう万年筆が出たら、僕は思わず買ってしまうだろう(但し、昨今リリースされている万年筆のように、首軸の内部に安っぽいOリングを採用するのだけはやめて頂きたい。ゴムはすぐ劣化するから、万年筆ではなく十年筆になってしまう)。
……とまぁ、まだまだ言いたいことは山ほどあるけれど、今回はこのぐらいにしておく。
 僕がパイロッ党の一員に名を連ねた理由は、以上の通りである。

SAILOR×趣味の文具箱 / 2010年代 プロフェッショナルギアスリム / 限定ブルー / MSニブ(14K)
【常用】PILOT / 2010年代 カスタムヘリテイジ912 / SUニブ(14K)川口スペシャル
【常用】PILOT / 2010年代 カスタム743 / POニブ(14K)川口スペシャル
【常用】PILOT / 2010年代 カスタム74 / Fニブ(14K)川口スペシャル
【常用】PILOT / 2010年代 キャップレス / ブラックマット / EFニブ(18K)
【常用】PILOT / 2010年代 カスタム / Fニブ(14K)川口スペシャル

※もう一本の常用は、以前紹介した「PILOT カスタム742 MSニブ(14K)川口スペシャル」です。


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