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#1 パンを愛でる話と贈る言葉

小さい頃から朝ごはんは"パン派"
お米も大好きですが、朝に食べるとお腹が重くなるのが苦手なのです。

パンが好き過ぎて、陽が昇る前に家を出て2時間かけてお気に入りのパン屋さんに行ってできたてを買う、なんてことをしていた時もありました。
コンビニのパンでさえハイクオリティな日本は、パン天国です。ほんとに。

●I am  a パン難民

わたしが今住んでいるのはインドネシアのジャカルタ。
インドネシアも日本と同じ"お米"が主食でして、ナシゴレンなどは日本でも知っている方も多いはず。
最近は食の欧米化が進み、ピザやパスタが大人気です。
オランダの植民地時代が長かった為か、パン屋さんもたくさん見かけますし、ショッピングモールにも必ず入っています。

でも、正直美味しくない。ごめん、インドネシア。

本当に美味しくないんです。悲しいことに。
小麦の味が、違う。

違うんだ。

こっちに来てからずっと、I am a パン難民。
だからもう、作ることにしました。

実は、インドネシアに来る時に日本産の強力粉・中力粉・薄力粉をそれぞれ1キロずつ持ってきていました。強力粉と中力粉は棚にしまったまま、存在をすっかり忘れていていたのです。この間見つけた新しいパン屋さんのパンの不味さに絶望している時に、突然その存在を思い出しました。
本能だったのかもしれません。

1キロなんて多分すぐなくなってしまうな・・・
でも、今のこの美味しいパンへの渇望を満たすには十分だ!


ただただ美味しいパンが食べたいという欲求で動く体。わたしは煩悩の塊。

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貴重な日本の小麦。絶対、失敗したくない。
ということで、ゆっくり発酵するレシピで作ってみました。発酵とガス抜きの回数が多いですが、長時間かけて発酵する為こねなくても柔らかく失敗の少ないレシピです。
何度か日本で作ったことがあったものを、こちらの水やイーストの状態を鑑みて調整しました。

※発酵機能付きのような便利なオーブンがあれば、それが一番。もしも参考になさる方がおられましたら、イーストは気持ち多め、発酵温度は大体27−28℃/湿度70−80%で様子をみてください。因みにインドネシアは、室内でエアコンを切ればすぐにその状態になります笑

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大事に大事に発酵とガス抜きを繰り返しているうちに、どんどんなめらかにふわふわと膨らんでいく生地。
イーストは「人が心地良い」温度でイキイキと活動してくれます。
むくむく大きくなっていくふわふわな生地を見ていたら、なんだか生き物のように感じてきて、最終発酵の時にはもはや生地に対して愛情を注ぐようになってしまったわたし。

これからオーブンに入れるなんて、イーストがかわいそうや・・などと思ってしまい、発酵終了を知らせるタイマーを無視してみたり。
その後妄想は激しくなり、この生地が過発酵になった行く末として『コミック版風の谷のナウシカ』に出てくる粘菌を思い浮かべ、火炎放射器で焼かれた粘菌の匂いを脳内でパンの香りに変換する始末(最後ナウシカは粘菌を助けたけど、わたしの妄想はパンにして食う結末)。

名称未設定のアートワーク

お昼頃から仕込んで、焼成まで5時間くらい。もうすぐ日が暮れそう。
その時ちょうど流れてきたのは、大橋トリオがカバーした『贈る言葉』
(切ないピアノの旋律と大橋トリオの優しい声が美しい名アレンジ)

”暮れなずむ街の 光と影の中 去りゆくあなたへ 贈る言葉”

こんなにじっくりパンを作ったのは初めて。こんなにほよほよのぷよぷよは初めて。
上手に発酵してくれてありがとう。
また会おう。


涙を堪えて200℃のガスオーブンの中へ。

ああ・・・熱いだろうに。

うちのガスオーブンは温度が不安定で、火が急に消えてガス漏れしたことがあります(衝撃)。見張っていないと焼き具合にムラが出てしまうポンコツ。
それゆえ、つらくとも焼かれていくのをじっと見つめなくてはいけない。
後ろで流れる『贈る言葉』。シュール過ぎて泣けてきます。

結果、綺麗に焼けてくれました。

最後まで、綺麗だったよ・・・


焼き立ては本当に良い香り。
思わずパクついてしまいました。
ちょっとトースターで焼いてみたくなり、すまんと思いながら二度焼きしました。
"わたしほどあなたのことを愛したヤツはいない"、最後までちゃんと食べるからね。
ナムナム。

今聞きたい曲:贈る言葉 / 大橋トリオ




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