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発刊順:24 パーカー・パイン登場

発刊順:24(1934年) パーカー・パイン登場/乾信一郎訳

夫が出掛けた後、パキントン夫人はどうしても我慢ならなかった。浮気しているに違いない。憤懣やるかたない彼女が新聞を眺めた時、ふとある広告が眼に入った。“あなたは幸せ? でないならパーカー・パイン氏に相談を” ばかばかしいけれど……こうして夫人は氏の事務所を訪ねた。“心の治療専門医”パーカー・パイン登場! この中年夫人の事件を始め、人生に退屈しきった退役軍人などの悩みを、暖かい経験に基づいた見事な手腕で解決するかたわら、旅に出ては、バグダッドやナイル河で起きた殺人事件・怪事件を解決する傑作短編12篇を収録。

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より


新キャラの短編集は一風変わった設定で、
「あなたは幸せ?でないならパーカー・パイン氏に相談を」という新聞広告で、訪れた人のお悩み相談をする。
 
パイン氏曰く、

 不幸は5大群に分類できます…それ以上はない、絶対に。ひとたび病根がわかりさえすれば、治療は不可能ではありません。

本文より

ある官庁で35年間、統計収集の仕事をしていたというパイン氏は、
クライアントの不幸の種類を見極めて、ある「体験」をさせることによって物の見方が変わり、そのことによって真の幸福へと導くのだ。
大事なのは、日常生活を大きく変えることではなく、心の持ちようを変化させること。
 

『中年夫人の事件』より、

 女というものは、ロマンスを大切に心の中にしまいこんで、将来長い間ずっとそれを眺めていることができる…。

そのたった一つのロマンスを体験させるパイン氏。
しかし、ジゴロを演じたクロードは、「気に入らない」と言ってパイン氏にくってかかり、部屋から出ていく。
パーカー・パイン氏は引き出しから新しいファイルを取り出した。
彼が書いたのは…
札つきのやくざ者にも興味深き良心の痕跡認められる。
注:発展研究のこと
 
というオチもついている。
 
『富豪夫人の件』では、
クライアントの生き方が見事に変容し、「幸せに生きる」ことの本質を描いている。
 
同じような展開を避けたのか、後半はパイン氏が旅行に行った先々で出会った謎を解き明かす、いつものミステリ仕立てになっているが、最終話にはこの短編集を締めくくる仕掛けがあって、興味は尽きない1冊です。
 
後のポアロものに出てくるミス・レモンやオリヴァ夫人が出てくるのも面白い。


HM1-31 昭和58年12月 第5刷版
2022年5月27日読了

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