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発刊順:98 ポアロとグリーンショアの阿房宮

発刊順:98(2014年) ポアロとグリーンショアの阿房宮/羽田詩津子訳

名探偵エルキュール・ポアロは友人であるミステリ作家のオリヴァ夫人から、田舎の屋敷グリーンショアに呼び出された。祭りの余興である犯人探しゲームで、何か不穏な事態が起こりつつあるようだ。なんとか事件が起きるのを防いでほしい ― 原稿が完成しながらもある事情から発表されず、近年になって発見された幻の中篇がついに登場!  解説:ジョン・カラン

クリスティー文庫103の裏表紙より

本作は1954年に、クリスティーの地元の教会のチャリティーのために執筆されたが、未発表となっていた作品。
後に長編『死者のあやまち』へと書き変えられて、1956年に発刊されたものと内容はほぼ一緒で、何人か名前の変更や追加の登場人物などが見られる。
 
グリーンショアは、クリスティーが1938年に買ってから1976年に亡くなるまで、家族と一緒に夏の休暇を過ごした実在する場所「グリーンウェイ」のことを書いており、そのことは、クリスティーの孫のマシュー・プリチャードがまえがきに詳しく書いている。「阿房宮」は実際にはないそうです。

わたしのきらいなのは、群衆、人のあいだにぎゅう詰めにされること、大声、雑音、長ったらしい話、パーティ、とくにカクテル・パーティ、紙巻きタバコの煙と喫煙一般、料理に入れるのはべつとして酒類はどんなものでもだめ、マーマレード、カキ、なまぬるい食べ物、灰色の空、鳥の足、あるいは鳥全体の手ざわり。最後に、そして最高にきらいなのは、あたたかいミルクの味とにおい。
好きなのは、日光、リンゴ、ほとんどあらゆる種類の音楽、鉄道列車、数に関するパズルと数字に関する何でも、海へ行くこと、水浴と水泳、静かなこと、睡眠、夢を見ること、食べること、コーヒーのにおい、スズラン、たいていの犬、そして劇場へ行くこと。
もう少しましな、もっと豪勢に聞こえる、もっともったいぶったリストを作ることはできるが、またしてもそれはわたしらしくなくなるであろうし、やはりわたしはわたしであることに辛抱しなくてはなるまい。

『アガサ・クリスティーの生涯』ジャネット・モーガン著
(本書の“はじめに”より)

本書の内容については、『死者のあやまち』で書いているので、省略しますが、クリスティー自身の投影と言われている探偵作家のオリヴァ夫人のセリフをご紹介。
 
ポアロが、
「あなたの発明の才には感心しきりですよ。まったくすごいことを考えつくものです」と言うと、

「考えつくのは全然むずかしくないの。問題はあまりにも多くのことを思いつきすぎるってこと。だから、何もかもがごちゃごちゃになってしまって、いくつかを整理してあきらめなくちゃならない。それがいつもつらいわ」

これって、クリスティー自身の「心の声」ですよね~^^


2020年4月 第4刷版
2023年9月8日読了


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