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発刊順:90 象は忘れない

発刊順:90(1972年) 象は忘れない/中村能三訳

探偵作家のミセズ・オリヴァは、一番会いたくない人物ミセズ・バートンから無理難題を持ちかけられた。オリヴァが名付け親になったシリヤという娘が今度バートンの息子と結婚することになった。ついては昔起こったシリヤの両親の死亡事件を再調査してくれまいかというのだ。
父親が母親を殺したのか、それともその逆だったのか、未解決に終わった10数年も前の事件を今さら……。困り果てたオリヴァはその夜、友人のポアロのもとを訪れた。得意の「回想の殺人」を描いて、人間の運命を凝視する女史晩年の代表作。

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より

ポアロもの最後の作品は、(※カーテンは除く)
クリスティー82歳の時の作品である。
晩年の作品は、ポアロもののバディはすっかりオリヴァ夫人になったのだが、今作もオリヴァ夫人がまずは事件のきっかけを掴んでポアロの元へ運んでくる。
 
オリヴァ夫人もいくぶん年を取ったのか、昔はもっとひっちゃかめっちゃかなキャラだったが、今作は名づけ子のために苦手なミセス・バートンの依頼に奔走する姿が愛しい。
 
その依頼は、過去に起こった心中事件の真相、「過去の殺人」である。過去の殺人を扱った「五匹の子豚」や「ハロウィーン・パーティ」などを引き合いに出し、

ムッシュ・ポアロは今までにも、いわば過去の殺人事件に立ちもどって、事件の究明にあたる傾向をときおりお見せになりましたな、二度、いや、おそらく三度も…

と、ギャロウェイ元主任警視に言われるのだ。
 
晩年のクリスティー作品にみられる、懐かしい人々の登場や、昔を知っている人達が語る過去の事件の振り返りの部分は、発刊順に読むからこそ、より深く読者の心にも響いてくる。
 
タイトルの「象」は
捜査をすることに決めたオリヴァ夫人が、

「わたしたちがほんとうにやらなくちゃならないのは、象のような人たちを見つけることだって。世間では、象は忘れないって言いますわね・・・わたし、どこかにいる象と連絡をとらなくちゃいけませんわ」

と言って象が記憶力の良い例え話を展開し、かつての事件の関係者や周囲にいた人達の中から、象と同じように、妙なことを覚えている人物たちを探すために行動を開始する。
 
今作は、ポアロとオリヴァ夫人の会話や、オリヴァ夫人と「象」たちの会話などによって、テンポよく展開していくので、それほど読みづらさを感じることはなかった。
 
ポアロは過去に戻る旅をする。
事件当時に立ち戻り、なぜ真実が謎のままにされたのか。それを知る唯一の証言者に会いに出かけ、「真実」を若き2人の元へ届けるのだ。


HM1-44 昭和60年5月 第14刷版
2023年8月26日読了


 

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