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「アンコールワットで感じたこと/旅する音響家との出会い」

世界一周88日目(9/24)

近くのお寺からスピーカーを通してお経が流れる。

僕はすぐにチェックアウトできるように荷物をまとめ、歯を磨いて着替えた後一階におりた。外ではリシィとトゥクトゥクが待機していた。僕の姿を確認すると笑って手を振ってきた。

5時になり僕とホヌマさんと歯科医のお兄さんを乗せたトゥクトゥクはアンコールワットに向けて走り出した。

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辺りはまだ真っ暗で風がひんやりと心地よい。見上げると月と星が夜空に輝く。

「うわぁ...!今日はアタリや!」歯科医のお兄さんはちょっと興奮気味に言った。ホヌマさんはまだ眠そうだ。僕は睡眠時間が短かったのにもかかわらずちっとも眠くなかった。

ここまで「タメ」たアンコールワット。誰もが知っている世界遺産。カンボジア人の心のよりどころ。それがあと少しで見えるのだ!眠気なんて感じている暇はない!


前日買ったチケットを見せ入場ゲートをくぐる。

アンコールワットに近づくころには遠くの方の空の色はほんのりと明るくなっていた。夜明けが近づいている。

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トゥクトゥクを降りた後、アンコールワットへ続く橋を渡った。周りには僕たちの他にも多くの観光客の姿があった。アンコールワットから朝日を見るために沢山の人がこんな日の昇る前からこの場所を訪れるのだ。

橋を渡り終えると湿った空気と共にアンコールワットのシルエットが僕たちを待っていた。

「左の池からやと綺麗に見えるみたいですよ」歯科医にいさんが言うように左側の池の周りには人が集まっていた。僕たちもそれに習い池の前で朝日を待った

後ろから昇る太陽に照らされ徐々に白ろくなっていく空。太陽が登り始めると周りの雲がまるで夕焼けを空のように変わった。

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朝日を待つこの時間が最高に幸せだった。

本やテレビ越しにしか知ることのなかったアンコールワット。知っているのは名前と形とほんのちょっとの知識。それを「世界一周」という旅路の途中で見られることの喜び。

朝日を待つ今の状況は「体感」だった。

僕は今、アンコールワットを体感している。

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太陽はゆっくり、ゆっくりと顔を出し、うっすらと見えていたアンコールワットは黒いシルエットになった。

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「綺麗だ...」

同じ場所から一歩も動けなかった。
「ここにこれて良かった」心からそう思った。やはり、ここを最後にして正解だった...。

時間的な余裕を感じると僕はアンコールワットに近づその規模の大きさや装飾の緻密さを感じることができた。

大昔、ここにこれだけの建造物を遺し、それを見るために多くの人間がこの場所を訪れる。それだけの物がこの場所にはある。


アンコールワットの朝日を十分に味わった後、別のツアーに申し込んでいる歯科医にいさんとは別れ、僕はホヌマさんと一緒にバイロンとタプロームの遺跡をまわった。歴史の重みを感じさせる遺跡たちからは「すごい...」の言葉しかでてこなかった。ほんとにそれしか言えなかった。

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男二人で遺跡を巡るなんて会話が途切れて気まずくなりはしないかと変な心配をしていたが、ホヌマさんも僕も遺跡たちの圧倒的な姿に感動する他なかった。だからそこに空気を読んだり、気を遣ったりそういう心配は全くいらなかった。

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宿に戻ると僕はサンドイッチとコーヒーをオーダーし、忘れられたのか心配させられて、挙げ句の果てにはモムさんとスタッフともめるくらい待たされた朝食を2分で完食し、バックパックを背負いタケオゲストハウスを後にした。

そして何件か宿をまわって僕が次にチェックインした宿はYAMATO Guest Houseという宿だ。タケオゲストハウスから歩いて3分ほどの距離にある。

案内された2ドルのドミトリーはさっきまでの広々としたものとは違い、なにより、水道水から鉄の臭いがしなかった。そしてここで旅ならではの「出会い」があった。

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宿のカフェでアイスコーヒーを注文し漫画を描いているとスタッフさんとお話する機会があった。最初は何の変哲もない些細な会話だったのだが、段々とこの人がいかにアツい人であるかが分かってきた。

「旅する音響家」ネコジローさんだ。
※プライバシーのためあだ名で書いてます。

ネコジローさんと話にあまりに夢中で写真を撮っていないのが悔やまれるが、文章だけでネコジローさんがいかにアツい人であるかを僕はここに書きたいと思う。


▷ネコジローさんの旅の話

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ネコジローさんは音楽の専門学校を卒業した後、コアなスピーカーを作る会社に就職した。

最初は社会人をやる気はなかったそうだが、もともと知り合いだった社長から「最初はどこの会社でも使う金の計算の仕方を覚えろ。後はお前の好きなようにしていい」との言葉を受け、その顔者で社会人として3年間働いた。

その後、会社が立ち行かなくなったことをきっかけにお世話になった社長を顧問に迎え同じ企業名で相棒と2人で独立する。前の会社から引き継がれたスタイリッシュなデザインと音響にこだわったクオリティ環境に配備したシステムが認められ、なんとか二人分の給料をまわせるようになった。同時にネコジローさんたちの会社で働きたいというアツい新人が登場する。
3人分の給料は払えない現状でネコジローさんはインドに向けて旅に出た(なぜだ??)。

旅を始めたもののインドに着く前にお金がなくなり、ネコジローさんはカンボジアでやむなく沈没することになる。やけっぱちになって飲みまくっていたところカンボジアでパズルのピースがピタピタとはまるように奇跡的な出会いが起こる。

ヤマトゲストハウスのオーナーとの出会いやバーでの商談成立がそれだ。「それ、おれに売ってくれ!いくらでも出すから!」というオランダ人との出会い。

空間を演出するために音響が注目されるようになった最近、ネコジローさんたちの作るスピーカーはフジロックのクリスタルパレスのブースに導入されたこともあるそうだ。わざわざライブの終わったアーティストが踊りにくることもあったそうだ。そのほかアウトドアメーカーのイベントでの音作りやアーティストから指名されてライブに設置されてきた実績をネコジローさんは積み重ねてきた。

そんなスピーカーのオリジナルをネコジローさんは旅をしながら持ち歩いていた。それがビジネスに繋がった。

『これでインドに行ける!』

日本への部品の発注や取引先での機材の取り付け、インドへ行く前に何度か日本戻ったりと現在はインドへ行くための準備に追われているそうだ。インドを旅するまでは時間がかかりそうだが、1年かけてゆっくりインドを旅する計画らしい。

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そんなエピソードを淡々と語るネコジロ=ーさんは僕の目には輝いて見えた。

「いやぁ...アツいっすねぇ〜...」の連発。
旅してなきゃこんなカッコいい人には出会えない。



「旅の魅力のひとつは『出会い』だ」

どこかの世界一周を終えた旅人が言った。



そうだ。

まさにその通りだ。

僕の世界がまた少し広がった。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。