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「ミャンマーからタイへ」

世界一周153日目(11/28)

デコボコ道をホッピングするバスの一番後ろの座席で僕は目を覚ました。窓の外は靄(もや)で包まれ、曇ったガラスのせいもあってか遠くまで見渡すことができない。

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向かっているのはミャンマー、国境の町ミャワディ。
インドへのフライトのため、タイに戻るのだ。

バスが走っている道はコンクリートで舗装されているものの、しょっちゅう起伏があり、「ちん寒ロード」の連続だ。ひどい時にはバスの揺れで体が持ち上がり、荷物を置く棚に頭をぶつけることもあった。

バスターミナルでもパスポートのコピーがとられたが、途中の休憩所もパスポートのチェックをされることがあった。パスポートが持って行かれてしまうとかなり不安になる。ここのオフィサーたちは賄賂を要求する様な人たちではなかったが、国によってはパスポートを渡さない方がいいんだろうな。

僕のパスポートとコピーを見てオフィサーとドライバーがモメている。ここまで何も問題ないはずだ。頼むからスムーズに出国させてくれ...

「これ!パスポートの顔写真ページのコピーじゃないぞ!」
「いやぁ...」何も言い返せないドライバー。

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バスターミナルでコピーされたパスポートのページを見るとインドビザのページだった(笑)なんでそこコピーしちゃうかなぁ?
これはバス会社の不手際なので途中で降ろされることもなかった。

デコボココンクリロードを抜けると次に待っていたのはバス一台がようやく通る様な道幅の険しい山道だった。

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場所によっては舗装されてない箇所もあるし、ガードレールなんてない。落ちたら死ねる。バスドライバーを信じるしかない。何でここの国境を開放してしまったんだろうか?いずれバスの転落事故とか起こるんじゃないか?

バスは慎重に、ゆっくりと山道を登って行く。
山の上からは地平線が見えた。

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『寝たらバスが転落する!』と自分にプレッシャーをかけて「バスドライバーと命運をともにしようゲーム」を自分の中で勝手に開催していたのだが、気づいたら国境の町だった。

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降りたバスターミナルではタクシードライバーたちが声をかけてくる。陸路から国境を越えることができるようにはなったが、モンゴルから中国へ入った時みたいに車じゃなきゃ出入国できないのだろうか?

「国境までいくら?」
「500(1,598yen)バーツだ!」
た、高い!

マップアプリで確認すると国境までせいぜい2、3キロ。
こういう時、決まってますよね♪

「歩いていくからいいっス♪」
歩いて行ってみて車に乗らなきゃダメだったらその時にチャーターすればいいのさ。

国境の町だということで道路は整った方だった。

3キロの荷物を日本に郵送したこともあり、バックパックを背負いながらもなんとかPennyに乗ることができる。そして見えた。

イミグレーションだ。

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歩いて国境を越えることができた。500バーツはないよね。

パーイでネットビジネスをするサンフランシスコ出身のお二人と一緒に手続きを済ませ、戻ってきたタイ。これで3回目だ...。

宿は安いし、インフラは整ってるし、旅の起点になるんだよね。東南アジアの他の国々をまわるとタイという国がいかに快適なのかが分かる。

「ここが世界で数少ない車線が交わる場所のひとつだよ」とサンフランシスコの一人が教えてくれた。

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ミャンマーは右側車線に対してタイは左側車線。
へぇ〜...教えてもらわなかったら分からなかったっす。



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タイに戻った僕はバンコク行きのナイトバスのチケットを求めにターミナルへ向かった。20:30の出発で333バーツ(1,064yen)。さて、チケットも手に入ったことだしどうしようか?

道路を挟んで向かい大きなホームセンターが見えた。
入り口の横には漫画製作にうってつけのカフェがある。

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僕がまず向かった先はその横のトイレ。旅の中で挑戦してみたかったことがあった。その名も「洗髪 in トイレ」。

野宿したり、ナイトバスの移動でシャワーを浴びられない時が何回かあったミャンマー。二日もすると髪の毛が「もってり」してきて、髪を洗った際の抜け毛がすごい。あれ...?おじいちゃん、僕、禿げない...よね?人間って一日60本くらい毛が抜けるんだよ...ね?


洗髪してさっぱりした僕はカフェに入り、漫画を描いた。

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大型ホームセンターの脇にあるカフェにはめったにお客さんが来ない。

どう考えても人件費の方が高くつくくらいの数の従業員ちちがヒマそうにお喋りしたり、ネットゲームをしていた。

日本だったら、人件費削減で一人でお店を回させられて人手不足でヒーヒー言ってそうなシチュエーションだよ。漫画を描く旅人が珍しいのかスタッフたちはよく僕の脇に立って製作現場を眺めては、また形だけの職場に戻って行った。

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漫画製作を切り上げると僕はホームセンターへ貼ってみることにした。
受付で荷物を預けるとそこは生活雑貨で溢れていた。

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フローリングやタイルの素材を扱う棚はまるで何かの展示場のようになっている。

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在庫もここまで大きいと見応えがある。

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2Bの鉛筆...か、買っちゃおうかなぁ...?

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テントが1000円くらいで買える!!

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日本で買った7千円もする使えないソロテントよりよっぽど使えるぞ...でも、絶対重いよなぁ〜...

ホームセンターを見てまわり、漫画を描く場所を提供してくれたカフェのスタッフにお別れを言って僕はバスターミナルへ向かった。

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ターミナルでギターの練習をしているとチケット売り場のお姉さんが「あのバスに乗るのよ」と僕の乗り込むバスを教えてくれた。

やってきたバスにバックパックを積み込もうと順番を待つ。いつもなら運転手やポーターが荷物を入れてくれるのだが、どういうわけだかここのターミナルはセルフサービス。そして、荷室が高い位置にある。盗難はされないんだろうけど、めんどくさいなぁ...

「ほら、ここに入れて!」と重たいバックパックを持ち上げなんとか荷室にぶちこんで後ろを振り返ると



サブバッグがない!!!



えっ!?おれ、ちゃんとさっきギターの練習してた場所からサブバッグも一緒に持っていたよな?

バックパックを積んでバスの後輪の脇におろしたよな!?一応、さっきいた場所を見てみるがサブバッグの形は見えない。バックパックだけ担いでサブバッグだけ残すなんてことは絶対にしない!中には一眼やパソコン、そして、パスポートが入っている。


「盗まれた!!?」

身体中で変な汗がにじみ出てくる。

念のすぐ近くにいた乗客に黒いバッグを見なかったか訊いてみたが「そんなバッグなんて見てないわよ」と慌てふためく日本人を不思議そうな顔で見ている。あの一瞬でもってかれたのか。盗難ってこんなものなのか!!?

「ふざけんな!!!てめぇ!誰だ?おれのバッグ持って行きやがったのぉぉッッ!!!」日本語でシャウト。

20:00。ビクつくターミナル。

「どこ行きやがったあぁぁッ!」

燃え盛る炎の中シルエットを漂わせながら歩くそう。僕は巨神兵。えっ?何言ってるか分からない?「風の谷のナウシカ」の冒頭のシーンだよ。

シャウトしながら隣りのバスの荷室も探してみるがサブバッグは見当たらない。


3分くらいして若造が軽いノリで
「ごめ〜ん!間違って持ってっちゃたヨ!ソーリー!ソーリー!」とサブバッグが戻ってきた。手を合わせて、首をニワトリみたいにヘコヘコさせながら謝るソイツに僕は「ぷっつん」した。


「てめぇ!なにが『ソーリー』じゃ!謝って済む問題じゃねぇぞォォォッ!中にはパスポートが入ってるんだぞ!これがなかったらなぁ!おれは旅ができねえんだよ!わかってんのか!タコ!軽いノリで済む問題じゃねえんだ!コラァッ!」
「いやぁ、だからソーリー。ソーリー(笑)」

ぷつんっ...若造の胸ぐらを掴んで日本語で説教する。

喧嘩じゃない、ヤツに絶対的な非があることをアピールすべく中からパスポートを取り出し周囲のタイ人にアピール。僕としてはなんとかコイツに謝らせたかった。頭を下げさせたかった。コイツの軽いノリがどうしても許せなかった。

「まぁまぁ戻ってきたんだしいいじゃないか」とでも言うようにバスターミナルのスタッフが仲裁に入る。助かったとばかりにその場を離脱する若造。

「おいっ!てめぇ!逃げんじゃねえぞ!」

だが、頭の片隅では冷静な自分もいた。
ここは僕のホームグラウンドじゃない。
僕の側に立ってくれる人間はこの場にはいない。


「ほら!バスが出発するから乗りなさい!」
「あと30分ある!」

って、そうか...
ミャンマーとは30分の時差があったのか...。

ドライバーに言われて、僕は溜飲を下げられないままバスに乗り込んだ。

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怒りを静められないまま僕はなんとか前向きに考えようと努めた。

最終的にはバッグも無事戻ってきたんだから「ツイ」てるじゃないか。あのまま逃げられたら手の打ちようもなかったじゃないか。

それにあいつはもしかしたら本当に間違えただけなのかもしれないじゃないか。

いや、自分のバッグを間違えるか?普通。自分のサブバッグは7キロもあるんだぞ?スケボー用のストラップのついたバッグなんてそんなないだろ。ぜったいにヤツは僕が大声で周囲を巻き込み始めたのを不利になると考えて間違えたフリをしたに違いない。

こ、これは運がいいんだ。だって盗まれてしまってからじゃ対策はたてられないだろ?

思い返してみろよ。今日一日めちゃくちゃツイてたじゃないか。無事に国境に付けたし、安くタイに入れたし、ナイトバスのチケットは手に入れられたし漫画製作にうってつけのカフェにもありつけた。バッグだって、ほら、戻ってきただろ?

外の灯りに照らされて窓枠に何かが映し出された。

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「うふふ♪カワイイゴキブリさん♪」



早朝5時にバスはバンコクについた。

僕は無料のバスに乗ってカオサン・ロードまで戻ってきた。
6時30分のカオサンロードは静まり返っていた。

騒々しくて、欧米人だらけでタイを感じられなかったこの場所に安堵せずにはいられなかった。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。