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[糸結び]

私鉄線の電車を降りたら
北の方から風が吹いた
頬擦る膠粉にかわごなが痛くて
知らない香りの師走の空

離れても太陽は同じなんて
ありきたりな慰めの証明
求めるほどに寂しくなって
俯いて写真に問う
生きがいは何処へ

宛てのない不安な日々も
たゆませちゃいけない糸がある
指にしっかり結んでおいてと
君はいつか言っていたね

目に見えない君の言葉に
縋りたくなって、でも捨てたくて
それでも舞い散る枯れ葉の渦に
急かされて家路を急ぐんだ

今はち切れそうなこの糸を
握っていてくれるのは誰

校庭の初雪のガトーショコラ
昨日貴女が送ってくれた
そんな風物詩の1つすら
望めないメトロポリスの空

けれど君とのラインが弾んで
少しだけ幸せな僕の人生
今日もなんだかんだと日が暮れて
北風に歌い返すセレナーデ
人だかりを抜けて

宛てのない不安な日々も
たゆませちゃいけない糸がある
指にしっかり結んでおいてと
君はいつか言っていたね

自慢げなスタンプの裏に隠した
君だって怯えるただの1人
情けないね、陽気が取り柄なのに
支えてもらってばかりで

今はち切れそうなこの糸を
握っていてくれるのは
君のかじかむ右手だった

余りに小さな僕らの手から
零れ出る愛と紙屑の山
それでも優しさ忘れず正直に
毎日を遠く、君と寄り添って

指折り数える年の瀬の日に
降り立つ故郷懐かしい香り
赤くかじかむ手と手を繋ぎ
雪鳴らすトラムで帰ろう

宛てのない不安な日々の
たゆませちゃいけない糸と糸を
もう一度結び直すイメージを
君と僕の生きがいに添えて

はち切れそうなほど
細くて脆いこの糸を
僕もうなずいて握り返すよ

宛てのない不安な日々も
たゆませちゃいけない糸がある
指と指、また交じえる日には
もう一度約束をしよう

今も笑顔の君を想いながら
誰かが愛するこの街で
元気でいます

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