コーヒー業界に蔓延る「インテリ風思考」という癌

 我々コーヒー業界の人間は何故か、自分を飲食関係だと思っていない。ラーメン屋や牛丼屋とジャンル上は同じ仕事という自覚がない、もしくは、気づかないふりをしている。
 いや、コーヒー屋としての特殊技能がある点で普通の飲食とは違う。我々には接客や抽出、焙煎の技術がある。と反論があるかもしれない。
 なるほど、しかし技能面を差別化にあげるとするならば、牛丼屋と私達の間に賃金格差がないことはすなわち「我々の技術に金銭的価値がない」ことを意味するだろう。
 考えれば考えるほど、我々の仕事には他の飲食とそれほど違いはない。他の飲食と比べても、賃金だけで言えば最低層に位置する仕事だ。

 しかしバリスタと呼ばれる人たちはなぜか「インテリ風思考」でいたがる人が多い(俺もそうか!)。
 インテリアやサステナブルファッション、環境やジェンダーなど、金銭的に余裕のある人と同じ趣味性で“ありたいと思っている”人が多い。アルバイトとして雇用されている人がほとんどの業界で、これは不思議な現象だ。
 「インテリ風思考」とここで書く理由は、それがほとんど実質的には中身のないものだからだ。アフリカの農園で搾取されている人のために!と言うが、日本国内でバリスタとして搾取されている現実を告発する人はいない。ジェンダー問題是正!と叫ぶが、バリスタの女性採用率の高さ、ルックス重視採用に声を上げる人はいない。

 本来インテリ層は命がけだった。知識と、暴力と、野心と、活力がみなぎる若者だった。警察とぶつかり、眼前に横たわる人生を変えたかった。目的のためには犠牲が必要だったし、失われる命も多かっただろう。もちろん、それ自体が良いこととは言わない。
 ただ、我々は何も失おうとしていない。他人事のように、無責任に、それらしいことを声高にInstagramのStoriesで呟き、満足している。

 大体のバリスタは「生きる権利を与えられた人」だ。実家は東京で裕福。若くからカフェカルチャーを知り、生きていくために働いているわけじゃなく、ルックスもそれなりによい。能力も充分ある若者。僕は肌感覚としてこのような人が多いと思っている。
 その人にとって、例えば、コーヒーが大好きだが顔が悪く、ドモリ症で、金銭的余裕はなく、自分に自信ない。こんな、そもそも採用されない人の苦しみはわからない。だって、あなたは色々とラッキーで採用されただけだから。実家が金持ちで、ルックスもそれなり。自分に自信があるから喋りもうまい。あなたが貧乏で不細工だったらまた人生は変わっただろう。それを想像したことはあるか。

 あなたが本当に「インテリ思考」なら、コーヒーを仕事にしていきたい人のために働くべきだ。眼の前で仕事を失い、「インテリ風思考」である余裕のない人のために声を上げるべきだ。あなたは自分のブランドのために意見のポジショニングをしていないか。「アフリカの搾取されるだれか」の前に、手を差し伸べるべき眼の前の人はいないか。あなたは現実から目を逸らし、誰かが変えてくれるものと思っていないか。

 今の東京で、最低賃金でフルタイムで働いて稼げる金額は大体17万円。税金を払い、家賃を払い、こんな賃金で何ができるのか。北欧ビンテージのスツールなんて、一生買えるわけがないだろう。あなたはまた明日も「インテリ風思考」で誰かを殺し続けるのか。次の犠牲者はあなたかもしれない。

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