農業界のポジティブな流れを加速させたい。映画『百姓の百の声』レビュー
”生産現場=百姓の国”に行った時のことを追体験している感覚の映画だった。
コントロールできない自然や日々の仕事に向き合うワクワク感。
生産者の真剣な戦いを見る血が激る感じ。
わー、現場ってこういうこと!!!!
スーパーカブ(原付)で集落を走り回り、農業に活きる技や知恵をまとめた雑誌『現代農業』の「目」を通してみる百姓の国を巡るドキュメンタリー映画『百姓の百の声』との、出会いとレビューをまとめます。
【映画『百姓の百の声』2022年11月5日〜順次公開!】
この映画は上映会と一緒にトークセッションイベントや交流会を開催しておりますので、「NIPPON TABERU TIMESの記事を読んだよ!」と柴田監督や製作スタッフの方と語り合ってくれたら嬉しいです。
文:田丸さくら
柴田昌平監督と現代農業編集長との出会い
8月末。現代農業編集長・石川啓道(いしかわ・ひろみち)さんから1通のメールが。
「今秋、農文協が取材協力したドキュメンタリー映画が公開されます」。
石川さんは、NIPPON TABERU TIMESが長年活動している山形県小国町の高校出身。ということでご紹介いただき、2019年6月に小国町の米農家・井上昌樹(いのうえ・まさき)さんとトークセッションイベントを開催させていただいた仲。
映画の試写会のご招待と監督の取材をご提案いただいた時には久しぶりの連絡に胸踊りました!
柴田監督をお繋ぎいただいたところ……なんと2019年8月に開催した女性マタギ・蛯原紘子さんのイベントにご参加いただいた方でした!!
柴田監督との久しぶりの再会と現代農業の映画を楽しみに、試写会と取材にうかがいました。
正直レビュー
正直、だいぶニッチな映画。見始めた時に、生産現場LOVEな私でも思った(笑)。
映画の登場人物たちが目を輝かせて語るのは、「トマトは”東洋の赤ナス”と言われて食べる文化がなかった」とか「酸化しないりんごを作っている」とか「タラの芽の人工栽培のパイオニアだ」とか。
私は生産現場が大好きで、今まで100以上の現場に足を運んできたからすっごく面白いなと思ったけど、興味ない人は面白くないだろうなと(笑)。
けど逆に、未知の国だけど日々「食べる」ことを通じて関わっている世界に足を運ぶ映画だから、食物を食べて生きている人(ほぼ全人類)が見て面白い!と思う映画でもあるのではと思う。
もう生産現場に関わっている人なら、現場を追体験している感覚や自分以外の現場でチャレンジしている人の姿に刺激を受けるはず。
国連の発表をベースにした農業の社会的立ち位置なども紹介されるので、農業の歴史や社会が捉えている農業の価値といった客観的な情報も知れて、本を読んだような学びもあった面白い映画でした。
上映中にぜひ見に行ってみて感想を教えてください。
(NIPPON TABERU TIMESで上映会が開催できないかお願いしてみようかな)
映画製作秘話
柴田監督は大学3年生の時に農村調査の授業がきっかけで一次産業が根付く「地域」社会に入り込んだ。そこから始まる体験から、この映画は作られている。
-柴田監督:
山梨県のとある集落に滞在して親族調査をしろ、という課題だったが、初めて会った人に「親戚は誰ですか?」と聞くのは失礼だろうと嫌でさぼった。その代わりおじいちゃんおばあちゃんたちとゲートボールをして夕方は子供と遊ぶ生活。そしたら「柴田ちゃん柴田ちゃん!」とどこに行っても可愛がってもらって。生き方の中に溶け込んだその生活が楽しくて。
休学して、その村で高原野菜作りを手伝いながらおばあちゃんの人生の聞き書きをしていて。
この時からずっと生産現場に興味はあって、この”点”の理解をいつか”面”にしたいと思っていたけど、接点なくやればやるほど点になる。その時にたまたま別の仕事で農文協の方に会いに行ったら、学生時代の友達がいて。その方を通して現代農業のチームに協力してもらいながら取材をさせてもらうことになった。その方が石川さんの上司だったから石川さんとも繋がって。
-柴田監督:
農業の根本にある、自然と向き合っているダイナミックな繋がりをハウス栽培でやってる人、稲作でやってる人……などいろんな人のところで見たかった。そういう点が集まる、マップを作っていきたかった。「百姓国」の住民の重要な何丁目何番地には行きたいなって感じ。点を増やしたい。それが今は面にはなっていないけど、色々な視点を見て理解を深めていくようなイメージです。
テーマで切り取るとそれに沿ったものにしかならなくて、テーマを持たずに後でテーマが出てくるようなものにしたくて。色々な分野に人を切り口なしに取材していった。
なんでこの映画に出ている農業者さんたちに取材したかというと、最初は「そこにいたから」(笑)。
その後にこういう知識を持ってる人を知りたいとか出てきたからそれで進めていった。
農業者さんの感覚って輪郭しかわかってないから言い切れないけど。
撮影は2020年に集中してやったけど、編集にとにかく時間をかけたね。テーマ性なく莫大な量を撮っているから。そこを現代農業の人たちが一緒に考えてくれて。「しばちゃん気づいてないけどここはこういう意味だよ」と撮った時には言語化できていなかったところを教えてくれて。
編集は現代農業の人たちがいないとこんな編集の仕方にならなかったと思う(笑)。
農業に興味がある人には心に残るって絶対自信あるけど、農業者さんにもおもしろく思ってもらえるんじゃないかな。
柴田監督のチャレンジと上映情報
柴田監督と意気投合したキーワードは「農業界のポジティブな流れを加速させたい」だった。
-柴田監督:
解決に向かってもがいているような映画になるかなと思ったら、農業に携わる人たちってどんどん課題は解決しているというか、色々な工夫をしていて。ポジティブな空気しか流れていない。
「大したことないよ」「大変でさ」を挨拶言葉に使うけど、それの裏はそうじゃない。知れば知るほど面白いって感じ。
課題解決だと企画書は通りやすいよね。「こういう課題にこうアプローチしてます」って紹介しやすい(笑)。
こんなディスカッションが生まれることがこの映画の面白いところ。
そして柴田監督は映画を通じて、これをもっと広範囲で巻き起こしている。
全国に足を運び、上映会を予定しているのだ。その上映会には、トークセッションイベントと交流会がついている。
実は高校時代から映画製作を趣味でしている私。映画はただ見て感動や気づきを与えるだけでなく、会話や次にすすむアイディアを作れるものなんだよな、と新しい発見でした。
お近くで開催される際は、ぜひ足を運びこの記事を読んだ!と柴田監督や製作スタッフの方にお話ししてみてください。
【上映情報】
(製作会社・プロダクション・エイシアの案内より)
■ポレポレ東中野(東京)上映延長決定~12/16終了
12/2まで 10:00上映
12/3~9 9:30上映
12/10~16 20:30上映
■第七藝術劇場(大阪)
12/2まで 10:00上映
12/3・4 15:25上映
12/5~9 15:55上映
※11/26(土)・27日(日)監督と農家(近江田麗子さん)トークイベント
※毎日先着20名様に近江田さんのお米をプレゼント!
■京都シネマ(京都)
12/1まで 10:00上映
12/2~8 17:05上映
■高田世界館(新潟)
12/3~上映、終了日未定
※12月3日(土)座談会with監督&農家の皆さん
※12月4日(日)監督舞台挨拶
■シネマ・ジャック&ベティ(横浜)
12/10~上映、終了日未定
※12/10(土)、11(日)監督と農家・観客とのトークイベントを予定
NEWS!【前作『陶王子 2万年の旅』も同時上映】
■シネマ5(大分)
12/17~23上映
※12/17(土)18(日)は朝夕の回共、監督&農家の皆さんの舞台挨拶
■横川シネマ(広島)
12/23~
※12/24(土)監督舞台挨拶予定
■名古屋シネマテーク(愛知)
12/24~
※12/25(日)監督舞台挨拶予定
■長野相生座・ロキシー(長野)
2023/1/20~2/2上映
■円◎結(シネまるむすび)(岡山)
2/17~20、2/24~27
※2/25(土)監督舞台挨拶予定
<公開が決まっている劇場(11月現在)>
シネマディクト(青森)/フォーラム山形 / フォーラム福島
シネマテークたかさき(群馬)/ シネ・ウインド(新潟)
シネマ尾道(広島) / 萩ツインシネマ(山口)YCAMシネマ(山口)
シアター・シエマ(佐賀)/ Denkikan(熊本)/ガーデンズシネマ(鹿児島)
掲載以外の地域でも決まり次第、映画公式サイトでお知らせいたします。
柴田監督はnoteでも情報発信をしております。ぜひ合わせて読んでみてください。
追記:上映情報(2023年2月1日以降)
映画『百姓の百の声』は今年も各地で上映していきます。
たくさん寄せられる感想から、学生の声をご紹介します。
皆さま、お近くの劇場がございましたらぜひご覧ください。
プロデューサー 大兼久
『百姓の百の声』公式サイト
■ Denkikan(熊本)
1/27~2/2
◎1/28(土)監督とゲストによるトークイベント予定
■ガーデンズシネマ(鹿児島)
1/28~2/3 ※1/31休館
◎1/29(日)監督とゲストによるトークイベント予定
■長野相生座・ロキシー
1/20~2/2
■フォーラム山形
2/3~9 ※1週間限定上映
◎2/4(土)監督とゲストによるトークイベント予定
■フォーラム福島
2/3~9 ※1週間限定上映
◎2/4(土)監督とゲストによるトークイベント予定
■チネ・ラヴィータ(仙台)
2/3~9 ※1週間限定上映
◎2/5(日)監督とゲストによるトークイベント予定
■エイシア映画広場(東京)
2/10 ※1日のみ
◎以後不定期に上映予定
■新宿・野鳥の森シアター(東京)
2/11 ※1日のみ
◎以後不定期に上映予定
■円◎結(シネまるむすび)(岡山)
2/17~20、2/24~27
◎2/25(土)監督舞台挨拶予定
■宝塚シネ・ピピア(兵庫)
2/17~2/23 ※1週間限定上映
■シネマアミーゴ(神奈川)
2/19~3/4
■シネマ尾道(広島)
2/25~3/3
◎2/25(土)、26(日)トークイベント予定
■シネマテークたかさき(群馬)
3/3~3/9
◎3/5(日)監督とゲストによるトークイベント予定
■シネ・ウインド(新潟)
3/4~3/17
◎3/4(土)監督とゲストによるトークイベント予定
■YCAMシネマ(山口)
3/4~5、3/11~3/21 ※3/6~3/10休館
◎3/4(土)プロデューサーとゲストによるトークイベント予定
■萩ツインシネマ(山口)
3/4~
◎3/5(日)プロデューサーとゲストによるトークイベント予定
■シネマディクト(青森)
3/18~
◎監督とゲストによるトークイベント予定
■KBCシネマ1・2(福岡)
3/21(火・祝) ※1日限定上映
■シアター・シエマ(佐賀)
3/24~3/30
◎3/25(土)監督とゲストによるトークイベント予定
■日田リベルテ(大分)
3/25~
◎3/26(日)監督とゲストによるトークイベント予定
■深谷シネマ(埼玉)
3/26~4/8 ※火曜休館
◎3/26(日)プロデューサー舞台挨拶予定
掲載以外の地域でも決まり次第、映画公式サイトでお知らせいたします。
【自主上映会スタート】
自主上映会をしてくださる皆さんも動き出しています。
映画館での上映予定が無い地域では、2月から受付を始めます。
詳細は2月上旬に公式サイトでお知らせいたします。