飲酒がもたらすダイエットへの影響



1.体重増加の原因はアルコールではなく食べ物にある?


アルコールを嗜む人であれば一度は考えたことがあるだろう、アルコール摂取と体重増加との関連性。今回はダイエット中での飲酒をテーマに、体重増加との関連として語られることの多い、いくつかの意見を紐解きながら「酒は太るか否か」の疑問について整理していけたらと思う。

  • 「蒸留酒は太らない」

  • 「アルコールはエンプティーカロリーだから太らない」

  • 「太る原因は酒ではなく食べ物である」

  • 「糖質ゼロは太らない」

結論、「消費カロリー>摂取カロリー」の法則に反する飲み方をすれば、食事や酒類の内容に問わず、体重は例外なく増加する。

今回は、詳しい体重増加のメカニズムやダイエット法については割愛するが、体重増加の前提として、「人間は1日の消費カロリーに対して摂取カロリーが上回ることで、体脂肪として蓄積され体重増加に繋がる」というのがダイエットの基本となる考え方で、本テーマを考える上でも外すことのできないセオリーである。

ビールや日本酒に含まれる糖質は1gあたり4kcal、酒に含まれるエタノールは1g当たり7.1kcalの熱量を有するとされ、酒類や食事の内容に問わず1日の総摂取カロリーが消費カロリーを上回れば、例外なく体重増加へ繋がるとの整理になる。

2.アルコールはエンプティーカロリーだから太らない?


酒は太らないと言われる理由の一つとして「アルコールはエンプティーカロリーだから太らない」と語られることが多いが、エンプティーカロリーとは本来、「カロリーは高いが体に良い栄養がほとんど含まれていない」との意味が正しく、「カロリー自体がゼロである」との解釈は誤りである。

酒の主成分であるエタノールは、前述の通り体に良い栄養素を殆ど含まないため、飲酒時でのアルコール代謝の過程で優先的にエネルギーとして消費され、エタノールに含まれるカロリーの内70%は、体内に蓄積されず基礎代謝として燃焼されるとされている。

しかし、上記の根拠を含みとしても、酒に含まれるエタノールだけでも30%は内臓脂肪として蓄積される計算になり、酒類によってはエタノールだけではなく糖質も含まれ、飲酒の量も個人差があることを前提におけば「太る原因は酒ではない」「酒は太らない」と断言できないことが分かる。

3.アルコールによる食欲増進作用の切り分け


これまでの通り、酒に含まれるカロリーだけでも太る要因としては十分と言えるが、飲酒中に揚げ物や味の濃いつまみ、締めのラーメンを欲した経験があるように、アルコールには様々な食欲増進作用があり、体重増加の可能性を更に高める。そこで食欲を増進させるさまざまな要因を紐解いていく。

3−1.低血糖状態での食欲の増進

酒を含んだ場合の食欲増進作用の一因として、アルコールの代謝に伴う血糖値の低下が関係している。

通常の場合、体内に迎えられた糖質は胃や腸から吸収され、肝臓でブドウ糖へ分解される。ブドウ糖へ分解されると血糖値が上がり、血糖値の上昇をもって満腹中枢が働き摂食を抑制し、満腹を感じるというのが基本的なメカニズムとなる。

しかし、飲酒時には摂取した糖質の分解よりも、肝臓でのアルコールの分解が優先され、飲酒の量やペースによってはアルコールの代謝が間に合わず、体内のグルコースが不足し低血糖状態となり空腹を感じる。

また、飲酒時での低血糖状態による「空腹感」は、通常時よりもグルコースわやその他の栄養素が不足した状態であり、通常時とは異なる過度な摂食に繋がる可能性が高いことから、太る一因であると言える。

3−2.利尿作用による必須栄養素の欠乏

酒の主成分であるエタノールには利尿作用が含まれ、最大で飲酒分の1.5倍の水分を排出し、水分不足を引き起こすとされる。また、水分と共にナトリウムやその他の電解質も排出されるため、不足分を補う反応として「水分」や「塩分」に併せて、先述の「炭水化物」を含む、ラーメンやカレーなどの料理が締めの食事として選ばれやすい傾向に紐づく。

3−3.アペリティフ効果が食欲を増進させる

アペリティフとはフランス語で「食前酒」を指す言葉で、「食欲をそそるために食前に飲む酒」と定義されているが、ビール・日本酒・ワインなどの醸造酒には「アペリティフ効果」と言われ、他の酒類には存在しない、独立した食欲増進作用が認められている。

僕の身近では、最初の一杯目でビールを飲む人が多いように感じるが、ビールには胃酸分泌や消化管運動の亢進作用があり、これらの作用もアピリティフ効果をもたらす一つの要因だとされている。

ビールに含まれるホップなどの成分は、胃のG細胞を刺激しガストリンの分泌を促進させ、ガストリンは胃のECL細胞からのヒスタミン分泌を促し、放出されたヒスタミンが壁細胞のH2受容体を介して胃酸分泌を亢進する。

また、ビール以外の醸造酒も胃酸やガストリン分泌、消化管運動を亢進するとされるが、醸造酒以外では同じ作用が認められず、これらの作用が醸造酒に限定されることから、アペリティフには醸造酒が適しているとされ、食欲増進作用には醸造酒のコンジェナー(アルコールや水以外の成分)が関与するとされている。

3−4.人工甘味料の落とし穴

飲みの席でサワーやカクテルを選ぶ人も少なくないと思う。しかしそれらには人工甘味料を含む可能性があり、人工甘味料が味覚に及ぼす生理的な反応が、過食行動に影響を与える可能性がある。

砂糖との比較で数百倍の甘みを持つ人工甘味料が舌(味蕾)を刺激すると、味覚神経から大脳の味覚中枢へ情報が伝達され甘みを感じる。そして、脳では「甘いもの(糖質)」として認識され、血糖値上昇のシグナルが発せられるが、実際には人工甘味料で血糖値が上昇することはないため、脳と身体との間で認識の乖離が生じ混乱を生む。そして、それを是正する働きとして摂食中枢が活発になり、食事摂取量を増加させると考えられている。

また、人工甘味料は摂取カロリー自体を抑えダイエットに寄与すると言われているが、最近の多くの研究では人工甘味料を使用した食品や飲料水を日常的に摂取し続けた場合、糖尿病や肥満になるリスクが格段に高まると明らかにされた。

4.終わりに


これまでの通り、飲酒がもたらす体重増加への要因は多岐に分布し、飲酒の場で完璧に対処し切ることは極めて困難であることから、ダイエット中は酒を我慢することが何よりもベストな選択であると言える。

しかし、それでもダイエット中に酒を飲みたい人は、まず「消費カロリー>摂取カロリー」の原則として自身の基礎代謝とアルコールに対する許容量をしっかり把握できていることを前提として、血中のアルコール濃度・摂取カロリーのいずれも、自身の基準を超過させない範囲で飲酒を楽しむ必要がある。

また、あらゆる状況下に於いても先述の意志を貫ける人であれば、基本的にその他を考える必要はないが、僕みたいに意志の揺らぎやすい人は、開幕からアプリティフ効果を作用させない酒類の選択や、糖質や人口甘味料が含まれる酒類を選択肢から排除する必要性。アルコールの代謝に必要とされる糖質や蛋白質,ビタミンC,B1,などを予め十分に摂取し、アルコールの許容量を引き上げ食欲の増進を軽減する工夫など、各々の傾向に併せて離脱しない仕組みを作り上げる必要がある。

何はともあれ、酒について考える暇があれば運動しよう。

本気で痩せたいと思う人は、ダイエットに対するマインドから整えよう。

おわり。

参考文献
アルコールの吸収と分解
「お酒は太る」は本当か?
酒を飲むと喉が乾く理由
アペリティフ効果とビール成分
人工甘味料と糖代謝
アルコール体質と遺伝子の話
Does alcohol really lead to weight gain? Here’s the evidence


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