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連載「差押えコラム。未払金を取り返せ!③」 ー社長vs社員 未払い金を巡るドロ沼の話し合い編ー

※当記事は連載「差押えコラム」の第3回です。第1回から読む方はこちらです。

こんにちは!筆者の渡邉です。このコラムは、私がある会社から、未払いとなった業務委託料を回収するまでの軌跡を記録したものです。初noteでいきなり生々しい体験談ですが、記憶が新しいうちに共有できたらと思い、筆を取らせていただきました。
私のように「会社から給料が払われない」「クライアントがギャラを振り込まない」といった被害にあわれている方にとって、少しでも問題解決の手助けになればという思いで執筆します。
現在は無事に未払金を回収し、元同僚と新たに「合同会社Mauve(モーヴ)」という会社を立ち上げ、アプリケーションやWEBサイトの受託開発を行っています。
※Mauveでもnoteにてコラムを掲載しておりますので、よろしければご覧ください。
https://note.com/mauve_0210/

登場人物の紹介

私は2020年末から、アプリケーション等の制作会社(以下、A社)で、バックオフィスの仕事を業務委託というかたちで請け負っていました。
契約上はオフィス勤務を求められていたため、業務は原則オフィスで行っていました。この勤務形態が後々、解決策の道標になるため前述します。

登場人物 (2)

2021年2月3日 ― ベンチャーで働くなら給与未払いも覚悟するべき? ―

この日、A社では午前10時から未払いとなったままの業務委託料を巡る話し合いの席が設けられました。出席者はA社社長と私、栗田、田上、山本、野原の6名。

 この話し合いが始まる前に私は同席する山本と野原に、打ち合わせの録音と議事録の作成をお願いしていました。直観ですが、この件はどうも長引きそうな予感がしていたのです。(実際、問題解決まで半年近く時間を要しました...)

 最初に口火を切ったのは、社長の知人であり会社のさまざまな業務を請け負っていた田上でした。

「まず社長には、現在私たちに支払われていない業務委託料の状況をしっかり説明していただきたい」

これに対し社長は、

「会社の売上がたっていないわけだから、今すぐ支払えと言われても厳しいよ。 12月から営業に力を入れて、少しでも売り上げを伸ばすよう努力をしているけど、現状、業績は思うように伸びていない。私としては、こういう困難な時だからこそ、頑張っていかなければと思っている

と、支払いもできないが業務を停めるつもりもない様子。

 この場に出席したメンバーは、それぞれ業務内容も勤務形態も違います。そのため、田上と社長のやり取りが終わると、それぞれが思うところを順番に社長にぶつける流れになりました。

 現在週1日だけA社で働いている山本は、翌月(3月)からフルタイムでの勤務形態に変わる予定でしたが、現在のような経営状況ではそもそも、これまで通り勤務すること自体が難しいと伝えました。

 栗田も山本同様に、これまで通り業務を続けることはできないという意見でした。また彼は、社長がこれまで月1〜2回の頻度で沖縄へ出張していることに触れ、まずこういった無駄をなくすべきだと主張しました。

 次に田上が社長に対して、A社の財務状況の説明を求めたところ、社長はこう話始めました。

「個人的には今後も営業を拡充して、今いるメンバーとは一緒に業務を進めたいと思っている。とはいえ、仕事の結果が出ないまま雇い続けるのは厳しい。しかも、お金が支払われない限り働かない、なんて言うのはべンチャー企業で働くこと自体君たちには難しいんじゃないかな。
だから今後は、成果報酬でやっていきたいと思っている。成果が上がれば次の開発へ投資ができるし、成果に応じてプラスの報酬も検討している」

 私たちの下した「賃金が払われないならもう働けない」という決断を、社長はまるでベンチャー企業での働き方がわかっていない人間の甘えのように言うのですが、果たしてそうなのでしょうか。

 私はこの話を聞いて、社長は私たちを自分と同列の役員か何かと勘違いしているのではないかなと思いました。

 通常、企業の役員であれば共同経営者としてこうした話をされることもあるでしょう。しかし週1日のアルバイトである山本や野原は、まったく立場が違いますし、そもそも「ベンチャーだから賃金を支払えないこともある」といった理屈はあまりに人を馬鹿にした話です。

 世の中には事業規模のうんと小さい個人事業主でも人を雇う場合がありますが、もちろん雇用した労働力に対して報酬を支払うのは基本中の基本。「働いてもらったけど、会社の業績が悪いから今月は払えないや!」なんて、そんなこと軽々しく言っていいわけないのです。
そんな基本的なことさえできない人に、はたして会社を運営する資格はあるのでしょうか。

 さらに栗田は会社の借金を指摘し、それを知った上で人を雇って稼働させ、失敗したからといって一方的に成果報酬の契約に切り替えることは、そもそも会社の経営自体が成立していないのではないか? と、問いかけました。

 それぞれ言い足りないことは色々とあったけれど、いずれにしても全員が共通して求めているのは、現在稼働している分も含めた未払いの業務委託料の返済計画をきちんと書面で提示してほしいということでした。

ところが社長は、

「支払いのお金は工面するから、まずは渡邉さんと栗田さんの分を支払おう。その代わり、今後も勤務を続けるのが条件だよ

と、勝手な理屈を展開します。

 そもそも未払いの賃金の支払いと引き換えに、なにか別の条件を飲まなければならないというのはおかしな話です。

「社長は今のこんな状況になる前に、事前に私たちに相談をするべきだったと思います。私はいきなり営業職へ職種転換をさせられましたが、今でもまったく納得していませんし、もし職種転換を求めるのなら、先に稼働分を支払った上で今後の業務について相談するのが筋でしょう」

と、私は会社の経営状況を考えてもこのまま業務を続けるのは難しいことを率直に伝えました。

 そんな私の言葉に重ねるように田上も、

「まずはみんなに未払い分を払うことが先決だし、未払いの賃金の話と今後の経営戦略は別の話だ」

と、強く訴えました。

 私たちは、もし社長が支払わないなら今後の話し合いには応じないこと、場合によっては法的手段も辞さないことを繰り返し伝えました。すると、やっと社長の口から「契約は個人によって内容が違うから、それぞれ個別に話し合いをしたい。また1月稼働分は2月末(26日)までに必ず支払う」という約束を取り付けることができたのです。

 その言葉通り社長は、さっそくこの日の午後から個別の面談を開始しました。

 山本と野原は業務契約の解除を申立て、給料については期日通り振込むことで話し合いが終わりました。
 私は12月分の委託料をすぐ支払うよう求め、1月稼働分も約束通り2月末に振込むこと、そして委託契約の解除を申立てました。

 と、ここまでは何の問題もないのですが、社長は山本と野原が契約解除を申立てたのは、私が事前に2人に会社の風評被害(実際はただの事実なのですが...)を伝えたからだと言ってきたのです。

 要は、2人が辞めたのは私のせいだと言いたいわけです。

 社長の言い分はこうです。

「1月稼働者(主に山本、野原)に支払い遅延の可能性があると君が広めたせいで、会社は事業計画の見直しを余儀なくされた。実際は1月稼働者についてはまだ支払い期日前だったのだから、これは会社の情報漏洩だから責任を取ってほしい」

 社長は何としても私に非があるように仕立てたいようですが、そもそも最初に1月稼働者に対して情報提供をしたのは社長です。
 この破綻した理屈もさることながら、社長が私に要求した“責任の取り方”というのがまた驚きの内容でした。

 ① 完全成果報酬で契約を結び直し、営業活動をして欲しい。(実質タダ働き)
 ② 山本、野原に再度勤務してもらうよう働きかけて欲しい

とのことでした。

 私は①の要求は飲むことができないこと(タダ働きで働く理由はない)、②については社長の要望を2人には伝えるが、実際に働くかどうかは本人たちに決定権があることを伝えました。

そしてあらためて、現状のA社では雇用した各人の生活を支えることは無理だとを伝え、私は完全にA社を退社しました。

 しかし、もちろんこれで終わりというわけではなく、後に納得のいかない社長から感情論としか言えない反論が巻き起こり、それがきっかけで裁判事件にまで発展していくのです。

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