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血管性認知症は進行予防できる可能性がある

治療できる認知症

今回は治療できる認知症についてお話ししていきたいと思います。その中でもよく見かけるのが、血管性認知症です。血管性認知症は、脳の血管障害によって認知機能が低下する病気です(脳血管障害)。たとえば、脳梗塞が起こると、脳の血流が滞ります。脳出血では脳内の血管が破れて出血して、正常な脳が傷ついたり、血腫によって圧迫されることにより脳機能が低下します。症状は、障害された部位によって異なります。記憶障害、注意力や判断力の低下、前頭葉機能低下による衝動を抑える力が少なくなるなどの症状もあります。


他の疾患と見分けるポイント

まず血管性認知症は、複数の脳血管障害をきたしている病気で、その症状の出現時期と脳梗塞が起きた時期が一致することが重要です。階段を一段ずつ下がるように、症状が悪化します。
また、血管性認知症では、歩行障害が出現します。これは例えば片麻痺が起きる錐体路という脳の領域が脳梗塞や脳出血をきたしやすい場所だからです。小脳などの病変でバランスも悪くなります。
同じような症状をきたす病気を2つあげます。

・正常圧水頭症
これは、脳の周りにある脳脊髄液の産生と吸収のバランスが悪くなっておこる疾患です。特徴的な部位に脳脊髄液がたまりますので、CTやMRIで鑑別が可能です。ただ、専門医でないと診断がつかないこともよくあります。
・レビー小体型認知症
こちらも歩行の障害が良く出現します。ただ、起立性低血圧、便秘、嗅覚障害などの特徴的な所見がありますので、そちらをよく診察することで鑑別可能です。


予防の方法

一部の遺伝が関係する血管性認知症を除いて、予防ができるといわれています。それは生活習慣病が影響しているからです。
・高血圧
長期にわたる高血圧は、脳血管を傷害し、動脈硬化を起こします。そして脳梗塞や小さな血管病変につながると考えられます。
・糖尿病
糖尿病では、微小血管の障害が起こることが知られています。高血糖状態が続くと血管が傷つき、毛細血管の集まる腎臓や網膜、神経などに症状が現れます。
・心疾患
心臓病では、脳に十分な血流を提供することができなくなることがあります。また不整脈や心筋梗塞が起きていると、心臓の中で血栓ができて、それが脳に飛ぶ(塞栓症)ことで障害が起こります。
・脂質異常症
高いコレステロールレベルや他の脂質が血液中に長期間存在すると、余分な脂肪が血管の内壁に蓄積し、粥状の塊、つまりプラークが形成されます。この蓄積は比較的早期に起こり、もろくて破壊しやすい性質を持ちます。しかし、時間が経過するにつれて、これらのプラークは血管壁を厚くし、血流の妨げとなり、血管が詰まる可能性が高まります。
・喫煙
喫煙は、血管損傷と動脈硬化の主な要因となります。
・肥満
体重過多や肥満は、心筋梗塞や脳卒中を起こしやすい要因とされています。例えば、肥満は収縮期血圧の増加と関連があります。

事例

73歳男性Aさん
高血圧、糖尿病、脂質異常症あり。
身長163㎝、体重70㎏
15年前に妻と死別してから、独身生活を長く続けている。会社で高血圧、糖尿病、脂質異常症があるといわれて、しぶしぶ病院に通っていたが、あまり服用できていなかった。
退職してからは、健康診断も受けていなかった。
近所の人が、Aさんが外で転んでいることがあるとという話を地域包括支援センターにした。職員が訪問してみると、アルコール飲料や缶詰の缶が散らばっていた。髪の毛、ひげが伸び放題であった。尿臭あり。
包括職員は、かかりつけ医の先生の受診に同行した。認知症専門医に紹介され、血管性認知症と診断された。かかりつけ医は診療情報提供書の返信を元に介護保険主治医意見書を書いた。
要介護1となり、介護保険が利用できるようになった。小規模多機能型居宅介護を利用するようになった。毎日の服薬の確認と、食事の手配、週1-2回事業所に通って風呂に入ることができるようになった。部屋も小規模多機能型居宅介護の職員がぼちぼち片づけてくれている。
医療機関からは投薬はなかったが、血圧が下がり、糖尿病の値もよくなった。

複数の事例より創作



血管性認知症は、発症してからでも上記に対する治療を行うことで、進行が停止することがあります。なぜなら新たな血管障害が起こらなければ、障害は進まないからです。
冒頭の写真のスコットランドのジェームズ・マキロップさんは、私がスコットランドに滞在していた時に助けてくれた大切な友人です。ジェームズは59歳の時に血管性認知症と診断されました。現在82歳ですが、加齢に伴い少しずつ体力は落ちているものの、今でもパソコンを使用しながらオンライン会議などに出席しています。


血管性認知症の進行を予防するケア

血管性認知症では、先に述べたように治療可能な合併症がある場合があります。そのため、服薬管理が重要となります。
自宅での服薬状況の確認を行うために、薬剤師に訪問してもらうことを検討します。この訪問薬剤指導は、医師の指示があれば、通常は介護保険を利用しますが、介護保険利用者ではなくても訪問指導をしてもらうことが可能です。自宅にある服薬し忘れた薬の回収や調整、お薬カレンダーの導入。一人暮らしの場合は服薬支援ロボットを使用したりもします。
また家族による声掛けも重要です。医師に、1日の服薬回数を1回にしてもらうなどの工夫を依頼することもあります。
例えば、血圧が非常に高いとか、身体症状が強い場合は、医療保険の訪問看護を導入する場合もあります。ただし、介護保険を申請した後は、介護保険を利用して訪問看護を利用します。

介護保険が利用できるようになれば、訪問介護による服薬の声かけも受けられるようになります。また、通所サービスを利用してそこで服薬の確認をしてもらっている人もいます。
糖尿病や高血圧などのコントロールが難しい人は、訪問看護師によるバイタルのチェック、血糖値のチェックを行う場合もあります。家族に食事指導が必要な場合は、訪問管理栄養士に依頼することもあります。嚥下機能の低下がみられる場合は、言語聴覚士による評価を受けたり、耳鼻科や歯科医師で嚥下機能の評価の可能な先生に評価していただくこともあります。

運動も大切

運動は、血圧や血糖、脂質異常症、肥満についての改善が期待できます。ただ、一人ひとり症状が違いますので、主治医や療法士にリハビリ強度を決めていただいたほうが良いと思います。疲れやすさなどもありますし、心血管系の障害をお持ちの方も多いですので、医師に相談しながら進めましょう。生活の維持に必要な介護サービスが優先されますが、通所サービスの利用も検討してもよいと思います。ただし、高血圧や糖尿病、発熱症状が良くない場合は、利用をお断りされる場合もありますので、ご注意ください。そういうことが起きる場合は、訪問看護や訪問リハビリで対応するとよいでしょう。

血管性認知症の人は排せつの失敗を起こしやすい

血管性認知症の人の症状は様々です。生活の妨げになっている症状は、一つずつ個別に評価する必要があります。
ただ、アルツハイマー型認知症に比べて早期に排せつのコントロールができなくなる傾向があります。頻尿になることもありますし、トイレの直前で失禁してしまうこともあります。生活の質が著しく低下してしまいますのですぐに対処法を取り入れる必要があります。
排せつの失敗の要因も人それぞれです。排尿中枢、神経領域の障害、認知機能の障害による、失認や失行、意欲低下、うつ症状、アルコールなどが考えられます。医師や療法士、看護師と相談するとよいでしょう。
対応方法としては、上記の要因を取り除くこと、一人暮らしであれば、早めから自宅に入る支援である、訪問介護や訪問看護を利用するとよいでしょう。事例のように小規模多機能型居宅介護を利用すると日々のかかわりを持ってもらえるので良いかもしれません。専門職が介入することにより、自尊心を傷つけないようにリハビリパンツの導入ができる場合もあります。


医療と介護の連携が最も大切

血管性認知症は、発症予防や進行予防が可能な認知症です。症状が進行した場合はもちろん、血圧上昇や高血糖などが疑われた場合は、速やかに主治医に相談しましょう。
そうすることで、安定した生活を維持することが可能になる場合もあります🍀



認知症に関する書籍を執筆しています。10月に発売された新刊の「図解でわかる認知症と制度・サービス」では、認知症の症状、診断、治療だけでなく、認知症の人や家族が楽になる制度やサービスについてもコンパクトにまとめてあります。新聞が読める方には読んでいただけるぐらい平易な文章で書かれています。Kindle版もあります。よろしければ参考になさってください。

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