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記事にタイトルをつけるということ

最近は情報リテラシーについて考えているこーぞーです。
そう言いながら,最近だけじゃないかもしれません。

さて,この投稿ではタイトルの件について考えます。3900文字あるんで,お時間のある時に。

下の方で私から1問問題を出していますので,皆さんそれについてちょっと考えてみてください。中学校の社会科の授業みたいな問題です。実際私が中学校で生徒に問うたことがある問題なんですけど。

指導案を公開するわけではないですが,念のためこの投稿は「こーぞーの中学校社会科授業の紹介」のフォルダに入れておきます。

問 記事にタイトルをつけよう

中1の社会科,地理的分野のアフリカ州の学習で出題する問題です。一応ヘッダに世界地図を載せてみました。

以下に,2008年のケニアに関する,新聞でのとある報道を掲載しています。しかし,この記事のタイトルは伏せて,本文のみを掲載しています。
皆さんは以下の本文を読んで,この記事のタイトルをつけてみてください。

昨年12月の大統領戦後の混乱が続くケニアで1月31日、オディンガ党首率いる最大野党『オレンジ民主運動(ODM)』の議員が警察官に射殺された。29日にもODM議員の射殺事件があり、野党支持者らは反発を強めている。キバキ大統領の『再選』を機に始まったケニアの部族衝突は各地に拡大し、反目する部族同士による“民族浄化”の様相を呈(てい)してきた。
ODMのデビッド・トゥー議員は31日、西部の町エルドレットを乗用車で移動中、交通警察官に銃撃されて死亡した。警察当局は『警察官の交際相手の女性が議員の車に同乗していたため、逆上して発砲した』と発表したが、野党側は『政治的暗殺の疑いが強い』と主張している。
その2日前の29日には、ODMのムガベ・ウェレ議員が自宅前で何者かに射殺される事件があり、ODM支持者らは『政府の野党つぶしだ』と激高。各地で暴徒化し、治安部隊との衝突が相次いでいる。
選挙後、部族衝突による死者数は850人を超えた。当初はODM支持の中小部族が、各地でキバキ大統領と同じケニア最大部族キユク族を襲撃していたが、1月下旬からはキユク族の反撃も本格化した。
キユク族が多数を占める中央州や、中央州に近いリフトバレー州の町ナクル、ナイバシャでは『報復』を叫ぶ若者が、オディンガ氏と同じルオ族などを襲う事件が多発している。…(省略)…
〈ケニアの部族〉
ケニアには言語、文化の異なる42部族がある。最大のキユク族は人口の2割以上を占め、政財界の主流を握る。西部の有力部族ルオ族、24年間の強権政治を敷いたモイ前大統領と同じカレンジン族はそれぞれ約1割を占める。他に勇猛さで知られる少数部族マサイ族など。」
(読売新聞、2008年2月2日)

はい,タイトルをつけてみてください。
なるべく読み飛ばさないでください(笑)
考える時間は3分くらい?
ではどうぞ。







読みました?
考えましたか?


あー自分忙しいんでさっさとスクロールさせてもらいますね

※考えていない人はこれより下に進むと画面が 爆 発 します!

…そんなわけないんで。
ちなみに上のをクリックしても何も起きません(笑)
もし一番右をクリックした人がいたら,ページの下の方からサポートしてください(笑)


さて,皆さんどんなタイトルをつけるでしょうかね。

「警官が議員射殺 アフリカ・ケニア」とか
「大統領選後の混乱続く 死者数850人越え ケニア」とかですか?

では,実際に読売新聞は何とタイトルをつけたか。


それは
「ケニアの部族衝突拡大『民族浄化』の指摘も」 です。

皆さんどう感じますか?
私は違和感があります。

記事のタイトルが実態を表していない?

この記事を読むと,前半と後半で内容が違っているように読み取れます。
前半は大統領選後の混乱について,警官が議員を射殺するといった事件等について記述されています。
後半では民族間の対立についての記述です。

改めて記事のタイトルは「ケニアの部族衝突拡大『民族浄化』の指摘も」です。

このタイトルを付けるなら,前半部分はカットしても差し支えないはずです。多分,警官が議員を射殺するなど,日本では考えにくいことですから,そこで読者を引きつけて読ませる,というのを狙ったのでしょうか。

そもそも,『民族浄化』を指摘しているのは誰なのでしょうか。強いて言うなら記者でしょうか。記事中では,

警察当局「警察官の交際相手の女性が議員の車に同乗していたため、逆上して発砲した」
野党側「政治的暗殺の疑いが強い」
ODM(オレンジ民主同盟)支持者ら「政府の野党つぶしだ」

という発言が掲載されています。
これらは,議員や政治や政府についての発言であって,ここから「民族浄化」について書くというのは難しいでしょう。
民族浄化について書くなら「〇〇族に復讐する」「〇〇族を追い出せ」みたいな発言を拾ってくればいいと思うのです。

この頃のケニアの実態としては,記事中に紹介されている発言のように,政治的な対立による混乱が起きており,民族間の対立というのはそう大規模ではなく,「民族浄化」と言うようなものは起きていないのでしょう。
しかし,記者は民族間の対立を念頭に記事を書いた,と言ったところかと思います。多分,「〇〇族が~」という発言を取材で拾うことができなかったんじゃないでしょうか。

(余談)日本のアフリカ観

アフリカ州の授業を実施するために,色々と勉強しました。何冊か本を読んだのですが,かなり役に立ったものとして,白戸圭一氏の『日本人のためのアフリカ入門』があります。
白戸氏は当時毎日新聞の記者です。いつの間にか大学教授になっておられました…

白戸氏は,上記の読売新聞にもある2008年頃のケニアの様子について,民族間の対立ではないという見方をしています。
確かに,読売の記事にあるように,キユク人を襲撃する,と口にする人はいたようです。しかし,そのように暴動を起こす人というのはごく少数で,その少数の人も貧困層の若者のようです。この混乱は「格差」が生み出したものであると述べています。

ほかにも白井氏は,「部族」という表現が差別的な意味合いを含んで使われていること(白井氏は部族ではなく民族,〇〇族ではなく〇〇人と表記している),現代のアフリカ大陸における紛争は,だいたいが政治に由来するものであるのに,民族間の対立ということにされてしまっていること,アフリカは見下されがち,援助の対象ということに見做されがちであるということなどを述べています。

さて,授業の話はこれくらいにしておきます。

記事のタイトルだけを読むのをなるべくやめよう

よく言われることですが,メディアとの接し方には気を付けるべきです。
あるニュースに1,2行で見出しを付けると言うのは非常に難しいことであると思います。そして,そこにはしばしば読者の目を引くための思惑が込められているでしょう。週刊誌の記事の見出しなんかはわかりやすい例でしょうけど,新聞等でも時としてそう感じるものってありませんか?

本文を読むにしても,誰が何を口にしたのか,どういう文脈で言ったのか(切り取りっていうのもありますね),具体的にいつの話なのか,そもそも何の話なのか…いろいろと気を付けて読まなくてはならないです。

例えば,Twitter開いて,脇のニュースの見出しだけ読んで,タイトルだけ読んで「うわークソだわー」とか言いながら記事をリツイートというのはやめた方がいいですよ。

はい,だいたい言いたいことはここまでです。
一旦終わり。

長い余談

本論とはかなり話の内容が違うんで,以降はお読みいただかなくても大丈夫かと思います。

どうしてこの投稿をしたかと言うと,以下の件に関する報道で違和感を覚えたからです。

J2アルビレックス新潟の選手による酒気帯び運転に関わる記者会見です。
リンク先には議事録と動画があります。私は議事録を全部読んだんですけど,わりと長いのでお時間がある方のみで。

そして,翌日のNHKの報道です。

この件に関しては色々と突っ込みどころがあるのですが,今回の私の投稿はメディアの話なので,報道の仕方という点に絞ります。

このタイトルに「口止め」とあります。
議事録を読んでからだと,この表現に違和感を覚えました。適切ではないと思います。
この表現だと隠蔽しようとしたんじゃないかと言われそうですが,社長は記者会見で,この件は公表する気でいたと言っています。また,記者会見中「口止め」という表現は見られません。
「社長の言うことは信じられない,黙っているつもりだったんだろう」と言われたらそれまでなんですが。

また,記者会見のやり取りを見ると,新潟日報の記者さんの発言が目を引きます。口調が厳しく感じますけど,何だか結論ありきのような質問の仕方をしているように感じました。

会見に臨んだ是永(これなが)社長の発言は,この記事中にあるのは

是永社長は「書類送検されたら報告しようと思っていたが、飲酒運転をしたという時点ですぐに報告するべきだったと猛省している」と話しています。

ここです。

この発言を拾って見出しをつけるなら
「アルビ 所属選手が酒気帯び運転 社長 公表時期を逸した
ってところでしょうかね。

決して,社長は悪くないって言いたいんじゃないですよ。もちろん社長にはいくつかの過失があります。報道の仕方が適切でないと言いたいのです。

と言っても,この流れで「皆さん報道ではなく記者会見を見ましょう」とかは言いません(笑)それが一番確実ではありますけど,まとまってるわけではないですからね。
だから,メディア,マスコミの責任というのは大きいと思いますよ。

以上です。
本当に終わり。

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