記事一覧
『記者たち』 リバタリアンの映画評 #14
記者よ、政府を疑え
2016年の米大統領選挙でトランプ陣営がロシア政府と共謀して得票を不正に操作したという「ロシア疑惑」は実際にはなかったことが、モラー特別検察官の捜査によって結論付けられました。過去2年以上にもわたり大手メディアが洪水のように垂れ流してきたロシア疑惑報道は、フェイク(偽)ニュースだったことになります。
何がいけなかったのでしょう。米国の大手メディアが報じるロシア疑惑のニュース
『[リミット]』 リバタリアンの映画評 #13
政府は市民を守れるか
内戦が続く中東イエメンを取材するため現地に渡航しようとしたフリージャーナリストの常岡浩介さんが外務省から旅券返納命令を受け、出国を禁じられました。外務省側は「邦人保護」を理由に制限に出たとみられています。
市民の保護は政府の重要な役割だとされます。けれども私たちは身の安全を政府に任せて、本当に大丈夫なのでしょうか。『[リミット]』 (ロドリゴ・コルテス監督)はそのような問
『生きる』 リバタリアンの映画評 #12
官僚主義への抵抗
政府の統計調査に不正が発覚し、そのうえ、問題を検証する第三者委員会の聞き取りに、問題を起こした側の管轄官庁の幹部らが出席・発言していたことが明らかになるという、お粗末な出来事がニュースをにぎわせています。行政サービスの改善よりも組織防衛を優先する、官僚機構の正体をさらけ出した格好です。
日本を代表する映画監督で、世界にも影響を与えた黒澤明監督が生きていたら、さぞ憤ることでしょ
『パッドマン 5億人の女性を救った男』 リバタリアンの映画評 #11
資本主義は女性にやさしい
資本主義は男性中心の仕組みで、女性には冷たいと思っている人が少なくありません。けれども実話に基づくインド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』(R・バールキ監督)を観れば、その考えが正しくないことがわかります。
インドの田舎町で小さな工房を共同経営するラクシュミ(アクシャイ・クマール)は、新妻のガヤトリが生理の際に古布を使っていることを知り、市販のナプキンが高く
『デス・ウィッシュ』 リバタリアンの映画評 #10
銃規制への問い
米国で銃乱射事件が起こるたびに、銃規制の声が高まります。昨年2月、フロリダ州パークランドの高校で17人が死亡する銃乱射事件が起こり、3月に米各地で一斉に銃規制強化を訴える抗議デモが行われたのは記憶に新しいところです。
まさにその3月、銃規制の議論に一石を投じる形となった映画が米国で封切られました。『デス・ウィッシュ』 (イーライ・ロス監督)です。
銃犯罪が多発するシカゴ。外科
『ボヘミアン・ラプソディ』 リバタリアンの映画評 #9
アーティストという起業家
優れたアーティストは起業家の資質を持っています。製品(作品)に対する自分の直感を信じ、技術の専門家でなくても最新のテクノロジーに関心を抱き、何より最終消費者(観客・聴衆)を大切にします。
世界でヒットしている『ボヘミアン・ラプソディ』(ブライアン・シンガー監督)は、英ロックバンド、クイーンのリードボーカルで、エイズのため45歳で没したフレディ・マーキュリーの伝記映画で
『光あれ』 リバタリアンの映画評 #8
戦場なき反戦映画
先月、米西部ロサンゼルス郊外のバーで起きた銃乱射事件。事件後に自殺した容疑者の男(28)はアフガニスタンや沖縄県に派遣された元海兵隊員で、軍務による心的外傷後ストレス障害(PTSD)の可能性があるとみられています。
PTSDと名付けられたのは1978年のことですが、帰還兵が不眠、うつ、パニック発作、フラッシュバック、自傷行為などの症状に苦しむ現象は以前から知られていました。ハ
『あん』 リバタリアンの映画評 #7
最低賃金が奪うもの
マクロン仏大統領は、燃料税引き上げ方針をきっかけに反政府デモが全土に広がったことを踏まえ、来年1月から最低賃金を月額100ユーロ(約1万3000円)引き上げるなどの対策を発表しました。
最低賃金を引き上げると企業が新たな雇用に慎重になり、若者など職のない人から就労のチャンスを奪うことは経済学のイロハです。にもかかわらず、労働者にやさしい政策だと誤解している人が日本でも少なく
『マイノリティ・リポート』 リバタリアンの映画評 #6
テクノロジーと政府権力
人工知能(AI)や生体認証など新しいテクノロジーが登場すると、市民生活に対する脅威として警戒する声が上がります。けれども問題は技術そのものではありません。テクノロジーが社会にとって脅威となるのは、政府権力と結びついたときです。傑作『マイノリティ・リポート』(スティーヴン・スピルバーグ監督)は、その真実を描き出します。
近未来の米国。首都ワシントン市では凶悪犯罪を防ぐため
『百万円と苦虫女』 リバタリアンの映画評 #5
自由は弱者にやさしい
自由は「強者の論理」だと思っている人が少なくありません。けれども実際は違います。むしろ自由ほど弱者にやさしいものはありません。『百万円と苦虫女』(タナダユキ監督)を観ると、それがよくわかります。
21歳の鈴子(蒼井優)は、たまたまルームシェアすることになった男から、拾った子猫を捨てられたことが許せず、男の荷物をすべて廃棄。ところが器物損壊で刑事告発され、罰金20万円の刑を
『華氏119』 リバタリアンの映画評 #4
政治への幻想
私たちは何か社会問題が起こると、政治に期待しがちです。「政府が何とかするべきだ」「政治の力で解決してほしい」と声を上げます。政府はそうした声を受け、待ってましたとばかりに法律を作ったり規制を強化したりします。けれどもそれは正しくありません。世の中に政治の力で解決できる問題はほとんどないし、政府の介入はむしろ問題を悪化させます。
ドキュメンタリー映画『華氏119』(マイケル・ムーア
マンガ評『フルーツ宅配便』——性産業というセーフティネット
フランスでは初となるセックスワーカー(性労働者)のための祭典が11月初め、パリで開催された。セックスワーカーたちの権利向上とともに訴えたのは、政府の規制強化に対する批判だ。
フランスは2016年4月の売春法改正で、買春した客に最高1500ユーロ(約19万円)の罰金を科す罰則を導入した。再犯なら倍額以上の罰金が科される。
AFPの報道によれば、セックスワーカーの労働組合「STRASS」の広報担当
マンガ評『心の迷宮』——人生とは投機の連続
投機という言葉は評判が悪い。マネー系のコラムなどでよく見るのは「投機と投資は違う」という解説だ。「長期での収益拡大を見込んで資金を投じるのが投資、短期的な値動きに着目して利益を得ようとするのが投機」などと区別し、リスクの大きな投機でなく、堅実な投資を心がけましょうとお説教する。
けれどもこの解説は、長期と短期の区別が曖昧だし、投機は投資よりリスクが大きいとも限らない。東証1部上場の有名企業の株を
マンガ評『魔王などがブラック企業の社長になる漫画』——業務改革の特効薬
今、世の中で一番の嫌われ者といえば、ブラック企業だろう。ネット上で叩かれない日は珍しいくらいだ。先日も台風の中、出社を強制するブラック企業があるといってさかんに非難されていた。
最初に断っておくと、労働条件の悪い会社を安易にブラック企業と呼び、やたらとバッシングする風潮を私は良くは思わない。
もちろんそこで働く人は不満や怒りを抱えるだろう。しかし外野からブラック企業のレッテルを貼られてイメージ
マンガ評『お金さま、いらっしゃい!』——「お金が社会を分断する」は嘘
佐藤航陽『お金2.0』(幻冬舎)がベストセラーになるなど、お金に対する関心がこれまでになく高まっている。終わりの見えない超低金利、福祉政策への不安、仮想通貨のブームなどが背景にあるようだ。
さまざまな文化人、著名人がお金について論じる。けれどもたいてい似たり寄ったりだ。「お金だけで幸せにはなれない」「お金は貧富の差を作り出す」「お金のない社会のほうがいい」といった否定的な意見か、逆に「愛だって金
『日日是好日』 リバタリアンの映画評 #3
かけがえのない時間
時間のとらえ方には二種類あるといわれます。直線の時間と円環の時間です。西洋ではキリスト教の影響から、時間が世界の始まりから終わりまで一直線に進むと考えるのに対し、日本では一日や四季が繰り返すように、時間は円を描くように繰り返すと考えられてきたといいます。けれども時間は繰り返すと考える文化の下にあろうと、一人一人の人生にとって、時間はかけがえのないものです。
『日日是好日(に